第9話
※第9話は細かい修正を予告なく入れる可能性があります。また、誤字や脱字などがありましたら報告していただけると幸いです。
※第9話は文字数が多くなりすぎてしまったことで2分割した結果、いつもよりも少しだけ短い文字数になっております。続きは近日中に公開予定ですのでお楽しみください。
花が家に来てから1週間後…
「うん…ん…」
朝、布団の中で目を覚ますと、中で何かがモゾモゾと動いている。
「おはよう花ちゃん。また早く起きちゃったの?」
「おきた…、すーっ…」
「寝ちゃったよ…」
優希はゆっくりと布団から出ると、花の頭だけを布団から出して立ち上がった。
時計を見ると、今は朝の5時半。もう少し眠っていても良いだろう。
「何?今日もここに来たの?」
「はい、布団の中で寝ちゃいました。今日で3日目ですね。」
「今日から一緒に寝たら?このままじゃ毎日来そうよ?」
「杏奈さんがいいなら…今日聞いてみますね。」
杏奈は優希の言葉を聞くと、ゆっくりと立ち上がり、部屋を出ようとした。
「もう起きるんですか?」
「うん…、もういいの…」
やっぱり子どもの寝顔は抜群に可愛いな…
優希は寝ている花の頭を撫でながら幸せそうに笑っていた。
3時間後…
「いーっ」
花と一緒に二度寝をしてしまった優希は花にほっぺを優しくつねられて目を覚ました。
「うに…、寝ちゃっへた…」
「おはよーう。」
タタタタッ、ガララッ…
花は優希に声をかけると、走って部屋を出て行く。
尊い…これが子どものいる生活か、
優希はすぐに起き上がり、居間に向かう。
「おはよう、優希くん。今日は花ちゃんに起こしに行ってもらったの。ちゃんと起こしてくれたかな?」
「起こした。」
明代さんが優希に挨拶をし、花とハイタッチをする。
たった1週間なのにも関わらず、花は生活に慣れ始めているように感じる。
笑顔を見せていないことや周りの状況に適応しているという印象が強いのは事実だが、明らかな拒否反応がないだけでも十分だ。
これからゆっくりと心を開いてくれれば良いな…
「何しているの?早く座りなさい。」
「あぁ、はい。すみません。」
杏奈から冷たく言われ、優希は首を傾げながら座った。
最近、杏奈は少しずつ機嫌が悪くなっており、優希に対する関わりもキツくなっている。
なんで機嫌が悪いんだ?別に杏奈さんの生活の邪魔をしているわけではないのに…
もしかして、花が来て2人の時間が減ったことで不機嫌になっているのか?
いやいや、そんなわけがない。杏奈さんと2人で部屋にいる時も会話なんてなかったし、僕のことは道具程度にしか考えていないはずなんだから…
優希は納得したような、がっかりしたような複雑な気持ちになって食事を始めた。
「優希くん、今日は何か予定あるの?恵美さんと杏奈ちゃんは民生委員の方と会う予定が…」
「杏奈は来なくて良いわ。優希さんと一緒に過ごしなさい。」
「え?杏奈ちゃんは仕事を覚えていくんじゃ…」
「必要無くなったの、とにかく今日は大丈夫だから。」
「わかりました、優希は何か予定はあるの?」
明代と恵美(義母)の会話に杏奈が割り込む。
「僕は調べ物がちょっとあるだけで他には何も…、花ちゃんは何かしたいことある?」
「あるー…」
そう言って少しすると、花は優希に抱きついてきた。
「あぁ、どうしたの?花ちゃん。」
「花ちゃん、今日は優希くんと一緒に遊んでみたら?お昼には一緒にご飯を作ってみても良いわよ?」
「そうですか、じゃあそうさせてもらいます。杏奈さんは?」
「杏奈ちゃんは私と少しお仕事の話をするの。だから2人で遊んでちょうだい。」
明代さんにそう言われて優希は有頂天になる。
花ちゃんとしっかり関われることは嬉しい。何をすれば喜んでくれるんだろう…
数分後…
「花ちゃん、何をして遊びたいとかある?」
「これは?」
「これはお手玉だよ。こうやって遊ぶの。ほいっ、ほいっ!」
「おぉー」
花は無表情だが、パチパチと手を叩いている。
興味はあるん…だよな?
お手玉でしばらく遊んだ後、しりとりやなぞなぞ、かくれんぼをして遊んだ。
どれもほどほどに遊んでいる、という印象が強かった花だったが、かくれんぼは楽しんでいたようで少しだけだが笑顔を見ることもできた。
急に顔を出したり、「バァー」と少し脅かすような行動は怖がらせるのだけなのではと心配していたが、むしろ花はこれを一番楽しんでおり、見つけてもらうのを楽しんでいるようにも見えた。
「はぁ、はぁ、疲れたねぇ。花ちゃん。」
「つかれたぁねぇ…」
「ご飯食べる?」
「食べるぅ」
優希は自然と花と手を繋いで居間に向かっていた。
どうしよう、フレンチトースト作っちゃおうかな?
花ちゃんは喜んでくれるかな?
ガララ…
「あっ、杏奈さん。今からフレンチトーストを…」
優希が昼食を一緒に食べようと杏奈に話しかけたが、話終わる前に杏奈は下を向いてどこかへ行ってしまった。
泣いていた?いや、見間違いかな?
「あぁ、優希くんと花ちゃんじゃない。今からお昼?」
「はい、フレンチトーストを作ろうかと思って。」
「優希くん、今はトーストないわよ?」
「あぁ、そうだった。前食べたので最後だったんだ…。」
「でもちょうどよかった。花ちゃんのお昼は他の子に任せるから、ちょっとお話しできない?」
「あぁ、はい。もちろんです。じゃあ花ちゃん、お昼はまた今度だね。」
「はい…」
………
「それで、話とは?」
「あぁ、うん。単刀直入に聞くけどね、優希くん、杏奈ちゃんのことどう思っているの?」
「どう思っている、とは?」
明代さんは表情を曇らせ、何かを言いづらそうにしている。
「あのね、経緯はどうであれ、今は結婚しているわけでしょ?杏奈ちゃんのことを見てくれているのかなぁーって思って。」
「杏奈さんを見る、ですか…。」
どうしよう、わからない、明代さんは何が言いたいんだろう?
「あぁ、えぇっと、杏奈ちゃんのこと好き?」
「好き?僕が杏奈さんをですか?」
……、好き?杏奈さんのことが?結婚の経緯が経緯だったから考えたこともなかったな…
「あの、本人が話して良いって言ったことしか話せないんだけどね。あぁ見えて杏奈ちゃんは幸せな結婚がしたいって思っていたの。」
「幸せな結婚、ですか」
「うん、その、恵美さんと健斗さんは仲が良かったわけではない…、というかお互いに好き放題やっている感じだったから杏奈ちゃんはそんな両親を嫌っていたの。」
「確かに仲が良さそうには見えませんでしたが、何か大きな問題でもあったんですか?」
「優希くんに言うべきなのかわからないけど、その、2人とも浮気をしていたことがあるの…」
長い沈黙が流れる。
「浮気…ですか?」
「うん…、話せることだけ話すけど、恵美さんは昔から顔もスタイルも頭も要領も普通の人とは比べ物にならないくらい良くて、若い頃から好き放題に生きていたの。それは結婚した後も変わらなくて、他の男の人と会うことは当たり前、夫や兄弟、杏奈ちゃんへの態度も酷かったわ。」
「恵美さんがそこまで酷かったとは…。」
優希の言葉に明代さんは不思議そうな顔をしていたが、すぐに話を続ける。
「うん、それで健斗さんも愛のない結婚だったからって割り切ってしばらくは我慢していたんだけど、溜まりに溜まったものが爆発したのか、鈴野家に頼り切っている実家に嫌気がさしたのか、お手伝いさんの1人と浮気をしちゃってね。恵美さんの浮気はただ男遊びって感じだけど、健斗さんの場合は全てを捨てて離婚する!とまで言い出したから大変でね。」
「そうですか、お互いが浮気をしているような関係を見るのは辛いですよね…」
「そうね、それに杏奈ちゃんは幼少期から恵美さんには何も期待していなかったみたいだけど、健斗さんのことは自分に愛情を注いでくれる親として見ていたわ。でも浮気騒動の時に健斗さんは杏奈ちゃんのことは全く見ていなくて…。それが余計に辛かったみたいで、それからは杏奈ちゃんは感情を表に出すことは無くなっちゃったのよ。」
優希は杏奈が経験してきた話を聞いて何か力になりたいと思った。ただ、それと同時に自分の安易な考えやこれまでの行動を振り返って恥ずかしいとも思い始めていたのだ。
そんなひどいことがあったなんて…、
でも、こればっかりだ、どんな時も自分の感情を優先して考えて行動して、杏奈さんや他の人のことは後回し。結局後になって他の人から助言をもらって反省する。
この歳になって周りのことが見えていない上に人の気持ちも考えて行動できないなんて…。
「そんな環境で…杏奈さんは、平気だったんですか?」
「もちろん平気ではないけど、最悪の結果になることはなかったと思っているわ。感情を素直に表現することはまだ難しいみたいだけど、親と同じようにはならなかったわけだから…」
「それで、杏奈さんは自分は幸せな結婚がしたいと思っていたんですか?」
「うん、今まで全く男性経験がなくて、初めて興味を持ったのがタイミングよく現れた優希くんみたいだったの。だから決して誰でも良かったわけではないと思うの…。」
明代さんは悲しそうに、自身がなさそうに話す。
タイミングよく現れた、ね。
ん?でもそうなると…
「あの、杏奈さんに話しかけらたのは家の前が初めてだったと思うんですけど、その前に会っているんですか?」
「うん、まだ優希くんが施設で働いている時に見たことがあるんだって。その時に…、あっ、これは言っちゃいけないんだった…。ふふふ…」
両親の話をしている時とは一変して明代さんは笑顔になる。
やはり杏奈の話をしている時の明代は母親のような表情を見せる。
「そうですか、あの、今日の夜、いや、今から杏奈さんと話をしてみても良いですか?直接話し合う必要があると思って…」
「本当に?ありがとう、あっ、でも過去の話はあまりしないであげて。思い出したくないこともあると思うから。」
「はい、わかりました。ありがとうございます、行ってきます。」
優希は立ち上がると、まっすぐと自分の部屋に向かった。
ガララッ!
「杏奈さん、お話ししませんか?」
「優希はいつもそれね…」




