関心
帝都の中心部に皇宮と宮殿があり、そこを中心に東西南北にメインストリートが伸びている。その通りに沿い、皇宮により近い場所に高位貴族のタウンハウスがあった。その貴族の邸宅を囲むように、店や劇場が軒を連ねている。その店の近くに平民が暮らすエリア広がり、公園など緑も広がっていた。
皇宮のある宮殿の前には、大小の広場がある。大きな広場には、噴水やベンチもあり、帝都民の憩いの場になっていた。貴族が散歩していることも多く、ここでチラシの配布を行うことになる。
サチとテェーナが、ソロの時に着用するドレスに着替え、デモンストレーションも行う。
サチとテェーナは、偶然にも故郷を同じくしており、その故郷でポピュラーなダンスを、踊ることになっていた。カスタネットを鳴らしながら踊る、リズミカルなダンスだ。ドレスも裾にたっぷりのフリルが飾られ、水玉模様が特徴的。
その姿で二人が登場するだけでも注目が集まり、ドナと私が持つチラシは、貴族達がどんどん持って行ってくれる。デモンストレーションで、二人がダンスを始めると、それはもうすごい人だかり。予定していたチラシは、あっという間にはけていた。
しかもその場で興行の依頼がかかり、なんと「今晩、ぜひ!」という話まで舞い込んだ。これにはドナは大喜びで、その貴族と早速契約書を交わしている。
ドナがすごいところは、元貴族出身なだけあり、旅の踊り子ながら、契約書をちゃんと取り交わすところ。これにより、ドタキャンや支払いが滞ることもない。
「サチとテェーナのデモンストレーションのダンス、初めて見たが、面白いな。リズミカルで明るく、従者がギターを弾きながらいれる合いの手も、ダンスを盛り上げる。カスタネットの響きも軽快だ。……わたしの母国でも彼女達が興行したら、人気がでそうだ」
いつの間にか隣に来たマイクの瞳が、興奮でキラキラと輝いている。その瞳を私へ向けると、マイクは無邪気に尋ねた。
「ミーシャ嬢も、二人のようなダンスを踊るのか?」
「私の踊りは、二人とは全く異なりますね。……今晩、早速興行があるので、そこでご覧いただけると思いますが……。騎士であるマイク様は、見たことがないような踊りだと思います」
エルロンド王国の宮殿では、余興の一環で、踊り子を招くこともあるという。もしマイクの母国でもそういった慣習があれば、サハリア国の踊りも見たことがあるかもしれない。ただ、どうだろう。マイクは旅の踊り子=娼婦のイメージを持っていた。そう思われても仕方ないものの。そのイメージが先行していたら、例え余興で踊り子が登場するらしいと聞いても、退席していそうだ。
それにサハリア国の伝統的なダンスは、ハーレムという婚姻制度の枠組みの中で、時間を持て余した側妻により誕生したと言われる。女性の体型をいかした踊りであり、衣装の露出も多い。高潔な精神を持つことを矜持としている騎士からすると、破廉恥と思われるかもしれない……。
「ミーシャ嬢の踊り、楽しみにしている」
「え、あ、その」
マイクに見せるには、刺激が強いのではないか。
見た瞬間、「娼婦ではないというが、これではヌードショーと変わらないのでは!?」と嫌悪されない……? でもあくまでサハリア国の伝統的なダンス。衣装も身に着けているし、裸にはならない。露出が多いだけだ。
そこで気づく。
どうしてこうもマイクがどう思うのかを気にするの、私?
マイク以外に二人の従者や、もう一人の傭兵だっているのに。
少し親しく話したからといって、マイクのことを意識し過ぎだわ。
それにマイクと話したい!みたいに前のめりになるなんて。
何よりも私のダンスは恥ずべきものではない。
母親が懸命にレッスンしてくれたのだ。堂々と踊ろう。
こうして興業の時を迎えることになる。