不明
「じゃあ、着替えましょ、ミーシャ」
廊下にいたドナと控え室に入り、マイクは廊下でもう一人の傭兵と共に待機。
部屋の中にはテェーナがいて、契約書の整頓をしていた。
「そういえばサチは、どうしたのですか?」
「あ、そういえばまだ戻らないね」
ドナが置時計を見て、テェーナを見た。
するとテェーナが、サチはどうしているのかを教えてくれる。
「サチは、ジュリアーラ公爵のお嬢さんが話したというから、メイドと一緒に出て行ったのよ」
「そうなのですね。確かにさっきすれ違いました」
「三十分ぐらいで戻って来ると言っていたけど……どうしたんだろうね?」
そこでドナは、廊下で待機するマイクに声をかけ、サチの様子を確認するよう頼んだ。
着替えをするつもりだったが、契約書をまずは片付けようとなった。念のためで、不備がないか見ながら整頓をしていると……。扉がノックされる。
私が扉を開けると、そこにはマイクがいた。
「使用人に確認したが、ジュリアーラ公爵の令嬢は、ずっと舞踏会の会場にいた。『サチ嬢を呼び出したわけがない』と、言われてしまった。そんなはずはないと思い、大広間に向かい、直接ジュリアーラ公爵令嬢にも確認したが……。サチを呼んだ覚えはないとのことだった」
これには駆け寄ったドナとテェーナも顔を見合わせ、「どういうことだい?」となる。そしてテェーナの顔色が変わった。
「まさか、ランの時と同じでは……?」
昔、このメンバーにはランという踊り子がいた。
ランは幼女のような顔立ちながら、体は成熟した女性であり、一部男性から絶大な支持を受けていたという。
とある男爵家で余興として踊りを披露した後。
素晴らしい踊りだったと、全員でご馳走になることになった。それを食べていると、まだ続いている舞踏会の会場で、ランと話したいという令嬢がいると言われた。すぐに終わるということで、ランは会場に向かったが……。
次にランとドナ達が再会できたのは、翌朝の男爵領内の雑木林の中だ。
ランは複数人から暴行を受けた痕跡があり、最後は首を絞められ、遺棄されていたことが判明する。
つまり余興として登場した踊り子が気に入り、令嬢の名を語り、呼び出す。そしてそのまま外へ連れ出し、複数人で……。最後は犯行をばらされないよう、命を奪った。
「そんな、サチがそんな……」
ドナが青ざめ、テェーナは「探しましょう!」というが……。
ここは公爵邸であり、とても広い。
やみくにも探すわけにはいかないだろう。今の話をしたところで、踊り子一人のために、沢山の招待客もいる中、ジュリアーラ公爵は捜索をしてくれるだろうか?
そこで私はドナにこんな風に提案した。
「落ち着いてください。ひとまず踊り子の一人が迷子になっている――ということだけ、公爵様に伝えましょう。大勢の招待客もいて、舞踏会は盛り上がっている最中です。大規模な捜索は、してもらえない可能性もあります」
「確かにそうだね。テェーナ、マイク、公爵様のところへ行くよ」
ドナがテェーナとマイクを連れ、公爵の所へ行こうとした。
だが。
「そうなるとこの部屋で、ミーシャ嬢が一人になります」
「大丈夫です、マイク様。廊下にカーンもいますから」
もう一人の傭兵、カーンは廊下で待機してくれている。そして私は……部屋で一人になりたかった。
「でも」と言い出しそうなマイクを制し「早く、サチのことを見つけましょう!」と声をかけると、ドナが頷き「カーン、ちゃんと見張っておいてよ!」と声を張る。カーンは「はい!」と返事をして、ドナはマイクのことを促す。
マイクは何か言いたげだが、グッとそれを呑み込み、部屋を出て行ってくれた。
よし、今のうちに。
水晶玉は、さすがに踊りの最中は持っていられない。だが宿からは持ってきていた。つまりこの公爵邸に持参していた。
素早くくるんでいた布から取り出し、ソファの前のローテーブルに置き、手をかざす。
サチ、あなた、どこにいるの?
キラッと水晶がきらめき、そして――。