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七色と欲望

作者: 鏡 糸

短編4作品目です。

今回の三題噺は「茅」「七色」「縁側」です。


今回は素材を十分に活かすことができたのではないかと思います。頑張って書くことを続けていきたいですね。


僕は縁側に座るのが好きだ。

僕の家は郊外に建っており、都会の喧騒から外れた環境で伸び伸びと育ってきた。

庭も広く、小さい頃から縁側に座り庭に生えている草木を見るのが好きだった。


秋も更け少し肌寒くなってきた頃僕は“それ”を見つけた。

いつものように縁側に座り庭を見ていると一際輝く植物を見つけた。

遠くからでも分かるほど光り輝くそれに近づくと、正体は茅であることが分かった。


茅なんて庭にはなかったはずなのにそれだけがポツンと生えており、穂先から根元までが虹のように7色に染まり、陽の光にあてられキラキラと光を放っている。


「なんだこれ」


イタズラにしては手が込んでいるしあまりにも不自然だ。

僕は思わずスマホを取り出し写真に収めた。

そしてSNSに投稿した。


しばらくするとスマホからけたたましく通知音が鳴り始めた。見ると先程投稿した写真が拡散されているらしく様々な反応が来ていた。


『凄い!ゲーミング植物だ!』

『普通こんな色にならなくない?貴方のイタズラなんじゃないですか?』

『これ自然現象?なんにせよ珍しい!』


反応の中には自分のイタズラではないかと非難する声も混ざっていたが大概はこの七色の茅に興味を示す好意的なものが多かった。

続けて反応を見ていると一件のDMが届いた。


『初めまして。突然のご連絡失礼致します。インターネットメディア「おもしら!」取材班の者です。七色の茅の写真を拝見し是非私どもの記事で紹介させていただけないかと思いご連絡しました。』


僕は二つ返事でそのDMに了承の旨を送った。


次の日の午前、取材班の人が我が家にやってきた。

「凄いですね〜写真で見た通り七色に光っているなんて。正直私は合成なんじゃないかと思っていましたよ。」

「あはは...。」

この男、いきなり失礼なこと言いやがる。

その後は簡単なインタビューと見つけた経緯を話し、茅の写真を様々なアングルから撮っていくと取材班は帰って行った。


その日の午後には記事がネットに上がり僕の投稿には更なる反応が集まった。拡散された回数は万を越え、徐々に海外からのコメントや有名な(僕は知らないけど)植物学者まで反応を示した。

人から注目されることなく生きてきた自分にとって一連の反応は刺激の強い、癖になりそうな快感があった。


『テレビで取材させてください!』

『新聞で取材させてください!』


取材のオファーのDMも次々と届き僕はそれに対して全て了承した。


ある日僕の家には大量の取材陣が押し寄せていた。一社一社の取材に応じていき気分はまるで英雄のようだった。

数時間にも及んだ取材が終わると、僕は部屋に篭り送られてくる賞賛の声と取り上げられた記事を読み耽った。いつの間にか縁側に座ることはなくなっていた。


またある日、徐々に少なくなってはいるものの数社の取材陣が僕の家にやってきた。

「本日はよろしくお願いします。早速ですがその茅を見せていただけませんか?」

「もちろん、こちらにどうぞ。」

僕は気取った態度で取材班を庭に通した。

しかし、いつもそこにあった茅は忽然と姿を消していた。

「あ、あれ...?」

萎れてしまったか?!と思い茅があった場所を漁る。周りに生えていた草花を踏み倒し徹底的に探すがその姿はどこにも見つからない。

「どこにもないじゃないですか。」

「いや、昨日までは確実にここに...」

「はぁっ...今日の取材はなかったことに。」

お目当てのものがないと知るやいなや取材班たちは家から出て行った。

「ちょ、ちょっと待って!絶対ありますから!」

そんな僕の声も聞かず家はまた静寂に包まれた。


───それから1ヶ月。僕はまた縁側に座っていた。今では誰もSNS上で茅の話をするものは無く世間からはすっかりと忘れ去られていた。なんなら、結局自分で作り出したものだったんじゃないかという噂まで流れていた。


楽しい時間は短く儚いものだった。自分がもて囃され有名人だと感じていたのは幻で、皆は世にも珍しい七色に光る茅にしか興味なかったのだ。


あの時踏み散らかした草花は責任を持って元の状態に戻るよう世話をし、今では元の庭の様子に戻っている。


やはり緑は綺麗だ。この縁側に座り自然を眺めているのが自分には合っている。


そう思い僕は目を閉じた。

瞼の裏ではあの茅が僕を誘っているかのようにゆらゆらと、左右に揺れているのだった───。

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