第四話 初めて遭遇、クズじゃない人
第四話 初めて遭遇、クズじゃない人
「兄ちゃん、その本が気に入ったのかい」
厚めの古本を読み込んでいるふりをしていたものだから、カウンターから店主の親父が声をかけてきた。
いかんいかん、かなり時間が経っている。
「ああ、おもしろうそうな本なんで欲しいところだが、今この国の通貨に持ち合わせがないんだ。悪いな」
「そうか。今時、古代魔法に興味を示す奴は珍しいから安くしてやりたいところだが、ただって訳にはいかないからな。
そうだ、兄ちゃん。
異国から来たって言ってたな。
何か異国の本を持っていないか。
手放してもいいもんがあれば買い取るぜ。
なんてったってここは古本屋だからな」
人の良さそうな老店主は俺がよほどその本を気に入ったと思ったのだろう。買い取りの相談に乗ってくれるようだ。
「分かった。ちょっと待ってくれ。探してみる」
俺のリュックの中は、数学、物理、化学の問題集と図書館で借りた本5冊だ。
今日が返却日だったからいつもよりかなりたくさん入っている。
返す予定だった本は、『世界遺産の絶景』という99パーセント写真だけで出来ている写真集1~3巻、『太陽系の不思議』という惑星のイラストや写真が中心の図鑑、そして異世界転生ラノベ『転生したらお母様のおなかの中だった!? 侯爵令嬢は輪廻の先に何を見るのか……』だ。 最後の一冊はなかなかおもしろかったが文字量が多く読み切れなかったから、継続貸し出しを申請する予定だった。ネット仲間の話ではファンタジーの皮を被ったSFと言うことだが、なかなかにおもしろい。
何にしても、この中に店主の買い取り眼にかなう代物があるかだな。
俺はリュックを背中から下ろして、違和感に気がつく。
軽い。
問題集三冊と写真集含めて大きめの本4冊にラノベ1冊が入っていているはずなのに、リュックが膨らんでいない。
慌ててリュックのファスナーを開けると、普通に本が見える。
何だこれ……。と思っていたら解析・鑑定が仕事をした。
異世界召喚リュックサック:持ち主とともに異世界から来たリュックサック。持ち主とともに成長し、レベルに応じて収納量を増やせる。高レベルになったため保温、冷蔵、冷凍、時間停止などの機能が付加された。現在レベル999。
化けていた。
「ほう、収納マジックバッグか。いいもん持ってるな兄ちゃん」
店主が興味深そうにリュックの中をのぞく。
「はは……」
笑ってごまかしながら一番上にあった『世界遺産の絶景』第1巻を取り出す。
念のために鑑定しておこう。
異世界召喚写真集:持ち主とともに異世界から来た写真集。持ち主とともにレベルが上がり、高レベルになったため破壊不能、自動修復が付与された。現在のレベル999。
こいつもか……。
こんなもん売っていいのか。そもそも借りもんだし……
と思っていると店主が俺の手から写真集をひったくるように奪い去り、食い入るように見始めた。
「こ、これは……
なんと精巧な絵だ。まるで風景をそのまま切り抜いてきたようだ。
それに紙質が異常に高い。
この薄さでしっかりとした平面。まるでカンナで削った板のようじゃないか。
そこに絵の具の凹凸も分からないほどの薄さに塗られた絵のはずなのにこの完成度。
凄すぎる。
兄ちゃん。これは間違いなく国宝級だ。うちで買い取れるか分からないがどうだろう、よかったら手付金でうちに預けてもらって、好事家が集まるオークションで捌かせてもらえないか」
何かとてつもなく感動した様子だ。
しかし、破壊不能と自動修復とかついてるし、借り物だし、売っていいものか……
「手付金として大金貨10枚、後はオークションの落札価格の9割でどうだ」
店主はカウンターの鍵付き引き出しから大きめの金貨を10枚ほど取り出す。
ふと金貨を見ると鑑定が仕事をした、
大金貨:日本円で1枚10万~15万円相当の金が使われている。この国で流通している貨幣では最高額。
と言うことは100万円~150万円の価値がある……
「売った!」俺は即決した。
大金貨1枚を中金貨1枚と小金貨4枚、大銀貨1枚、小銀貨5枚に両替してもらって受け取り、『世界遺産の絶景』第1巻を親父に渡す。
ちなみに金の価値はこんな感じだそうだ。
金貨 大が十万円 中が五万円 小が一万円
銀貨 大が五千円 小が千円
銅貨 大が五百円 小が百円
鉛貨 中が五十円 小が十円
鉄貨 中が五円 小が一円
鉛の方が鉄より高いのには驚いたが、金属としての価値が貨幣の価値に比例しているわけでもないようだ。ちなみにアルミニウムの貨幣はなかった。
「それじゃあ、10日後にまた来てくれ。5日後のオークションに出品するから、その頃には金の決済も終わっているはずだ。
それと兄ちゃんが見ていた古代魔法の本は持って行ってくれ。サービスだ」
「いいのか」
「ああ、手数料の1割だけでもこれは相当なもうけになる予感がする。
それに、こんな素晴らしい本を扱わせてもらえるなんて、古本屋冥利に尽きるってもんだ」
「そうか、ならありがたくもらっておこう」
これでなんとか食っていけそうだ。
俺は親父に礼を言うと魔法書をリュックに詰め古本屋を後にした。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
以後は、需要があれば書いてみたいと思います。
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