告白
通話を切り、腕の力を抜いてだらんと垂れさせる。
その瞬間に後ろから温かく包み込み感触を感じた。
「辛そうな顔してる……大丈夫?」
その腕は宗介のものであった。
彼は朱莉の辛そうな顔を見て、元気づけるように後ろから抱きしめたのであった。
「大丈夫ですよ。
今は何の感情もありませんから」
首元にかかった両腕にそっと触れる。
宗介は包み込みながらもギリギリ触れない距離を保っていたのだが、朱莉はその手に力を入れ、宗介の腕が自分の首に触れるように動かした。
一瞬驚いたようにピクッと動いたのだが、そこから宗介は何も言わずに朱莉を優しく抱きしめ続けた。
「幼い頃からずっと一緒にいて、それがずっと続いて、あの距離感も当たり前だと思っていたんです。
だから、ずっとそれが続いて、お婆ちゃんになるまで一緒にいるものだと思いました」
「うん」
「でも、こっちに来て離れてみて分かったんです。
私は何も知らなくて、そこにある幸せだけが自分の幸せだと思い込もうとしていたんだと。
もちろん、知らなければずっと幸せに過ごせていたんだと思います」
「うん」
宗介はただ相槌を繰り返すだけであった。
今はそんな宗介の心遣いがありがたく、朱莉は更に独白を続けた。
「私は知ってしまったんです。
圭太くん以上に優しくて、私のことを愛してくれる存在に。
その人は私よりもずっと頼りになるのに、先導して縛り付ける事もなく、常に私を温かく見守ってくれていたんです」
「うん」
今度の相槌は今までのものよりもハッキリと、力強く感じた。
朱莉の言葉を真っ直ぐに肯定する相槌であった。
「その事に気づいたら、圭太くんのことなんてどうでも良くなっちゃったんですよ。
だから、本当に平気なんです」
「そっか……朱莉は強いんだね」
「貴方が強くしてくれたんですよ……宗介さん」
その言葉と共に朱莉は宗介の腕から抜け出し、改まって彼の方を見た。
「宗介さん、私はハッキリと自分の気持ちに気付きました。
私は…‥貴方のことが大好きです。
私を宗介さんの彼女にしてくれませんか?」
「……本当に……夢にまで見ていた光景が現実になることがあるんだね」
朱莉の言葉に心を動かされた宗介の目から涙が伝う。
「そ、宗介さん!?」
拒絶されているわけではないのは分かるのだが、予想外の光景に朱莉は慌て始めた。
「ああ、ごめん……朱莉を困らせるつもりはなかったんだけど。
嬉しすぎてつい……その申し出、ありがたく受けさせてもらいます」
そう言って朱莉の前にひざまづき、彼女の手を取ってその甲に口付けする。
普通の男がやったらキザったらしい行為に見えるのだが、宗介がやると絵になるのだから不思議である。
ともあれ、晴れて恋人同士となったと思われた二人。
だが、宗介は朱莉に対して言っていない事があると語り、それを聞いてもまだ好きでいてくれるなら付き合って欲しいと改まったのであった。




