エピローグ
実の父親との感動の再会を経て、私はゼヒル一族の一員と認められることになった。アマルはいつか私が見つかるかもしれないと思い、母を側妻として記録してくれていた。おかげで私生児にならずに済み、そして――。
「まさかこんなに立派に成長しているとは! しかもこんなに素敵な婚約者ができたとは。この上なく喜ばしいことだ。お祝いをあげないと」
とんでもない量の黄金と、絹織物、サハリア国の名産品をもらうことになった。さらには他国にはこれまで一切認めていなかった、サハリア国内の砂漠の一部を開放し、そこでの金の採掘を、エルロンド王国に認めてくれたのだ!
もちろん、その御礼として、ハロルド王太子はエルロンド王国内にあるダイヤモンド鉱山をひとつ進呈している。だがこの世界では、金こそが最大の富の象徴。サハリア国内の砂漠で金の採掘権を得た、この二つ目の国益は、まさにエルロンド王国の大いなる発展につながるに違いなかった。
最後の三つ目は、エルロンド王国とデュカン帝国とルイジ公国の間で、新たな交易協定を結んだことだ。
ルイジ公国が狩猟民族だったのは、平地が少なく山林が多かったからだ。木材を多く産出するが、小麦などの穀物の生産は、いまだスムーズではなかった。それなら他国から輸入すればいいとなるが、ルイジ公国に対する「蛮族の国」というマイナスなイメージは根強い。しかも五つの国と国境を接しているが、そのどの国に対しても、歴史を振り返ると、ルイジ公国自らが戦争をしかけていた。斧による攻撃の仕方もそうだが、蹂躙した土地に火を放つことが多かったため、隣国の国民感情は相変わらず悪いままだ。
その一方で。
ルイジ公国の豊富な木材資源は、魅力的だった。でもどの国もプライドがあり、交易の申し出をしない。そこでエルロンド王国とデュカン帝国の二か国で足並みを揃え、三か国で交易協定を結んだのだ。主に、穀物と木材の交易に関する協定を。
木材の需要は、いつの時代になっても尽きることがない。しかも木は育つのに時間もかかる。持続可能な資源管理をしつつ、適正量で交易をおこなう協定を提案したハロルド王太子は、さすがだった。
国王陛下はこの三つの成果に大いに喜び、ハロルド王太子に沢山の褒美と称号を与えている。第二王子の一件で、エルロンド王国には激震が走った。でも呪いが解けたハロルド王太子が大活躍したおかげで、国民の不安も落ち着いた。これは本当によかったと思うし、何よりも。王太子が婚約者を迎えた!と、一時お祝いムードで国は大いに沸いたのだ。
これには私もちょっと貢献できたので、嬉しくなってしまう。
そんなことを思い出していると――。
カラン、コロンと扉につけている鐘の音が鳴り、私は慌てて、店へと向かった。
「すみません! 午後の営業は、十四時からなんです」
ハロルド王太子の婚約者となり、王太子妃教育に追われているが、休みの日。
王宮に近いこの場所で、午前二時間、午後二時間、日中の合計四時間。占いの仕事をすることを、特別に認めてもらっている。勿論、王太子の婚約者であることは、かつての常連さん以外には秘密にしている。なおかつ離れた場所で、近衛騎士達がしっかり見張ってくれていた。勿論、これもお客さん達は知らないことだ。
ということでお昼休憩をハロルド王太子と王宮でとり、この場所に戻ったばかりだった。そこで来客を知らせる鐘の音が聞こえ、慌てて店の方へ向かったところ……。
「ミーシャ?」
この声は……オルセン公爵令嬢のユリアナお嬢様だわ! 確か冬の間、ノースフォークに滞在していると聞いていたけれど、お戻りになったのかしら?
「お嬢様、お久しぶりです!」
「ミーシャ! 聞いたわよ、あなた、ハロルド王太子殿下と婚約したのでしょう!」
「ええ、そうなんですよ。お嬢様はノースフォークに行かれて、いかがでしたか?」
ハロルド王太子が選んでくれたこの建物は、南向きだった。午後には温かい陽射しが、窓からいっぱい店内に降り注ぐ。窓のそばには、アーモンドの木が植えられている。今、その木には、春の到来を知らせる淡い白い花で、満開だった。
時折吹く風で、その白い花びらが雪のように舞う。そんな景色を眺めながら、ユリアナお嬢様と私の、この冬の間に起きた出来事の思い出話は、尽きることがなかった。
~ fin. ~
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