再会
一生に一度のプロポーズが、あんなにドラマティックだとは思わなかった。
とにかくこれまでに感じたことがない程、ときめき、興奮し、感動していた。
でもまだ半信半疑だった私は、ハロルド王太子があんなに素敵な求婚の言葉を捧げてくれたのに。
「で、殿下、占ってみてもいいですか、自分のことを」と尋ねてしまい、苦笑され、却下された。その上で、口づけをされ……。
気づけば息も絶え絶えで「お、お受けします。で、殿下のプロポーズ、謹んでお受けします!」と答えていた。
その後は、王族の守るべき一線を越えないギリギリで愛を確かめ合い、同じベッドで眠ってしまった。なぜなら客間は、一部屋しか用意されていないから……ということだった。が! 多分、ハロルド王太子が頼み、部屋が用意されないなんてこと、ないと思う。
やはり私のことが心配で、そばにいたい……が本音だったと推測する。でもそれも今となっては、可愛らしく感じてしまう。だって彼は私の愛する人で、婚約者なのだから!
そのハロルド王太子は今回、領地視察と遊学を国王陛下に認めてもらうため、国益となることを三つ、成果として報告する――そう約束をしていた。
一つ目は、私。
エルロンド王国にとって、その力を認めている占い師の私は、大切にしたい存在。他国にいってしまうより、自国にいれてくれた方が嬉しい。何より、私がハロルド王太子の婚約者となったのだ。王太子がようやく婚約者を決めてくれた――という点からも、国王陛下は胸を撫でおろしていることだろう。
ハロルド王太子は、三つの国益について「ミーシャを見つけたこと、ミーシャが婚約者になったこと、ミーシャを連れ帰ったこと、これでも十分だと思う」と冗談なのか本気なのか分からないことを言っていた。でもちゃんと残り二つ、国益となることも成し遂げている。
そう。その二つ目は、サハリア国で金の採掘ができるようになったことだ。これはエルロンド王国の、建国約六百年の歴史を振り返っても、偉業となる。
私は自身の行くべき場所として、サハリア国を目指していたことを、ハロルド王太子は知っている。でも彼の目的は私を見つけ出し、プロポーズをすること。自身の目的は果たしている。しかも王太子として多忙の身。そのまま国へ帰る選択肢もあったはずだ。それこそ国益となりそうなことは、規模は小さくても、実は彼はいろいろやっていた。よって三つの国益も用意できているので、私を連れて帰国することもできたのだ。
でもそうはしなかった。
私の気持ちを尊重し、サハリア国へ共に向かってくれた。そしてそこで私は……自身の父親と会うことになった。サハリア国の三つの大富豪の一つ、ゼヒル一族。現在、このゼヒル家の当主が、サハリア国の代表を務めていた。ハロルド王太子はエルロンド王国を代表する立場だから、このゼヒル家の現当主アマルとも会うことになった。その際、私は、ハロルド王太子の婚約者として同席したのだけど……。
アマルはすぐに気づいた。私は母親似だった。そこで会談の後の昼食会で、さりげなく生い立ちを聞かれた。さらにその後、東屋でお茶を出され、そこで「もしや……」となり、アマルが父親であると分かったのだ!
そこには母親の親友であり、アマルの正妻イリヤも同席している。
母親は生前、親友の夫との間に子供をもうけてしまったことを、強く後悔していた。きっと親友からは憎まれている、嫌われている――そう思っていたようだが……。イリヤは母親のことを恨んでなどいなく、むしろ急に姿を消したため、ずっと心配していたと、打ち明けてくれたのだ。母親が亡くなるまで、どこでどうしていたのかを知りたがり、その苦労を思い、涙を流してくれた。
これには、母親が生きてここにいることができたらよかったのに!と、どれだけ思ったことか。もし私がここに来なければ、イリヤの気持ちも知りえることはできなかった。占星術の結果に従い、サハリア国を目指したが、正解だったと思う。
ちなみにアマルとイリヤの間に子供はないが、側妻との間に二人の男児が誕生しており、跡継ぎ問題も解決している。母親の両親は早くに他界しており、このアマルが正真正銘この世界で唯一の、血のつながった肉親だった。