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談・談話

とある宿泊施設の怪? 談話・コトハと優月

作者: 橘 薫羽
掲載日:2024/08/13


怖い話を語り終えたコトハと、聞き終えた優月のやりとりです。

この作品自体はホラーではありません。


この作品を読むと、「とある宿泊施設の怪、談・コトハ」のホラー成分は消え去りますが、別の味は感じられると思います。

読んでいただけましたら嬉しいです。


こちらのみを読んだ場合も、内容はわかります。




「……どうだったかしら。怖い話。やっとどうにか、それらしい形にできたと思うのだけど」


 部屋の明かりをつけ、下から顔を照らしていた小さなライトを消し、コトハが不安そうに優月ゆづきへ問いかける。


 夜、同居人のコトハに、怖い話がやっとできたから聞いてみてほしいと頼まれた。

 キッチン近くの椅子に腰かけ、優月は即席の観客状態となり、聞き終えたところだ。


 コトハは、はっきりめの顔立ちに、茶系のマニッシュショート、すらっとした長身。今は、白緑の半袖カーデに白系のパンツという服装だ。


 優月は、シンプルなつくりの顔に、肩あたりまでの黒髪、中肉中背、グレーのワンピース姿。


 優月とコトハは、テイクと現在は名乗っている組織に所属している。


 そのテイク主催の夏祭りでおこなわれるイベントの一つ。創作話の夕べ。

 参加者は申し込み時にカードを引いて、そこに書かれたジャンルとテーマで話をつくり、イベント当日、観客に披露する。


 せっかくだからと参加を決めたコトハは、ジャンルはホラー、テーマはうわさ、というカードを引いた。

 それが七月のはじめ頃。

 今は八月半ば。イベントの日はもう間近に迫っている。


 感想を言う前に、優月は今聞いた話を思い返す。



 夏の夜。山深い場所に建つ宿泊施設で、宿泊者たちが遭遇した出来事の話。


 共同キッチンのほうから聞こえてくる、なにかをさがす不気味な声を耳にした宿泊者。

 部屋に駆け戻り仲間たちにその話をしたところ、その声の主は生きているのだろうかと仲間の一人が言う。


 仲間たちが話す、このあたりでかつてあったかもしれない、事件。

 聞いた宿泊者は朝まで部屋にいることを提案するが、仲間の一人が、キッチン近くのロッカーに忘れ物をしたと言いだす。


 どうしても今、取りに行かなければいけない物。

 相談の末、仲間みんなでキッチン近くへ。

 不気味な声や音の中、声の主に存在を気づかれつつも、ロッカーから荷物を取り出した仲間たちは、一目散にそこから遠ざかる。


 声の主は、一緒にしてもらうなにかを願うため、宿泊者たちの部屋へ行こうとする。


 みなさん、どうか気をつけて。



 そういった話だ。


「語りはうまかったよ。特に声の使い分けがすごいと思った」

「そこは、ほめてもらえて嬉しいわ。ありがとう。……内容のほうはどう? 怖い?」


「怖いかは……正直わからない、ごめん。自分が実際に、話の中の宿泊者だったら、不気味な目に遭って嫌だとは思いそうだけど……」

「うーん……難しいわね、怖い話。実話も、もとにしつつ、つくってはみたのだけど」


「え?」

 実話?

「コトハ……いつ、そんな出来事に遭遇を?」


「優月も遭遇したわよ?」

「私も?」

「かなり前に私が、料理中にフライパンから八宝菜の具材を飛ばしてしまって、キッチンの片づけをしていたところに、優月が帰ってきて」


 帰ってきた優月は、キッチンでなにやらごそごそと音がしていることに気づいた。

 ないのよー、まだあるはずなのに……、見つからない、と、せつなげな声まで聞こえてくる。

 いったい何事かと、優月はいささかおびえながらキッチンを覗いた。


 優月に気づいて事情を説明したコトハが、これじゃあ、八宝菜ならぬ八方散はっぽうさんよー、と言ったあたりで、優月のおびえも完全に散ったが。


「あのとき優月が、いろいろ怖い想像しちゃったよって言ってたでしょう?」


 不気味な声の主は、共同キッチンで料理中に飛ばしてしまった具材をさがしながら片づけていただけ。


 けれど、それを知らない人が、声だけを耳にしたら。

 真偽不明の、殺人関係の話を仲間が目にしていて、関連付けようとしたら。


「怖い話に思わせられるかもって考えたのよ。うわさってテーマもクリアできるかなって」


「なるほど……。仲間たちみんなで聞いた、なにかを引きずるような音は?」

「あれは、あしを引きずりながら移動していたの。かがんだりしゃがんだりしながら片づけていると、とても疲れるのよ……」


「実感こもってるね……。じゃあ、仲間が血かもと思った、なにかが滴るような音の正体は?」

「あれは、炭酸飲料ね。料理前に飲もうとしたけど、保管状態の関係で、開けた途端に飛び散っちゃったのよ。発泡だけに八方に」


「あ、うん、そうなんだ……え? それも実体験?」

「いいえ。これは、そうなったら拭ききるのが大変そうっていう想像から。八宝菜と、はっぽう、つながりにもなるし」


「つなげるんだ……。で、声の主は、片づけの手伝いを願おうとしたとか?」

「そうなの。拭き終えたはずの炭酸飲料まで残っているし、この分じゃ具材だって回収しきれてないかも、もう一人じゃ無理だわ、ってことで、一緒に片づけてほしいとお願いに行こうとするのよ」


「気をつけて、は飛ばさないように?」

「ええ、そうよ」


 頷いたコトハが続ける。

「最初に考えた話は、宿泊者が不気味な声を聞いて、事件があったかもしれない場所で……だけだったの。でも、語るのに少ない気がして、仲間たちみんなでもう一度、って形に」


「それで、どうしても今必要な物を、キッチン付近に取りに行く展開になったんだ」

「ええ。うわー! さっと、取りにね」

 うわさがテーマだけに、とコトハ。


「そういえば、仲間の発言にも……」


 うわー、まじかよ。さっと行って持ってくるわ。

 とかなんとかあったような。


「ちなみに声の主も、炭酸飲料や具材を飛ばしちゃったとき、うわー! さっと片づけしなくちゃ、って言ったのよ、実は。誰も聞いてなかったけど」

「サヨウデゴザイマスカ……」


「それと、声の主によって炭酸飲料や具材が飛び散り、仲間たちは荷物を持って一目散、ってことで散もあわせてみたのだけど」


「あわせたんだ……。なんか、怖い話として語れない部分のほうが、凝ってるっていうか……でも、それ全部明かしたら、ジャンルが違う話になるだろうし。自分でジャンル決められないから……カード引いた時点でコトハも言ってたけど……」


「ほらー! やっぱり向いてないカード引いちゃったのよー。私に怖い話は難しいわよー」

 涙も飛び散るー、とコトハ。


 そしてコトハは握りこぶしをつくる。

「こうなったらせめて語りを頑張るわ。語りがよかったから、まぁいーいかって思ってもらえるように」

「うん。そっちなら可能かも」


「ちなみに八宝菜、今では得意料理よ。感心するくらい見事なシーフードも扱っちゃう。まぁいいエビ! まぁいいイカ!」

 コトハの声が明るく響く。


 普段のコトハがさがして集めているのは、飛ばした具材ではなく、言葉遊びの材料である。





お読みくださり、ありがとうございます。


コトハが語った怖い話を作品にしたのが「とある宿泊施設の怪、談・コトハ」(公式企画、夏のホラー2024参加作品)です。


また、コトハと優月が登場中の連載作品は「優月と意思あるモノたちの、ほんわか交流ノート~超常も日常ですごしていく~」です。


よろしくお願いいたします。



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