心の限界
「そ、それで、あ、あのですね……」
考えがまとまらないせいで吃りながらも言葉を引き出そうとしたのだが、それを遮るようにグゥ〜というお腹の音が鳴ってしまった。
「プッ……いや、ごめんごめん。
とりあえず先ずはご飯を食べてからにしようよ。
冷めたら勿体無いよ」
「は、はい……頂きます」
「はい、頂きます」
2人で頂きますといい、とりあえずコーンスープを口に運んでみる。
(お、美味しい!)
そこからは夢中になって朝ごはんを食べていた朱莉。
朝からボリューム多めと思われた食事も、あっという間に無くなっていく。
コップの中のカフェオレを飲み終えて一息ついた時、男性の笑い声が近くで聞こえて我に帰る。
「はい、お代わりどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
気付かないうちに男性は新しいカップにお代わりのカフェオレを注いでくれたらしい。
そんな男性側のテーブルを見ると、彼の皿も既に空となっていた。
「あの……とっても美味しかったです。
本当にありがとうございます」
「こちらこそ。
こうして誰かと一緒に食事を取るのは久しぶりだったから、いつもより美味しく感じられたよ」
(誰かと一緒に……確かに久しぶりだ)
田舎にいた頃は当たり前のように家族と食事をしていた。
もちろん、その中に圭太が混ざることもしばしばである。
そんな日々が急に終わりを告げ、慣れない都会で1人寂しくご飯を食べる日々。
それも時間に追われてゆっくりも出来ず、コンビニやスーパーで買った出来合いの物で済ませることも少なくなかった。
こういった所も愛梨の心を弱らせていった要因であろう。
(こうして誰かと一緒にご飯を食べるなんて本当に久しぶり……知らない相手のはずなのに心がポカポカする)
心に温かいものを感じた朱莉は完全に油断していた。
弱った心に強い栄養が流し込まれた朱莉。
その弱り切った感情は、彼女の瞳を通じて、涙という形で外へと排出されていく。
「え、だ、大丈夫!?」
朱莉の涙を見た男性は、先程までの余裕が嘘のように狼狽え始めた。
「だ、大丈夫です……す、すぐに止ま……」
何とか止めようとするも、あたふたとしながらも心配する男性が可愛く思えて、本気で心配してくれているのが分かると更に心が温かくなって……そうして遂に朱莉の瞳のダムは決壊してしまった。
「ご、ごめんなさい、すぐに、と……うわあああああ」
何とか溢れてくる感情を押し込めようとするが全く止まらない。
遂に彼女は大きな声で泣きじゃくり始めてしまった。
目を瞑って大泣きする朱莉……そんな彼女を何かが優しく包み込んだ。
「大丈夫……大丈夫だから。
今は思いっきり泣いてスッキリしよう」
その優しい何かは男性であった。
彼は泣きじゃくる朱莉を優しく抱きしめる。
そんな彼の優しさと温かさに包まれた朱莉は更に大泣きし、気付けば彼を背中から強く抱きしめていたのだった。




