BSS
「はぁ〜暇だなぁ……なんか面白い事起こらないかな」
年末、バイトも休みとなり、こんな日に勉強をしていても身につかないのでとりあえずテレビを見ていたのだが、退屈な特番は全く印象に入ってこない。
大きなあくびを一つした時、突然玄関の扉が勢いよく開かれる音がした。
「圭太!何でお母さんに言わなかったの!?」
「は、お袋…‥何の話?」
突然帰ってきた母親はその勢いのままに俺の元へやってきて肩をガクンガクンと揺らす。
「何って朱莉ちゃんの事よ!」
「朱莉って……もしかして帰ってきてるのか!?」
「あら、あんた、それさえも知らなかったの?」
俺の答えに母親は拍子抜けとばかりに肩を揺らす力を抜いた。
「いや、なんか忙しいみたいで最近連絡がなくてさ」
「あんた、それって……ううん、いいわ」
母親の言葉に答えた俺の言葉に、なぜか全てを悟って可哀想なものを見るような目で俺を見てくる。
「とにかく朱莉が帰ってきてるんだよな?
ちょっと、家に行ってくる!」
「あ、ちょっと待ちなさい!!」
何か言いかけた母を無視して外に出ていく。
朱莉の家はすぐ近くだ、寝巻きに近い格好だが別に構わないだろう。
いまさら遠慮して格好付けるような仲でもないしな。
そう思って朱莉の家までやってきたのだが、普通に訪れても面白くない。
今まで連絡をサボっていたことを反省させるために驚かせてやろう。
俺は朱莉の家に回ると、庭の方へとやってきた。
この庭は植物で覆われた柵に囲まれているのだが、その高さは低くてすぐに飛び越えることができる。
だが、しゃがみながら進めば向こうから見えないので驚かせるには絶好のスポットなのである。
「よーし、ここを朱莉が通りかかった時に……」
そんなことを考えつつ、しゃがみながら柵の真ん中辺りにやってくると、中から楽しそうな声が聞こえてきた。
草木の間から中を覗くと、庭先は開放されており、部屋の中の様子が見て取れた。
そこには自分の記憶よりも数段美人になり、洗練された朱莉の姿が見える
「朱莉……すっかり都会に染まっちまって……」
家族と楽しそうに話す朱莉の姿を見て、その洗練された姿を見ているうちに段々と自分の格好が恥ずかしくなってくる。
「やっぱりちゃんと身だしなみを整えてくるかな……」
そう言ってその場を去ろうとし決意した時であった。
「ねぇ、宗介さんもそう思いますよね」
自分でも聞いたことのないような甘い声で男の名を呼ぶ朱莉。
狭い視界の中、慌てて辺りを見渡すと、朱莉の隣にはスーツを着ている、自分が見た中で誰よりもハンサムな男が座っているのを発見した。
「ご両親の仲が良いのは素晴らしいことじゃないか。
僕たちもお義父さんたちを見習っていきたいと思います」
「……もう、宗介さんったら」
宗介と呼ばれた男性の肩に頭を寄せる朱莉。
宗介はそんな朱莉の頭を撫でながら愛おしそうな瞳を送るのであった。
「な……なんだよ、これ。
何なんだ、あの男は。
朱莉は俺の……」
目の前の光景が信じられない俺は、その光景を呆然と見守ることしか出来なかったのであった。
その後、結局は何も出来ずに家に帰ってきた圭太に対し、母親から朱莉の結婚と妊娠という追い討ちの話が告げられたのであった。




