上京、一ヶ月目
圭太と朱莉は家が近所で幼い頃から一緒に育てられ、常に並んで歩いている……そんな2人であった。
学校でもクラス公認の夫婦として揶揄われる程度には仲が良かった。
圭太が上京するために受験をすると言い出した時、朱莉も同じ大学を受験したのは当然の流れと言えるだろう。
だが、この受験こそが彼らの運命の分岐点であった。
試験に合格したのは朱莉の方だけで、上京すると言い出した圭太の方は不合格であったのだ。
勿論、圭太と一緒にいたいだけだった朱莉は進学を辞退して田舎に残ろうと考えたのだが、その考えを否定して状況への後押しをしたのは他ならぬ圭太の方だった。
「折角合格したのに行かないなんて勿体無いって!
来年こそは俺も合格して上京するから、その時は色々と案内してくれよな」
この言葉によって朱莉は上京を決め、一人慣れない都会で生活することにしたのであった。
そうして一ヶ月の月日が流れた時……朱莉は完全なホームシックとなっていた。
田舎から出てきた彼女は周りに馴染めず、学業もついて行くのがやっとの有様であった。
友人も作れないせいで発散も出来ず、圭太の方は勉強とバイトに忙しいらしくて連絡が殆ど付かない。
そんな状況で無理を続けた結果、彼女は帰り道でばったりと倒れてしまったのであった。
しかも、そこは人通りが少ない裏道……こんなところで女性が倒れていたら何が起こるかなど、想像もしたくない話であろう。
そうして彼女が倒れてしばらく経ち、倒れている朱莉に気付いた何者かが近付いてくる。
「なんでこんな所に女の子が……救急車……は、ちょっと不味いか。
……うん、仕方ないか」
声の感じから男と分かる人物。
彼は朱莉の身体を抱え、背中に背負って歩き始めたのであった。
(……なんだか懐かしい気がする)
気絶しておんぶされた朱莉は夢現の中にいた。
そんな中で思い出すのは、圭太と夏祭りに行った日の事であった。
草履の鼻緒が切れてしまった朱莉を、圭太が背負って家まで連れ帰ってくれたのであった。
「ごめんね……圭太くん」
「気にしない、気にしない。
ゆっくり休んでなよ」
「うん……」
その声は夢の中の圭太……ではなく、朱莉を背負っている男性から発せられたものであった。
だが、その事に気付かない朱莉は安心したように男性に身体を預け、再び深い眠りについたのであった。