エピローグ:後悔先に立たず
10/19 14時ごろ あとがきを書き加えました。
「お父さんもお母さんはしゃいじゃってごめんなさいね」
「僕たちの結婚をこんなに喜んで貰えたんだから嬉しさしかないさ」
朱莉と宗介は二人で庭を見ながら穏やかな時間を過ごしていた。
「ふふふ、親孝行できたかな?」
「こんなに喜んでくれてるんだから、朱莉は最高の娘だと思うよ」
「それなら宗介さんは最高の息子になっていると思いますよ」
「そう思ってくれてるなら嬉しいな」
宗介の言葉には、心からそう思っている実感が込められていた。
それもそのはずで、彼の両親は既に他界しているらしく、厳しい芸能界を一人で生き抜いてきていたのだ。
そんな彼が幸せな家族を築き、良き父と母に巡り会えた…‥その幸運に心から感謝していたのであった。
「宗介さん……私、最初に出会った時に東京を嫌いになったって言いましたよね」
「うん…‥でも、僕は生まれ育った街を嫌いのままでいて欲しくなかったから。
だから朱莉をデートに誘ったんだ。
今考えたかなり強引だったけどね」
「ふふ、そのおかげですよ。
その強引さのおかげで私は学業もついていけるようになって、良い友人にも出会えて……そして、この世界で一番愛している人に巡り会えたんです。
だから、今はあの街が故郷と同じくらい……ううん。
故郷以上に大好きです」
「僕も……朱莉を産んでくれたこの故郷のことを自分の街以上に好きになれそうだよ」
お互いに回りくどい告白をし、どちらともなく顔を近づけて口づけを交わす。
こうしてお互いに幸せを噛み締める時間を満喫し……やがて更に時は流れていった。
結婚を機に少しずつ芸能界に復帰していった宗介。
彼は何よりも家庭を大事にするマイホームパパとして、休暇前とは違うファン層を獲得してその地位を確固たるものに築き上げていった。
朱莉はその後、二人目の子宝にも恵まれ、旦那を陰日向に支える良妻賢母として密かに話題になっていた。
決して表舞台に立つことはないのだが、何かにつけて宗介が褒め称えて感謝を述べるため、芸能界随一のおしどり夫婦として有名になったのである。
そして……
「あ、おばさん……こんにちわ」
圭太は変わらずに田舎で暮らしていた。
結局、二浪しても大学には合格せず、おとなしく家業である農家を継ぐことになったのであった。
「あら、圭太くんじゃない。
あ、そうそう、これ見てよ」
圭太と挨拶を交わした朱莉の母は、今年送られてきた年賀状を彼に見せた。
その年賀状の裏には宗介と朱莉、そして2人の子供の幸せそうな写真が載せられていたのである。
「本当に朱莉ってば最高の旦那さんを見つけてきたんだから。
そう言えば東京に行くのは圭太くんが後押ししてくれたんですって?
本当に感謝しかないわ」
「は、はは……そっすね。
あの、俺、家の手伝いがあるんで……」
「あら、引き留めてごめんなさいね。
圭太くんも早くいい人が見つかるといいわね」
何気ない朱莉の母の言葉が心に刺さりながら……圭太は暗い気分のままで家に帰るのであった。
あの時、後押ししなければ……東京に行く前に告白しておけば……そんな後悔を抱えながら。
これにて完結です。
お読み頂きありがとうございました。
何となく恋愛小説を書いてみたいと思い至り、かと言って普通に書いても面白くないので変化球を投げてみたわけですが、そこそこに読んでもらえたみたいで感謝しかありません。
この物語の主人公は作者としては圭太です。
ただし、物語の主人公が何もしなかったらどうなるのか?そういうコンセプトです。
当然ながら、今回のような横から出てきたイケメンでヒロインを誰よりも想っているスパダリに掻っ攫われる事になってしまいますね。
感想で感情移入できないというご意見を頂きましたが、上記のように現実的にありえない恋愛を成就させた2人と、現実的だけど惨めな結末を迎えた1人に対しては当然の視点かと思います。
ぶっちゃけた話、作者も感情移入は出来ません。
あくまで外側から見て楽しんでもらえたなら幸いという作りになっております。
そうして面白かったと感じてもらえたなら幸いですし、つまらなかったなら仕方ないかと思います。
今後もこのコンセプトでの案を幾つか考えているので、先の話ではありますが、またお付き合いいただけたら嬉しいです。
重ねての感謝となりますが、最後までお読み頂きありがとうございました。




