嘘と本当
部屋のソファーで隣り合って座る二人。
そして、宗介はポツポツと話したいと言っていたことを語り出した。
「朱莉は僕が何の仕事をしているかとか気にならなかった?」
「偶に思うことはありましたけど……間違いなく生活には困ってないから余り気にしてませんでしたね。
そういうものだと思っていたというか」
「まぁ、確かに何の仕事もせずに一定の収入を得ている人はいるし……実際に僕もそうなんだけどね」
「やっぱりそうだったんですね。
それが話したいことなんですか?」
「いや……実は僕にはもう一つ名前があるんだよ。
東雲悠人っていう名前がね」
そう言って宗介はスマホを操作して一つの動画を再生し始めた。
その動画の中では、宗介と思われる人物……ただ、髪の色が黒ではなく、ピンクという中々のインパクトをしている姿で踊り、歌っていた。
周りに幾人もダンサーがいるのだが、センターは宗介であるというのは、ダンスや歌からハッキリ分かる。
「これって……所謂コンサートってやつですか?」
「そうなんだ。
僕は元々芸能界でアイドルをやってたんだよ」
「え、あ、確かに宗介さんぐらい魅力的な人なら、そういう世界でもやっていけるんでしょうね」
心底感心したような声を上げながら、動画の中の宗介と本物を見比べる朱莉。
そんな朱莉の様子に、宗介は思わずといった形で吹き出してしまった。
「ぷっ……やっぱり朱莉は僕が何をやっていたとしても変わらないんだね」
「え?だって、宗介さんは宗介さんですよね。
あ、画面の中では東雲さんでしたっけ?」
「いや……宗介のままでいいよ。
朱莉にはずっと本名で呼んでほしい」
そう言いながら朱莉の身体を優しく抱きしめる宗介。
朱莉もその抱擁に抵抗せず、寧ろ自分でも背中に手を回して強く抱きしめ返した。
「僕は芸能界に疲れちゃったんだ。
自分では違う自分を演じる生活に。
演じている人が演じている人達の中で仕事をする世界。
嘘しかない気持ちになって何もかもが嫌になっちゃって……だから、無期限で休職させてもらってるんだ」
「宗介さん……」
「そんな時に出会ったのが朱莉だったんだよ。
僕のことを知らなくて、いつも着飾らなくて本当の姿を見せ続けてくれた。
あかりが一緒にいてくれた事でどれだけ救われた事か……」
「そんな……助けてもらったのは私の方も同じですから!」
「ふふ……そうだね。
でも、こうやってお互いに助け合い、共に生きていける人を見つけた時に僕の心の傷は完全に無くなっていたんだ。
どんな嘘の世界でもやっていけるよ……この手の中に本物があるんだから」
「宗介さん、私はずっと側にいます。
側でずっとありのままの私を見てもらいたいです」
「うん、僕もだよ」
二人はそのまま、どちらともなく顔を近づけていき口づけをした。
その後、部屋の電気を落とした後の二人がどうなったのかは概ね想像通りであるとだけ記しておこうと思う。




