自己紹介
男性の胸の中でひとしきり泣き腫らした朱莉。
その間、男性は無言で彼女を抱きしめ、その頭を優しく撫で続けた。
爆発した感情が、波が引くように鎮まっていった時……朱莉は自分の状況に気がついた。
(は、早く離れないと……)
そう思って離れようとした時、ポタリと頭に何かが落ちてくるのを感じて、視線を少しだけ上に向ける。
視線の先では、目の端に少しの涙を浮かべている男性の顔が見えた。
(この人も私と同じように寂しかったのかな?)
初めて会った名前も知らない男性。
ひょっとしたら、それは朱莉の勘違いだったかもしれない。
だけど、そうかもしれないと思った朱莉は無理に離れようとはしなかった。
こうしてお互いに無言で抱きしめ合う時間が暫し続いたのであった。
その静寂の時間を引き裂いたのは、スマホから流れるメロディーであった。
「あ、ごめん」
「あ……もう大丈夫ですから」
どちらともなく距離を離し、男性はスマホの画面をチェックする。
背中を向けた彼は、何だか話しかけづらい雰囲気を出していたのは気のせいではないだろう。
だが、チェックを終えてこちらを振り向いた彼は先ほどと変わらない笑顔を朱莉に向けた。
「ごめんね。
あ、カフェオレのお代わり入れるよ。
沢山水分出しちゃったでしょ?」
そう言って男性はまたテーブルから離れていった。
そこで初めて辺りを見渡す機会に恵まれたのだが、リビングは驚くほどに広く、朱莉の実家のリビング以上である。
そして、驚くほど清潔に保たれている。
上京する前に試しにネットで検索した、タワマンの一等地のようであった。
「お待たせ。
はい、お代わりと……これ、少し濡らしてきたタオル。
目、腫れちゃってるから、これで拭くといいよ」
「何から何までありがとうございます。
……あ、えっと……」
「ああ、自己紹介がまだだったね。
僕の名前は津田宗介だよ。
ただ、苗字はあまり好きじゃないから、呼ぶのは下の名前にしてくれると嬉しいかな」
「宗介さんですね。
私の名前は本間朱莉です」
「朱莉か……うん、いい名前だね」
「あ、ありがとうございます。
そ、宗介さんもいい名前だと思います」
「はは、お互いに気にいる名前で良かった。
ええっと、それじゃ気になってると思うし、何で朱莉が僕の家にいるか話そうか」
「はい、よろしくお願いします!」
こうして宗介はこれまでの経緯……朱莉が道端で倒れていたのを発見して保護したことを明らかにした。
服に関しては朱莉が倒れた事で汚れてしまっていた為に脱がせて洗濯した事。
代わりに自分のシャツを着せた事を説明され謝罪されたのだが、朱莉としては寧ろ世話を焼いてもらったので改めて謝罪をしたのであった。