ダメ
「ハーレムに入るつもりはありません。そもそもそんな大富豪や富豪とは知り合いではありませんから。ただ、占ったところ、故郷に戻るといい、と出たので……。それにそもそも一夫多妻制、私は無理だと思います。愛されるなら、たった一人がいいですから」
「なるほど。そうだったのか。生まれ故郷に戻ろうとしていたのか。わたしも一夫多妻制など反対だ。たった一人の愛する人と、添い遂げることができれば、本望だ……!」
マイクがこれまで見たことがないような笑顔で私を見て、なぜか手を握り締めてきた。
「サハリア国は、ここの隣の国。つまりすぐに到着する。ならばもうあの踊りは……」
「ダメです」
「え」
「この国で興行することは、ドナから事前に聞いていました。それを踏まえ、旅の仲間に加えていただいたのです。約束ですから。私は踊ります」
するとマイクはとても困ったという顔になり、こんな提案をする。
「他の踊りではダメなのか? 普通にワルツを踊れば……」
「ワルツを見たくて、踊り子を呼ぶ人なんていません」
「そ、それは……そうだな」
貴族が得意とするダンスの一つがワルツなのだ。踊り子を呼ぶのは、それ以外の、珍しい踊りを余興として楽しみたいから。
そこを指摘した結果、しょんぼりするマイクは……。これまでのイメージと大きくかけはなれ、なんだか不思議。今日のマイクは、普段の彼とは本当に別人のように思えてしまう。
「ただ……マイク様のような高潔さを求める騎士という立場からすると、不快にか」
「不快などではない! あんなに美しく魅惑的な踊りは見たことがない。あれは誰もが魅了される。そう、見れば魅了されてしまう……。君のファンが増えることが不安だ」
「それは……護衛の面で、不安ということですか?」
マイクは少し考え「そう、その通り」と返事をして続ける。
「先程、多くの令息に囲まれただろう? あんな風に囲まれた状態で、襲われたら……守り切れない」
「それは一理ありますね。ではダンスが終わったらすぐ、マイク様が迎えに来てください。今日みたいに」
「……。そうするしかないか」
マイクが「ふうっ」とため息をついた時だ。
笑い声が聞こえ、何かと思ったら……。
メイドと並んで歩く、サチの姿が見えた。
まだソロの時の衣装を着たままだ。
その後ろ姿を見送ると、マイクが「立ち話がつい長引き、失礼した。控室へ行こう」と声を掛けてくれた。それに頷き、二人で並び、歩き出す。
そこで控え室の入口が、人だかりになっていることに気が付く。
「ちょっと確認するので、ここで待っていただきたい」
マイクはそう言うと、黒のテールコートを着た四十代ぐらいの男性に声をかける。二言三言会話を交わすと、マイクはすぐに戻って来た。
「どうやら興行を頼みたいと、舞踏会の招待客が殺到しているようだ」
「なるほど。大盛況ですね」
「……ミーシャ嬢のダンスを見れば、こうなって当然だ……」
マイクがなんだか不貞腐れたようにそう言った時。
「あ、マイク、ミーシャ、こっちで手伝って!」
控え室前の人だかりの間から顔を出し、ドナが手招きをする。
返事をして近づくと、興行を希望する客の名前を聞き、契約書を用意して欲しいとのこと。「分かりました!」と応じた後は、もう事務作業で大忙し。マイクも護衛どころではなく、あちこち走り回る。私もローブを着たまま、着替えもせず、契約書の説明をして、サインをもらう事態だ。
こうしてばたばたすること約一時間。
ようやく最後の一人の受付を終えることができた。
「助かったよ、ミーシャ、マイク、ありがとう! ものすごい人気で驚きだね。一ヵ月はこの帝都に滞在になりそうだよ」
ドナの言葉にマイクが驚愕している。
「一ヵ月もあの踊りを披露するのか……」という呟きが聞こえたが、これは……聞かなかったことにしよう。
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お知らせを一件させてください!
【完結のお知らせ】
一気読み派の読者様、お待たせいたしました!
『断罪終了後の悪役令嬢はもふもふを愛でる
~ざまぁするつもりはないのですが~』
https://ncode.syosetu.com/n2528ip/
断罪終了後に覚醒し、国外追放され、どこの国にも属さない通称“もふもふの森”へやって来た私。
悪役令嬢に転生したけど、一番キツイ断罪が終わった後なのだ。
大のもふもふ好きな私は、新天地でスローなライフを楽しみます!
と思っていたのですが……?
断罪終了後シリーズ第五弾は、久々のもふもふ癒し系!
もふもふの癒しだけではない
構成にも工夫をした作品です。
「あっ」という驚きと出会いたい読者様。
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