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砂漠の夜

※この作品は、吸血鬼モノであり、また神や天使なども登場人物として出てきます。

※吸血シーンや宗教的表現、また、バトルシーンにおける多少の残虐表現が含まれます。

※恋愛を描いています。18禁表現はありませんが、軽めの性的描写があります。

※苦手な方はご遠慮下さい。


◆評価、感想など頂けましたら嬉しいです。

 ――綺麗な、人だ。

 ライラは顔を覆うベールの端を指先でつまみ、その姿を盗み見た。


 辺りは凍える程に寒かった。気休めにもならない、薄っぺらな上着をキュッと握りしめて、小さく小さく縮こまりながらライラは、その美しい人に見入った。

 ごおっ、と強く風がうなり、乾ききった細かい砂粒が容赦なく吹き付ける。視界を遮る邪魔な布も、こんな時ばかりは少しは役に立つ。

 向こうでたき火を囲む厳つい男達は、ラクダや馬の陰に隠れて砂嵐をやり過ごしているが、特に屋根も無い無骨な荷車に積み込まれた“荷物しょうひん”であるところのライラには、凄まじい砂礫すなつぶてを遮ってくれる物はこの頼りない布きれ一枚があるだけなのだから。

 ライラは風に背を向け、荷車の上で横になった。こうなっては、少しでも身を低く屈めた方が良い。

「ああ、今夜は満月だったのに……。これじゃあ台無しね」

 手で顔を庇いながら、仰向けに転がり夜空を仰いだ。何もない砂漠の夜空は、地上と違って随分と賑やかだ。

 チカチカ瞬く星達の会話を見るのが、ライラの毎晩の習慣なのだが……。

「……砂漠なんて初めて来たけど、できればもう二度と来たくないわね。雨でもないのに、これじゃあ星が見えないわ。それに、凄く寒いし。昼間は上着なんて脱いじゃいたいぐらい物凄く暑かったのに、まるで嘘みたい。砂丘ばかりで特に見る物も無いし……つまらないわ」

 一人呟きながら、ライラはもう一度彼へ視線を向けた。

 ごつくてむさくて汗臭い、しかも人相もあまり褒められたものではないような男達ばかりの中で、彼は明らかに異質だった。

 さっきの夕飯のときだって、たき火を囲んで焼いた動物の肉を貪る男達の輪の中には加わらず、ただ一人で乾ききった薄っぺらい干し肉をかじっていた。

 

 確かに、彼はあの男達とは違う。今ライラがいるのは、砂漠を行くキャラバン隊だ。そして彼らは、町から町へ、砂漠を渡り歩き商売を営む行商人達なのだ。そして彼は、その彼らに雇われた護衛なのである。


 砂漠を行くキャラバン隊を狙う盗賊は多い。商人達もそうと知っているから、皆、争って腕の良い護衛を雇おうとする。

 腕の良い者なら、下手な商売をするより余程儲かるらしい。

 当然、雇われの身であるのだから、雇い主である商人達と同じ席につく事は出来ない。

 けれど、彼らに運ばれていく“荷物しょうひん”である自分とも違うはずだ。同じ席につく事は出来ないだろうが、暖かな火の近くで暖を取り、商人達の食料を分けてもらう位は十分許される身分のはずだ。


 しかし彼は黙々と食事を終えると自分の馬の傍らに立ち、音の出ない小笛を口にくわえた。馬の耳が、ピクリと彼の方へ向けられる。

 ぶふん、と鼻汁を飛ばしつつ鼻を鳴らし、顔を主に擦り付ける。あまり上等な馬ではなかったが、それでも、彼の傍らに立ちたてがみを撫でて貰っているその姿は、とても絵になった。

 貴族を相手に商売をしている商人達ですら真似のできない、磨き上げられた感のある優雅な仕草。


 ――彼を見る者は、いない。

 その晩ライラは、気づかれぬよう気をつけながら、長い夜の間その不思議な男の姿を目に焼き続けていた――。


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