興味
「怪我はないようだが、怖かったようだな。でもそれは当然だ。こんな時間に誰もいない中、酔っ払いに絡まれるのは恐ろしいこと。……しかし、夜遊びのために外へ出ようとしたとは思えない。寝間着姿で、何をしようとしていたのだ?」
そこを問われると、なんだかしどろもどろになってしまう。
「そ、その……喉が乾いて目が覚めまして……。お水を飲むため、一階へ下りました。水を飲み終わった時、女性の悲鳴のような声が聞こえたので……。何かあったのかと、扉から様子を見ていたら、あの酔っ払いに絡まれました」
するとフッと騎士は苦笑し「なるほど」と呟く。
「男女の逢引きの場を目撃したわけか。まあ、そこに転がる御者こそが、それを覗き見して、楽しんでいたのだろう。そこに酒の瓶も転がっている。飲んでいたのだろう。……わたしは夜遅くにこちらに着いた。あいにく部屋を取ることはできなかった。よって宿の主に交渉し、そこの納屋で休ませてもらっていたところだ」
「……! な、納屋で? それで疲れがとれますか?」
「戦場に出れば、野宿も当たり前だ。屋根と壁があるだけましというもの。……ところで君は、旅人なのか?」
私は自分が旅の踊り子であると告げると、騎士は目を丸くして驚いている。その反応に、私が驚いてしまう。踊り子はアデレンのような妖艶なタイプは多い。そういった子の方が人気になるし、講演料以外の金品をもらえることもある。それにアデレンに比べると確かに私は、いろいろと物足りないかもしれないが……。
そんなに踊り子に見えないのかしら? 本業は占い師だから、見えなくても正解と言えば、正解なのだけど。
「踊り子ということは……いや、その……」
「あ、あの! 私達は純粋な踊り子ですから! 娼婦とは違います。ちゃんと従者と兵士もつけていますし、踊りで生計を立てていますから」
「……そうか。それは安堵した」
騎士のような高潔な精神を持つ人からすると、踊り子なんてネガティブなイメージなのかもしれない。実際、踊り子と名乗っても、その実態は娼婦ということもある。……というか若干、アデレンはそう言った気配もあるが、でもサチからもドナからも「私達は純粋に踊りで生計を立てている。そっちの商売はしていない」とキッパリ言われている。
そこで私がくしゃみをすると、騎士は慌てて宿の裏口の扉を開けた。
「そんな寝間着では、体が冷える。早く部屋に戻るといい」
「あ、はい。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると。
「……しばらくこの国に滞在するのか?」
「いえ。早朝にはここを出て、デュカン帝国へ向かいます」
「そうか。……わたしもデュカン帝国へ向かう途中だ。君たちの興行、見るチャンスがあればいいのだが」
少し照れたように見えるのは、気のせいかしら?
騎士ともなると娯楽よりも訓練に勤しんでいそうだし、踊り子の興行など見ることはないだろう。それにそもそも私達の場合は……。
「私達の場合、貴族のお屋敷に招かれて踊ることが多いのですが……。お祭りで踊ることも稀にあるようなので、お見せする機会もあるかもしれませんね」
私の言葉に騎士は意味深に微笑む。
見るからに誠実そうなのに、暗がりでそんな笑みを浮かべるのは、反則に思える。なんだか高潔そうな裏で、実はものすごく女好きとか、裏の顔があるのでは!?と思えてしまう。
「……再会できるとよいな」
ハッキリとした二重の瞳が一瞬、キラリと輝いたように感じる。
暗がりでも、目力があった。
これは……騎士の中でもかなり高位な身分の方のように思える。
こんな風に目に力があり、輝きがあるのは、揺るぎない自信があるからだ。
ふと名前を聞き、彼のことを占いたいと思ってしまう。
踊り子と言っているのに、今さら名前を問い、占うと言い出しても怪しいだけだ。
名前は聞かず、「そうですね。ではおやすみなさい」と頭を下げた。
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