混乱
使用人の男性はサチの捜索をするふりをして、うまいこと私達三人を書斎まで誘導してくれた。ちなみにドナが話をつけてくれていたので、書斎の入口の鍵も開けてくれたのだ! さすがに隠し部屋の鍵は、彼も持っていないだろう。でも書斎に入れれば、十分だった。
書斎の明かりをつける。
大きな文机と立派な椅子が置かれていた。椅子の後ろには、カーテンが閉じられているが窓があるのだろう。その左右には本棚がある。その左の本棚の後ろに、隠し部屋があるのだ。水晶玉で見た通りで本を動かすと、本棚を左へスライドすることができた。
現れた扉を、ドナとテェーナと私の三人で、必死にガンガン叩く。
水晶玉では、木の扉のように見えていたが、実際は鉄の扉だ。
扉は結構分厚いようで、中の様子は分からない。
でもサチは、手は自由だった。口に噛まされていた布をはずし、叫ぶことはできるはずだ。それでも声は、こちらには聞こえないかもしれない。
しばらくガンガン叩いていると。
「なんだ、お前たち、何をしている!」
怒鳴り声を聞いた瞬間は、もう三人でビクッとして飛び上がるところだった。間違いなく、この声は、ジュリアーラ公爵だった。
もう恐る恐るで振り返り、ドナとテェーナは目が泳ぐ。その気持ちは分かる。だっていると思ったマイクがいないのだから。ここでマイクがいなくて、サチの救出がちゃんとできるのかと、不安になったのだろう。
「ジュリアーラ公爵、そのように怒鳴るなんて。何があったのですか?」
うん?
私は自分の耳を疑った。
聞いたことがある声だった。
「これはこれは、ハロルド王太子殿下。お見苦しいところをお見せしました。いえ、余興で招いた踊り子が、勝手に書斎に入り込んでいたのですよ。……まさかとは思いますが、盗みでもしようとしているのかと」
「本当ですか、それは由々しき事態。わたしの近衛騎士隊長に捕えさせましょう、ハーツ!」
嘘、嘘、嘘!
誰か嘘と言って!
願いもむなしく、ジュリアーラ公爵の後ろから書斎に入って来たのは、ハロルド王太子の近衛騎士隊長のハーツ!
咄嗟に背を背け、私は座り込んでしまう。
するとドナとテェーナも同じように座り込んだ。
こんな風に座り込んでも、何の解決策にもならない。
むしろここは冷静になり、仲間がここに閉じ込められていると、伝えなければならないのに!
だがきっと、二人とも動転しているのだろう。
なぜなら二人とも、エルロンド王国にいたのだ。ハロルド王太子と聞いて、とんでもない人が現れたと思ったはず。しかも盗みの疑いをかけられている。
というか、マイクの知り合いが、ハロルド王太子だというの?
そんな都合のいいことがある? ないと思う。そんな美味い話、転がっていない。
そうなるとこれは……。
マイクは、ハロルド王太子が仕向けた、私の追っ手だったということ!?
ハロルド王太子から逃げきれたと思ったけれど、そうではなかったということ!?
とにかくパニック!
そこへ音もなく近づいたハーツの影が、私達三人の上に広がる。
あああ、もう、こうなったら!
立ち上がり、サチの件を話すことにした。
が!
「ミーシャ!」
ハロルド王太子が私の名を呼んだと思ったら、こちらへと駆けてくる。
ダークブラウンの髪に、意志の強さを反したような眉。
グレーに近い碧い瞳にシャープな顎、そして高い鼻。
血色のいい唇に、透明感のある肌。
純白の上衣に、同じく純白のマント。長い脚が収められたズボンは紺色。
どこからどう見ても、ハロルド王太子だった。
こうなるとサチのことより、本能で逃げようとしたが。
熱烈に抱きしめられ、そして――。






















































