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第11話

※第11話は通常通り物語が進むのではなく、少し回想のようなものが入ります。元々は通常通り物語を執筆していたのですが、今後の流れに必要になると考え、回想を描くことにしました。3話ほど続きますが、短いスパンで投稿してすぐに物語に戻りますのでぜひ読んでいただけると幸いです。

第11話


「やっほーーい!!」

「舞ちゃん、そんなに飛び跳ねたら滑ってこけちゃうよー?」

「何言ってんのよ瑞希さん。浪人してやっとの思いで掴み取った合格なんですよ?これが騒がずにいられるわけっ…」


ズッ…


舞は雪が溶けて滑りやすくなっている道を飛び跳ね、盛大にずっこけた。

今日の北海道は3月にも関わらず暖かい。

もちろん雪は残っているが、溶け始めた氷のような雪のせいでいつもよりも滑りやすくなっているのだ。


………


「確かにそうね〜、まさか本当に北海道大学に合格するなんて、すごいと思う。私とは大違いだわ…。本当におめでとう。でもそれで大怪我したら元も子もないわよ?もう少し落ち着いて…」

「いてて…、ごめんね瑞希さん。ちょっと気をつけます…。でも、瑞希さんはそのおかげで悠雅と出会えたんでしょ?よかったじゃない。」


瑞希は舞を起こしながら穏やかな顔で誉めた。

いざ誉められると照れくさかったのか、舞は笑いながら話を逸らす。


「そういえば悠雅は何をしているの?」

「悠雅は旅館でゆっくりしてる。悠雅はこれまで私に付きっきりだったから疲れているの。昨日はすごく久しぶりにお酒も飲んだみたいだし。」

「そうなの、じゃあ!今日はめちゃくちゃ遊びまくりましょーう!」


今日は舞の大学合格祝い。

舞は北海道大学に挑戦したが、後少しのところで不合格になってしまい、1年浪人して合格することができた。瑞希と舞はとても仲が良かったため、舞の入学目前になって瑞希が家族と一緒にお祝いに来たと言うわけだ。


………


舞と瑞希はまず小樽へ行き、とにかく海鮮丼を食べた。

海鮮丼なんてだいたいどこで食べても同じだろう、九州出身の瑞希はそんなふうに思っていたのだが、実際に小樽で海鮮丼を食べて感動した。


「本当に美味しい。こんな量でもペロリね…」

「ほんとほんと!じゃあ、この後どうする?私はカフェとか行ってから好きな漫画の聖地巡礼に行きたいんだけど、良いかな?」

「今日は舞ちゃんのお祝いよ、良いに決まっているじゃない。早速行きましょう。」


数時間後…


「お茶をしていたカフェの外で待っています。っと…」


ピコン!


『先に行きすぎちゃった、ごめんね!すぐに戻るから15分くらい待ってて!』


聖地巡礼だ、と言って観光客に混ざって言ってしまった舞と連絡をとりながら舞は店の外でベンチに腰を下ろした。


ここ数日は北海道とは思えないくらい暖かい。とても過ごしやすく、しっかりと着込んでいれば外でもしばらく過ごすことができそうだ。


小樽は海外の観光客も多いが、家族連れの旅行客もよく見かける。

ただ、そんな家族連れを見ながら瑞希は強い悲しみが込み上げてきた。

瑞希は夫の悠雅といわゆるできちゃった婚で結婚した。愛する悠雅と一緒にいることができ、日に日に大きくなっているお腹を眺めながら幸せを感じていた。

ただ、なんでも物事がうまくいくというわけではなかったのだ。


あぁ、せっかく前を向いて進めると思ったのに…、1人になるとどうしても思い出してしまう。ごめん、産んであげられなくて…ごめん…


瑞希は大学に入学してすぐに悠雅と出会い、1年も経たないうちに子どもを授かった。

瑞希は1年浪人した挙句、地方の私立大学にしか通うことができなかったことから両親とはあまりうまくいっていなかった。しかも、そこに学生で妊娠したとあって、一時期は激しく揉めたものだ。

そんな問題も乗り越えてやっと大好きな悠雅と幸せをつかめると思ったのだが、妊娠して程なく、瑞希は流産を経験することになる。

それから瑞希は激しく落ち込んで塞ぎ込んでいたが、悠雅が常にそばにいてくれたおかげでやっと前向きになることができたのだ。

ただ、流産を経験して1〜2年で簡単に傷が癒えるわけではない。今も1人になってしまうと悲しみが覆い尽くして自分まで消えたくなってしまう。


………


「あの、すみません。オルゴール堂ってどこにあるかわかりますか?」

「んっ!?」


瑞希が泣きそうになっていると、横から男性の声がした。

顔を向けると、可愛い女の子が立っている。ハーフというほどではないが、はっきりした顔立ちで髪もパーマがかかったような外ハネの髪型で可愛らしい。


ん?女の子?今男性のような声がしたんだけど…


「?……、あの、オルゴール堂…」


!?

え!?この人男!?


「あぇ、あの、オルゴール堂はこの道をまっすぐ行ったところにあるカフェのすぐ横に…」

「あっちですか…、じゃあまた戻らないと…、ありがとうございます!」


顔がパァッと明るくなった男性が振り返って走り出したが、足を滑らせて勢いよく後ろに倒れる。


ゴンッ!


………


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思います。頭は打っていませんから…、後頭部を打っていたら病院に行かないとですけどね…」

「後頭部を打ったら?何か大変なんですか?」

「知らないんですか?どの場所でも頭を強くぶつけたら危ないですけど、特に後頭部は気をつけろって剣道の先生に言われていたんですよね。」

「はぁ、そうなんですね…」

「はい、でもちょっと安静にしていたいので、隣に座っていても良いですか?」

「あぁ、もちろん良いですよ。どうぞ…」


………


「あの、誰か待っているんですか?」


少しの沈黙の後、可愛らしい男の子が腰をさすりながら話しかけてきた。


「私は親戚の子と遊びに来ているんですけど、その子がズンズン進んで行っちゃったので、ここで待っているんです。あなたは?」

「僕は迷子ですね。スマホも友達に充電してもらうために預けちゃったので途方に暮れていたんです。とりあえずさっき行ったオルゴール堂に行けば友達がいるかもしれないと思ったので…」

「なるほど…、あの…」


瑞希が話そうとしたその時、小さな子どもがヨタヨタと歩いてきて、横に座っている男の子の膝に寄りかかった。


「あらら…、どうしたの?1人?」

「すみません!ありがとうございます…」


母親と思われる女性が小走りで追いかけてきて子どもを抱き抱える。

母親と思われる女性はお礼を言うとそそくさとどこかに行ってしまう。


「可愛いですよね、子どもって…、僕保育士になるために大学に行ったんですけど、音痴すぎて諦めたんですよね…、っえ?」


瑞希は子どもを見てボロボロと涙が溢れている自分に気がついた。


「大丈夫ですか!?」

「え?あぁ、はい…うぅ…ぅぅ…」


瑞希は泣きながら今までのことを話した。

目の前にいる男性は赤の他人だ。こんなプライベートなことを話すべきではないのかもしれない。

ただ、今までそばにいてくれた悠雅がいなくなったことで込み上げてきた寂しさとふわふわとした安心感を感じさせる男性?についつい話してしまった。


………


「えぇっと…そうですか、そんなことが…。」

「はい、あの、すみません。急にこんな話しちゃって…」

「あぁ…、あの、僕はここで気の利いたことは何も言えません。世の中のことを何も知らないただの学生ですから…。でも、どんなに悲しい時でも旦那さんは一緒にいてくれたんですね。話の中で何度も感謝してる、良い旦那さんなんですね…」


その男性はそういうと黙り込んでしまった。

この男性が言ったことは心に響く言葉ではないかもしれない。

ただ、話を聞いてくれるだけで少しホッとした気持ちになり、落ち着きを取り戻しながら悠雅のことを思い出していた。


そうだ、子どもは私のところに来てくれなかったが、私には悠雅がいる。

私が流産してから今日まで仕事の量も減らして可能な限り私のそばにいてくれたんだ。

そうだ、そうだよ、今日帰ったら悠雅を思い切り抱きしめよう。

ずっとそばにいてくれた悠雅を…


「優希ちゃ〜ん…」

「はっ…、」

「小樽でスマホも忘れて迷子になった分際でナンパか?おい、マジでふざけるなよ…」

「違うぞ和樹!ナンパなんて…、それに俺も何も対策を考えなかったわけじゃ…」

「あぁ、わかったわかった!もう行くぞ!」

宏樹ひろき正志まさしは?」

「せっかくだから聖地巡礼するぜ!とか言って行っちまったよ!あいつらを呼び出してさっさと旅館に行かねぇと、時間がねぇんだよ!」


優希?という男性の後ろから現れた体つきの良い男性が優希の首根っこを掴んで怒鳴る。

が、涙の跡がある瑞希に気づくとすぐに優しい表情になって話しかけてきた。


「大丈夫ですか?うちのバカが何かしましたか?警察を呼びましょうか?」

「いえいえ!むしろよくしてもらったのは私の方です!呼び止めてしまってすみませんでした!」

「そうでしたか、こんなのでも役に立ったのならよかったです。申し訳ないのですが、時間がないので失礼させていただいもよろしいでしょうか?」

「あぁ、はいもちろんです。ありがとうございました。」

「ありがとうございます。よし、行くぞ優希!」

「あぁ、うん。では失礼します。その、えぇっと…、お元気で!」


優希は瑞希にペコリと頭を下げると、すぐに和樹という男性を追いかけていった。

そしてまた盛大にずっこけた…


『あぁ、なんでお前はこう毎回面倒かけるんだよ!』『悪気はないんだけどね〜』『クソが…』


嵐みたい…


「瑞希さーん!」

「あぁ、舞ちゃん。」

「ごめんごめん…、いやー聖地巡礼はたまらんですな…、もう小樽でやり残したことはありますまい…」

「何その話し方…」


瑞希はくすくすと笑う。


「ねぇ、舞ちゃん。これからしばらく北海道にいるんだし、小樽でやることが終わったなら一度旅館に戻っちゃダメかな?」

「え?私は良いけど、どうしたの?何か忘れ物した?」

「ううん、違うの。ちょっと悠雅に会いたくなっちゃったの。」

「うわー、何それ〜、でもいいよ、私はもうやりたいこと終わっちゃったから。」


瑞希は舞がいなかった間に起こった出来事を話しながら旅館に戻った。


………


ガチャ…


「あれ?瑞希、もう帰ってきたの?うわっ!」


旅館の部屋に戻り、ドアを開けると髪がボサボサの悠雅が立っていた。

瑞希は悠雅の言葉を聞かずにすぐさま抱きつく。


「どうした?瑞希…、もしかしてまた…」

「ううん、大丈夫。今は大丈夫なの。ただ、今日ちょっと1人になっちゃうことがあってね。その時は少しやばかったかも…」

「そうか…、じゃあ旅行中はなるべく一緒にいよう。また、しんどくなったら言ってね。」

「うん、ありがとう…」


瑞希は悠雅の優しさにまた泣きそうになったが、悲しんでいる姿を悠雅に見せたくないと思い、涙を堪えながら話を逸らした。


「うん、でもね、変な人に会ってなんか大丈夫になったんだ。」

「変な人?」

「うん、あのね…」


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