第二試合でございます
カッコイイ事を言わせようとしたところ、私にも何が言いたいのかわからなくなった言葉が多々あります。まあ雰囲気で、カッコつけたいんだな、と思ってください。
『では10分後に、第二試合を始めます』
決勝リーグは、一試合ごとに休憩を挟む。これは単に、観客がトイレとか行ってて試合を見逃した―、ってのを無くすための準備時間で、選手の事を考えた事ではない。
ってか正直言って、選手の都合に合わせる必要は無いし。そりゃあまあ準決からの決勝とか、休憩時間が馬鹿みたいに短くなるだろうけど。そんな事言い出したら、その人が一試合をしたら、次の日の試合をするべき、とかになってくるし。うん、とにかく待ち時間はあまり気にする必要はない。できれば次の試合は遅い方が嬉しいけど。
「っあー。ったく、なんだってこんな時に」
まあ俺は、俺の体とはうまく付き合っていく必要があるんだろうけど。
けどまあ、そんな体調の事を考えても、ちゃっちゃと控室に向かって、体を落ち着かせたい。
「なんで反撃しなかったの!あんたの実力なら私の攻撃を一回躱した時にでも、私に深手を負わせれたはずなのに!」
「いや」
「ふざけないでよ!」
……。なんだってこう、今日はツイてないんだよ。
えー。現状確認。
俺、トイレから控室に戻るところ。
俺が使って良い事になっている控室の前、姫様とイエスタが言い争っている。どうも姫様が一方的に攻撃してるっぽいけど、まあ言い争っている。
うーん。何故?
この通りに控室は5つあり、前に使っていた人と被らないように、別室を与えられる。つまり、第一試合の人が使う控室は1号室と2号室、んで第二試合の人が使う控室は3号室と4号室、って感じになる。
つまり、言い争いになるとしたら、その1号室か2号室の前、又は舞台のある場所から戻っていく通路で言い争いが起きるはずだ。
にも関わらず、どーいう訳か、俺の控室の前で姫様がかなり御冠の様子で。
……。いやまあ正確に言うのであれば、俺の控室と言うよか、俺と俺の対戦相手の控室との間、というか。つまりまあ、その対戦相手の人も、扉越しに様子を窺っているようだ。うん、魔力を隠そうともしてないから、案外簡単に気づけるな。でもまあ、どう考えてもこの目の前で言い争いしている場面を目撃しちゃったら、この様子を窺っているのはわからないと思う。だって現に、俺も現状把握をしようとして、冷静に周りを確認してようやく気付いたぐらいだし。
「なんでよ!なんで手加減なんてするのよ!」
あー、こういう下世話と言うか下品な感じの事を言うのはなんだかなーって思うんだけど。あれかな?俗に言う、二日目、という奴なのかな?いや単にそういう性格なだけか?まあ姫様は俺達みたいな一般人とは違う悩みがあるのだろう。きっと、貴族だろうと理解できないような悩みなんだろうさ。
「そんな事しない」
「だったらなんで、攻撃する時、あんな攻撃になるのよ!」
「それは、」
「ふざけないでよ!全力じゃない子を倒しても、なんの意味もないじゃない」
うーん。そりゃあまあ、手加減されたら腹が立つって言うのは理解できるんだけど。俺としては、まあ戦いが楽になって、手を抜いてくれるのなら是非抜いてください、って感じだけど。
まあやっぱり、王族様の悩みというのは、凡人には理解できなさそうだ。
あ。扉の向こう側から様子を窺っていた俺の対戦相手、扉からちょっとだけ顔を出していた。そして目があった。ども、と会釈する。そうすると返してくれた。
「もういい!」
なんというか、どしどしって感じの効果音が聞こえて来そうな感じで、俺の控室の前から離れていった。
ついでに言えば、彼女の帰路が俺のいた方向だったらしく、すれ違い様に睨まれた。「なにみてんだ、ごらっ」みたいな感じで睨まれた。幸い、聞いてたかどうか聞かれたりせずに済んだ。
んでまあ、目の前での言い争いが終われば、俺だってこんな通路の曲がり角でいる意味がない。さっさと控室に入らせてもらう。
「えっと、聞いてたの?」
「あんなにでかでかと喋ってたら、聞こうとしなくても聞こえてくる」
「あはは。ねえ、私の戦い方って、間違ってるのかな?」
間違ってるか、って質問は、攻撃されたら逃げるあれだろうか。うんまあ、そんなの一言で知らんとしか言えないだろうけど、今はちゃんと悩んでいるっぽいし、こっちもそれなりに真面目に答える必要があるっぽい。
「俺は他人の戦い方に口出しできるほど偉くもないし強くもないからなんとも言えないけど」
そう。他人に戦い方を変えろとか言えるのは、それこそこの学校の先生だとか、ほにゃらら流派の師匠だとか、自分より格上の冒険者だとか騎士だとか。つまりまあ、今の俺にはその資格はない。だからそもそも、この質問の答えを俺は持ち合わせていない。
でも、それでも言ってやれる事もある。
「少なくとも、お前が理想としているのは自分を守るための力であり、結果的に逃げるってのが一番簡単だとは思う。そしたらお前が恐れてる相手を傷つける事も起こりえないし」
「そ、そうかな?」
「まあ少なくとも、あの姫様が求めているような正面からドンパチやりあう戦い方は、お前の理想とは程遠いからな。しゃーないとは思うけど」
俺は姫様が何を求めているのか知らないけど、あの手の駄々っ子は、大抵は認めて貰いたいって言う欲の下、動いている事がある。
だからまあ、強者であり本気の相手を打倒して、そして誰かに認めて貰いたい、ってのがあるんだろうさ。
んでもって、折角その強者に当てはまるイエスタだけど、残念な事に彼女の理想は自分を守る戦。つまり逃げきれればそれでいい訳で。だからこそ、そんな逃げ腰の相手を倒したって、誰にも認めて貰えないじゃない、ってな感じでキレている、と俺は予想する。
駄々っ子と予想したのは、まあなんとなくとしか言えないけど。まあなんか、言ってる事が駄々っ子っぽかった。
「でももし、イエスタが守りたいと思った相手がいて、今のお前の戦いのままだと、まあ間違いなくその守りたいと思った相手は守れないだろうな」
「……」
「そりゃあ攻撃ってのは危険が危ないとか言える程度には危ないけど、そんなの使い方次第だ。誰かを傷つける力があるって事は、誰かを守る力にもなってくれるわけだ。その攻撃を怖いからってだけで遠ざけていたら、守れるものも守れないぞ」
「……、うん、そうだね」
「あと。お疲れさん、ナイスファイト。姫様相手によくもまあ臆せずに行けたな。俺はやっぱし、手を抜いてしまうというか、姫様に手を挙げるなんておっかないというか」
「あはは、ハルキくんの場合、立場がどうこうってあまり気にしてないと思うけど」
「ま、姫様相手にすることなんか、今は考えてられねえよ。目の前勝負が大事だし」
「うん、頑張ってね」
「応援よろしくおねがいします」
「任されました」
とりあえず。控室に入る事に成功した。
なんで控室に入る事が、そんな難関なミッションみたいになってんだよ。
「くそっ、イエスタの前でぐらい、素面でいる、べきだった」
結局あの言い争いを眺めているのに時間を喰ったらしく、10分の休憩時間ってのも、残り5分ちょっとまで減ってしまった。
んでまあ、10分を過ぎればすぐに試合を開始、じゃなくて舞台に入場することになるから、まあ最低でも1分前には入場口に居てる必要がある。そして俺の心の余裕を保つために、3分前ぐらいには入り口で準備しておきたい。
だから、どーも体を休めれる時間は2分しかないようだ。
でも、2分で何ができるのかと言えば、せいぜい人の字を掌に書いて飲み込むか、深呼吸するぐらいしかできないし、なんなら体を休めるんじゃなくて、試合に向けて気持ちをコントロールする時間すら余ってない。
「武器は、前のと変わってない」
変わってないとは言っても、チェックを怠ってはいけない。なんたって普段使っている剣だろうがナイフだろうが、ひょんな出来事で寿命を迎える事があるし。それが今なのかあとなのかの確認をするのは、戦場に出る以上は必須の行為だ。
「これは入り口前の、時間に確かめるとして。今は体調の調子の確認だ」
まずは、そうだな。頭はずっと冴えない。別になにか別の考え事をしている訳では無いが、今考えている事にどーも集中できないというか、なんというか。まあこれは良い。確かに頭に靄が掛かってる感じがして気持ちが悪いけど、別に思考が邪魔される訳ではない。あくまで、集中が続かないというか、そんな感じ。
んで、頭痛。激痛ではないものの、棘が刺さっているかのような、絶妙に無視できない程度の痛さが、じんじんと痛む感じ。どっちかというと、こっちの方が問題だ。半端に痛いせいで、思考の邪魔をしてくる。いっそ激痛が走ってる方が考えられるほど思考に意識を回せず、何も考える事もなくて楽だったんじゃないかと思いたくなる。けど生憎、マジで中途半端に痛い。思考に邪魔は入るけど、まあこれも最悪いい。運動能力に支障をきたさないし。
次。視界。どーも、視界の端の方に、白色の靄が掛かっている。これはいつも味わっている、貧血で倒れる前の予兆。だけどいつもと違うのは、その予兆があるくせ、全然倒れる素振りがない。けれども視界の端は白い霧が立ち込めている。
なんともなんともだ。普段ならこの段階になった時点で、どれだけ力を籠めようとしても、手足に力は入らず、地面に抱き着くみたいに、自然に体が地面にと滑っていく。にも関わらず、今は万全とまでは言えないものの、手足に力は入る。
そう、次は体の話。これが恐ろしい事に、自分の体とは思えない。さっきも言ったけど、普段の眩暈が来ればすぐに手足に力が入らなくなって、地面に滑り落ちていくって話だけど。今回はちゃんと力は入る。けど、どうも自分の思考からワンテンポ遅れて、手足が動く。なんか、他人に命令を出して、その他人が俺の体を操っているみたいだ。とにかく、普段とは全く別物の体になってしまっている。
けど、そのどれもが全部、動くには支障がないのも腹が立つ。そりゃあ動きそれ自体を妨害してくるのもあるけど、そうじゃなくて。戦えなくなる訳じゃない、ってのが腹が立つ。
普通の戦場において、体調が悪かった、なんて言い訳にもならない。自分の体調も管理できないのも自分の実力であり、それがその時のベストコンディションになる。だから言い訳になんてならない。
けど、俺はどうしようもない馬鹿だから。戦える状態であるのなら、戦わなければならない。これまた戦場の話になるけど、戦場において戦えるのに、ただちょっと体調が良くないからって理由だけで前線を退くわけにはいかない。俺は、その程度の覚悟で挑んでいる訳じゃないからだ。だから戦う。
まあ、なんだ。俺はベストコンディション。これで負けるのなら、俺の力はその程度って事だ。
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『では、第二 合 めます。ハルキ ん、オ バーさん、舞台に上がっ ください』
うん、武器に問題は無い。
まあ武器に問題があって、それが直接勝敗に関わったとしても、武器の不備に気づけなかった俺がいけない訳で、武器に負けた責任を押し付けたりはしないけど。
だからちゃんと、言葉にしておく。武器に問題はない。問題があるとすれば、使用者か不備に気づけなかった整備士かのどっちかで、その不備を探すのも俺だから、結果的にすべて俺の責任になる。
「あな 、新 生ですよ ?」
どうも、耳までイカれたようだ。言葉が途切れ途切れに聞こえる。ってか聞こえてない部分もある。
こりゃあ、不味いな。どうも、体が限界だって悲鳴を上げてるって事だろうさ。
「そうだ」
「 、私より んでしょ ね」
ああ、重要な場所が聞き取れない事には、言われた内容を予測することもできない。これはガチで困ったな。
「悪いな、あんたに活躍の場は作ってやれそうにない」
「それはど いう事です?」
どういう事、か。んなの簡単だ。
これは確かに真剣勝負で、手加減していいような勝負では無いだろう。けど所詮は見世物で、命の懸かった勝負とかじゃない。見世物だ。
だから、観客の皆さんが満足するような試合にすることを心掛けている。つまるところ、接戦。
客が望んでいるのは、一瞬で終わる試合ではない。かと言って、ダラダラと続く試合を望んでいる訳でもない。お互いの力が拮抗している接戦を期待している。
だから、俺は5分ぐらいは、相手に花を持たせるようにしている。前の試合もそうだ。あの時は目立ちたくないって言う理由もあったが、やっぱり瞬殺する試合なんてのは、見ごたえが無いから、客はそんな試合を期待しない。だから5分ぐらいは、俺は手出ししなかった。逃げに徹した。
けど、どうも今回はそうはいかないっぽい。俺は今、いつ倒れてもおかしくないような体調だ。びっくりするぐらい不調に不調が重なっている。
だから、いつもみたいに、相手の攻撃を適当にいなす、防ぐってのは、やってられそうにない。なんたって、いつぶっ倒れるのかわからんから。
『ではでは、試合、開始!』
『……。』
『み、見間違えでしょうか?えっと、ハルキ君?流石に合図前に攻撃は、』
実況が何を言っているのか、ほとんど理解できない。あ、言葉の意味を理解できないんじゃない。言葉をほとんど聞き取れていないんだ。なんか別の言葉を使ってるみたいだ。なにか言っている事は理解できるのだが、その言葉を聞き取る事ができない。
『イドル、それはハルキくんへの侮辱だよ』
『にゃー、アタシも危うく見逃すところだったにゃー。んでもって、生徒会ともあろうものが、合図前に動いたのか、合図後に動いたのか、その辺りの違いを見分けられないはずないだろ?』
『そうです、先輩。おとなしく現実逃避した事、詫びてください』
『ええい、よってたかって虐めるとか、イドルちゃん泣いちゃうもん!』
『えと。イドルに代わって、ボクがコールを。勝者、ハルキくん。素晴らしい縮地法に、素早く精確な手刀の攻撃によって相手を気絶させるその実力。皆さん、彼に惜しみなき称賛を。そして僅かではあったが、あの素早い動きに反応できたオリバーちゃんに、盛大な拍手を送ってあげてください』
あー。保健室に行けばベッド借りれるかな。
???「つまり、ベストコンディションだ」
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