誤解
「お嬢さん! あんたも好き者だな。あのイチャイチャしている二人を見ていたんだろう? こんないい体をして、顔も綺麗なのに、なんだ、男に飢えているのか? いや違うか。好きなんだ、アレが。アバズレなんだろう!」
アルコール臭い男に強引に抱き寄せられ、鳥肌が立つ。
「ち、違います!」と押し殺した声になるのは、アデレンとハミルに気づかれたくなないからだ。盗み見なんてしていないが、していたと思われては困ってしまう。よって大声を出せなかったが……。
「なんだよ。あっちもよろしくてやるんだから、俺達も楽しもうぜ」
どうやら男は、この宿の客の御者のようだ。宿の部屋ではなく、馬車の中で休息でもしていたのだろうか? ともかくそこでアデレンとハミルの逢引きに気づき、それを眺めていたようだ。そして気分が高揚しているところで、私が宿の裏口の扉から、アデレンとハミルを見ているのを発見した。
覗きが趣味……と勘違いしたのだろう。
もし酔っていなかったら、この御者も、こんなことはしなかったのかもしれない。でも完全に酔っ払いで、イチャつくアデレンとハミルを見て、気持ちがそっちに向かってしまったから……。
今のこの状況は、最悪以外の何物もでもない。
白の綿の寝間着は胸当てしかつけていないので、触れられたら最後、男の興奮は一気に高まるだろう。そうならないよう、なんとか男の胸と自分の胸の間に腕をねじこみ、距離をとろうとする。
しばらくもみ合いが続く。
「なんだよ、女のクセに案外力があるな。あきらめろよ、誰も助けなんて来ないんだろう? それとも一度痛い目にあうか?」
この言葉に血の気が引く。つまりこれは暴力を振るわれるのでは!?
さっき、変な忖度はせず、大声を出しておけばよかった。
今、叫んでも間に合わない。
男が腕を振り上げるので、これは殴られると思い、目をつむった。
「なんだ、お前?」
男のアルコール臭漂う生暖かい呼気が、顔に触れた。
嫌悪感で涙が溢れる。
だが次の瞬間。
「うぐっ」と押し殺した声と共に、男の体が私の体から離れた。
ビックリして目を開けると、酔っぱらった御者の男は地面に伸び、そのそばには……。
ブロンドの、騎士らしき隊服姿の男性がいる。
紺色に白のラインが襟や袖にあしらわれたもので、エルロンド王国の騎士団の隊服ではない。ではルイジ公国のものかというと……そもそもルイジ公国の騎士の隊服は知らなかった。つまり、どこの国の騎士なのかは分からない。
長身で、月光を受けた肌が、陶器のように青白く輝いていた。
瞳の色は月明かりだけでは分からないが、濃紺に見える。
「怪我はないか?」
とても低い小さい声だが、しっかり口を動かしているので、ちゃんと聞こえている。
「だ、大丈夫です。助けてくださり、ありがとうございます」
御礼を言い、頭を下げようとしたら、腰からガクンと崩れ落ちた。
想像以上にあの酔っ払いに言い寄られたことで、自分が緊張していたのだと理解する。助かったと安堵し、力が抜けてしまったようだ。なんとか地面に手を伸ばし、座り込む事態を避けようとした。
だが。
ふわりと腰に回された腕と、上腕を掴まれ、地面に手をつけずに済んだ。
つまり、目の前の騎士に支えられた。
腰に回された腕に感じた筋肉。上腕を掴む手の力強さ。
普段、男性からこのように触れられることはないので、ドキッともしたが、その精悍さに感嘆してしまう。男性は女性とは全然違うのね、と。
「……!」
爽やかな中に感じる甘い香り……マンダリンだわ。
私のつけているアニスの香油と、とても相性がいい香りの一つがマンダリン。よってたまにブレンドするため、マンダリンの香油も持っていた。
自分の好みの香りをまとっていることで、自然と体を支えてくれた騎士への好感度も上がっている。上がる以前に二度も助けられたのだ。一度目は酔っ払いから。二度目は腰砕けから。ありがたい=好感度上昇は当然だった。
そんな騎士が私に尋ねた。






















































