過去(1)
旅の踊り子は、いろいろな国に渡り、そこで踊りを披露し、収入を得ていた。私は占い師であるが、母親は踊り子だった。幼い頃から母親の踊りを見ていたし、自分でも踊りたいと教えてもらっていた。
母親の踊りは評判だったし、その腕は確かなもの。その母親直伝の踊りを廃れさすのは勿体ない。ということで占い師になってからも、練習を続けていたが、それが役立つことになった。
ハロルド王太子から逃げるため、王都を出てすぐ、サチ達、旅の踊り子と知り合った。聞くとこれから向かう国が、私の目的地と一致している。そこで踊り子の女性四人に二人の従者、そして二人の傭兵と共に旅を続けていた彼女達に、私は自分の踊りを披露。仲間に加えてもらえないか相談したところ、即決で採用してもらえた。
目的地までは、興行を含めると、約三か月の旅となる。
その間、通過する国もいくつかあった。そこで興行を行い、お金を稼ぎつつ、目的地に到着したら。サチ達とは、別れる予定だった。
その目的地は、実は私の故郷でもある。
十歳の時、母親に連れられ、エルロンド王国にやってきてから十四年。もはや故郷より長く、エルロンド王国で過ごしている。このままこの国に、骨を埋めるものだと思っていた。まさかここに来て、母国に戻ることになるなんてね。
でもハロルド王太子が私を訪ねてくると分かり、タロットカードで旅立ちのカード(ザ・フール)を引いた時、動く必要があると感じた。さらに占星術により、向かうべき場所を読み解いた結果……サハリア国が出てしまう。私の生まれ故郷であり、十歳まで暮らした国だ。
サハリア国。
国土の多くが砂漠であるが、金の埋蔵量は大陸一。おかげで平民の生活水準も高く、犯罪も比較的少ない。王族や貴族はいないが、代々三つの大富豪が、四年交代で国の代表を務めていた。この三家が実質の王族のような扱いであり、この三家に続く十の富豪が、貴族のような存在だった。
三つの大富豪と十の富豪に認められている独特の婚姻制度がある。それがハーレムと言われるもの。
正妻の他に側妻と呼ばれる、この世界では側妃と称されることが多い、いわば公に認められた妾を持つことが、認められていた。これはサハリア国が離婚を認めつつも、不倫を認めないゆえに、採用されている制度だった。
つまり愛人や妾を作るのではなく、ちゃんと妻の一人として迎え、その衣食住を保障してあげましょう、という、ある意味女性に配慮された(?)制度と言われていた。
愛人や妾と後ろ指をさされ、日陰の存在となるより、側妻として認知され、生活を夫から保障されるのであれば。一夫多妻制と言えど、悪くはないのかもしれない。
でも、私の母親は違った。
私が十歳の時のことだ。
「ミーシャ。突然、この国を離れることを決めたから、驚いているわよね。実はね、ミーシャのお父さん、亡くなったと話したけど、実は違うの。サハリア国の大富豪なのよ」
早朝、急に起こされた私は、まだ頭がぼーっとしていた。でも母親はそこにお構いなしで、とんでもない話を始めたのだ。
「彼はね、私の親友を正妻に迎えていたの。でもお母さんのことも好きと言い出して、それで……。側妻にしたいと言われたけど、親友が正妻なのよ。そんなの無理よ。だから逃げ出したの。まさか一度の過ちで、子供ができていると思わなかった。でもミーシャ。あなたを授かったことは、お母さんにとって最高のギフトになったわ。このままここでミーシャと二人で暮らしていきたかったけれど……」
母親の語る衝撃的な話のおかげで、眠気は一気に吹き飛んだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
実は「サハリア国」が登場する別作品があります。
それは……。
『断罪回避を諦め終活した悪役令嬢にモテ期到来!?
~運命の相手はまだ原石でした~』
https://ncode.syosetu.com/n5617ip/
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よかったらこちらの作品もご覧いただけると幸いです☆彡