過激な新入生歓迎会
今日は学校終わりに、山での合宿の準備のために町まで下りる事になった。
なんと。ソイルとのデートだきしょくわるい。
けどまあ、俺にはこのデートの誘いを断りきれる理由が無かった。別にやりたい事もないし。
そんな訳で、学校が終わったら、町に行く事になった。
まあ、まだ授業中なのだが。いや、うん。帰りのホームルームの時間だ。
「はーい。知ってる人もいると思うけど、今週末には山での合宿があるから。週末に予定は入れないようにー」
なんと、今回は先生、告知を忘れなかった。
「あと別に持ち物とか必要ないですからね。こっちで準備しますから」
とのこと。
うんまあ、知ってたよ。合宿するぞ、ってなって、俺達がテントとかを準備するのは、おかしくはないけど、そういう必要なものは学校が用意するだろうさ。
だから、正直あれだ。ソイルとのデートの理由がさっぱりわかってない。
まあ万が一、テントだとかを用意しておけってなったら困るからあの誘いには乗ったんだけど。必要なかったみたいだし。うーん。男とデートだなんて、俺にはそういう趣味はないんだけど。
「はーい、じゃあ今日はおしまい。くれぐれも無茶はしないよーに」
……、無茶?
「さ、ハルキ、行こうか!」
「別に町に行かなくてもいいんじゃないの?買うものなんてないでしょ」
「なにおぅ。いるだろ、おやつが」
「……」
「うーん、なにが良いかなー。ビーフジャーキー、いや燻製肉、干し肉も捨てがたい」
「全部一緒じゃん」
「一緒じゃねえよ!?それぞれ味も風味をなにもかも違う!燻製肉はな、香りが違うんだよ。食べた瞬間に広がる、芳醇な香り。だがその香りはあくまでも肉の味を引き立てるもの。その香りは最高に肉をうまくしてくれるんだよ」
「あーはいはいわるーござんした」
こんなの聞いてもどうせ頭には入ってくれない。それにこの手の厄介な話は、聞くだけ無駄だ。結局好みの話なんだし。
「まあそういう訳だし。町に行くぞ、町!」
「でもお前、そんな金あるの?」
「……」
「まあ他人の金銭事情にまで口を出すつもりはないけどさ」
これを無駄遣い、とは言わないよ。まあ確かに無駄ではあるだろうけど、世の中もっと無駄な使い方があるし。無駄とは言わない。
けど、そんなにお小遣いがないのなら、あまり使わない方が良いのでは。
「そんなこた良いんだよ」
「ああ、俺には関係ないし」
まあ教室で話していても仕方がない。さっさと移動する。
「なー。町には制服で行くのかー?」
「いや、一旦部屋に帰るだろ。え、お前、制服で行くつもりだったの?」
そりゃあまあ、悪いとは言わん。なんでか知らんけど、この学校の制服はなかなかに上質なものであり、一般で買える服とは比べ物にならないぐらいには高級品だったりする。
だから普通の服よりも着心地が良い。だから制服で町へ出てもいいとは思う。
けど普通に考えて。寮が付属している学校の生徒が、寮に帰らず学校帰りに町に繰り出す、って違和感ありまくりじゃない?
いやまあ何でもいいけど。
「じゃ、私服だな」
「そだな」
そんな他愛ない会話をしながら、校舎を後にする。
するとそこには。
「うちの部に入りませんか!」
「いいですよー、この部活。あれこれそうそう」
「是非、うちの部活に…」
いわゆる、部活動の勧誘だ。
まあそれが、道を塞ぐ感じで、大勢の人がいるため、圧巻だな、とは思う。そして、いや道は開けろよ帰れないじゃん、とも思う。
「ナニコレ」
「見ての通りの部活の勧誘だろ」
「こんなに新人の勧誘に本気だすもんなの?」
「知らん」
何というか、勧誘をしている先輩方は、熱に浮かされたというか、なにかに取り憑かれてるみたいに、異常なまでに勧誘に本気を出している。怖い。
「あっ」
どこからかはわからなかったが、女の人の声が聞こえた。この場に居て声を出すなんて、恐らく先輩なのだろう。
そしてその声は、まるで待ち合わせをしていた人がやって来たかのような、明るく呼びかけるような声で……。
「優勝者だ!優勝者がやって来たぞ!」
「囲め囲め!」
「うちの部に」
「是非、うちの部活に!」
「わいわい」
「がやがや」
気が付けば、今まで道を塞いでいた先輩方は、俺達を逃がさない布陣に変わっていた。
他の一年、さっきまで先輩方に捕まっていた一年は、小声ではあるが、助かったと、確かにそう呟いていた。こんなに先輩方が周りで騒いでいるのに、俺は確かにその小言を聞いた。恐らく先輩にも聞こえて居そうだけど、まあ今は目の前の優勝者に夢中になっているから、気にも留めていない。
「うお、おお?」
「あー」
確かに。部活の勧誘は、一年対抗試合の予選が終わるまでやってはいけないという、この学校の暗黙のルールが存在する。
いやルールってよりも、やっぱりどの部活も優秀な生徒が欲しく、無能な生徒は欲しくない。だから試合が終わるのを待って、誰に勧誘するのかを定める。
結果的に予選が終わるまでは、どの部活も勧誘しない。それがいつの間にかルールになっていたようだ。
「すみません、俺興味ないんで」
「ん?誰だ君は?うん、君はいいや」
「ハルキ、ハルキーー!」
……。滅茶苦茶複雑な気持ちだ。
この場から逃げ出せたのは良い。それも先輩が直々に、俺をすっ飛ばしてくれた。つまり用はないって事だ。
けどさ。けど、俺だって例の優勝者なんだよ。お前らがカモって言ってた優勝者なんだよ。それを誰だ?って。
俺、そんなに特徴ない顔してるか?どっちかって言うと印象深い顔してると思うぞ?いや顔ってか、眼鏡を掛けてる訳だから、他の人とは違う覚え方ができるはずなんだけど。
「……。まあ、あいつはうまくやるだろ」
まあこれはある意味、丁度良い。あいつが目立ってくれたおかげで、俺の印象はあまりないという事。1年からはどう思われているのか知らんけど、まあ過半数の感想は、俺は優勝していたことさえも忘れられているって事だ。ラッキーだな。
先に寮に帰ろう。どうせ部活の勧誘もずっとやる訳じゃない。いつかあいつは帰ってくるだろう。
「ちょっと待て、一年」
「なんです?」
寮に向かっている途中、お声が掛かった。
かけられた言葉から、先輩であることがうかがえる。というか、同じ一年が呼び止める時に、一年とか言って呼び止めるはずがない。
「お前、俺達の仲間にならないか?」
「はい?」
「お前なら俺達の仲間になる資格がある」
「えっと…」
俺はどちらかというと、世の中を知らない人間だ。自分で買い物をする事もあまりないし、勿論だけど社会経験もまだ全然だ。
けどそんな俺だってわかる。この勧誘、メッチャ怪しくない?いやもし裏とかなにも無く、ただの部活の勧誘だった場合はとても失礼な事を考えてしまっているけどさ。何と言うか、言葉の端々に怪しさを感じる。
「俺達は知っている。お前は立派な貴族になりたいと」
「は、はぁ」
ま、まあ、別に隠してる訳じゃないし。なんなら自己紹介の時にそういう風な事を言ったし。知っててもおかしくはないけど。いやまあなんで先輩が俺の自己紹介の時に言った事を知っているのか謎ではあるが。
「俺達はもう一度、貴族が復権することを望んでいる」
「そうですか」
貴族って落ちぶれてるの?知らなかった。少なくともうちは、平民には慕われていた気がするけど。
「貴族の為の、貴族社会。それを復活させる」
「そうですか、頑張ってください」
「何を言う。お前も仲間になれ」
……。いや俺、別にそういうのは興味ないんだよなー。貴族が落ちぶれたって言うのならそれは世間が望んだというか、そういう世の風潮って言う話で。そして貴族が復権するのもまた、世の風潮と言うか。
少なくとも俺は、なにかをして貴族の地位をあげようとか、そういうのは考えた事はない。
「いや、申し訳ないですが、俺は仲間になる事は出来ません」
「お前に拒否権があると思っているのか?」
うんまあ、さっき、お前も仲間になれ、って言ったのは目を瞑ったんだけど。言葉の綾って可能性もあったし、気にしないようにしてたけど。
あれ、やっぱりちゃんと言葉通りに、命令だったんだ。
「ええ。俺は貴方が思っているほど優秀じゃないですし、なにより俺は爆弾だ。いつぶっ倒れるかわからない。だから俺を仲間にしたって、良い事はないですよ」
俺は体があまり強くない。ってか弱い。身体能力の話じゃなくて、体調の話と言うか。
別に寝たきり生活を強要されるほど体が弱い訳じゃないけど、ただの風邪だろうと治りが遅く、重症になる事があるぐらいには残念な体をしている。
あとはあれだ。俺は慢性的な貧血に悩まされている。どっちかというと、慢性的な頭痛持ちで、調子が悪くなれば立ち眩みや眩暈を起こす訳だが。まあこういう症状があるから貧血って呼ばれる訳だが。
とにかくそういう症状があるから、あまり迷惑をかけるような事はできない。だから俺は、部活も入る予定はなかった。まあ一個一個部活の勧誘を断っていくって言う面倒は避けれたけど。
「そうか。まあ良い」
「だがあとで仲間にしろと言っても遅い」
まあ、言いませんよね、そんな事。なんたって自分の体の事で迷惑をかける事が嫌なんだし。どれだけいい場所だろうと、ってか良い場所であればあるほど、迷惑をかけられないから仲間になる事なんてできない。
「なんだったんだろ、あの人達」
去り際も、なんか胡散臭い人感漂わせながら帰って行った。あんな人もいるんだなー。
_________
町に行けた頃には、5時前ぐらいだった。学校が終わったのが4時だから、勧誘に30分近く足を取られていたことになる。残りの三十分は、準備の時間と、学校から町に向かう時間。
「はぁ。疲れた」
「いつも元気なお前が疲れるなんてすげえな」
「いや、授業はもう聞いてないし疲れる事は無いんだけどよ」
今とんでもない事を聞いた。だが聞き流す。学校始まって1週間で授業をまともに聞かない人間なんて、俺がなんと言おうが授業を真面目に聞こうとする事はないだろうし、なにも言わない。
「なんての?相手の顔を窺いながら、気に触れない程度の返しをするっての。もう尋常じゃないぐらい疲れた」
「あ、そう」
まあそんな事関係なく、30分近くもあんな熱量で勧誘が来たら疲れるよな。少なくとも俺は嫌になる。
「それで、どっかの部活に入るの?」
「うーん。まあ別に今すぐ入る理由もないし。十傑に入る事を考えたら部活に入れるのかどうか」
「別に十傑だからって、部活に入っちゃダメってルールはないだろ」
「いや、そうなんだけどよ。十傑っていわば、この学校の生徒なら憧れの的じゃん?」
「まあ、そうだな」
知らんけど。興味ないけど。
「そんな人間が部活にいたら、キャーキャーされちゃって、部活になんねえじゃん?」
「自意識過剰じゃん?」
「まあそれはないにしても。十傑相手って事で遠慮とかされたら困るってか」
「ああ」
確かに、十傑は憧れの的。憧れの人に嫌われたくはないだろう、人間の心理的に。だから媚びを売る、とまではいかなくとも、下手に出る事が想定される。先輩が、下手に出る。
そういう事が、こいつは嫌なのだろう。
「まあ、入るのなら早めにしておけよ。グループに馴染めない、とかありえるし」
「忠告どーも。で、お前はどっか入るの?」
「俺は入らない。体の事があるからな」
「なにお前、どっか体が悪いの?」
「医師からは健康だとは言われているけど。慢性的な頭痛に眩暈やら立ち眩みやらが頻繁に襲ってくるんだ。そんな人間が部活に入る事はできねえだろ?迷惑極まりない」
「そんな他人の事まで気にしなくても良いだろうに」
そうは言ってもだな。やっぱり気になるんだ、他人の眼ってのは。
「それで、何買うか決めたの?」
「いやー、肉屋の前で悩もうと思ってる」
「さいですか」
俺もなにか買っておこうかな。干し肉で良いか。
「店主、干し肉を300g」
「あいよ。客さん、結構買うんだね」
「ええ。夜食にもなりますし」
「兄さん、折角いい体つきしてんだ。悪い事は言わねえから、夜の飯は少なめにしておきな」
「忠告ありがとうございます。まあ大丈夫ですよ。一気に食べるつもりじゃないですし」
俺はあまり、食欲がある方ではない。それこそ、俺と同じ歳の、食べ盛りの人間と比べたら、食べないに等しいぐらいには食べない。
いや、別に普段は食べれる。小食になるのは調子の悪い時であり、基本は食べれる。
まあ食べると言っても、結局食べ盛りの人間の食事の2分の1とか3分の1ぐらいしか食えないんだけど。
そして食堂が開いているのは、5時まで。その時間が過ぎれば、自分でご飯を作らないと、晩飯は無くなる。
まあ俺としては別に一食ぐらい抜いても問題ない時もあるが、調子のいい時は食欲がわいてくる事もあり、干し肉はそういう時の為の保存食になる。
だから多めに買っておいた。
「うーん、うーーーーん?ジャーキーも良いけど、燻製肉も、悩むなー」
隣に居る人間は、未だに悩んでいる。
「ううぅ、」
なんか唸り声と言うか、泣き声が聞こえた。
辺りを見渡しても、その声の主は見当たらない。うーん?聞き間違いか?いやそんなまさか。流石に今の俺は幻聴を聞くほど疲れてはいないんだけど。
「おっ、こっから聞こえたのか!」
うん。ちゃんとした人の声だったらしい。隣にいるソイルも、うめき声ともとれる泣き声が聞こえていたようだ。
「どした坊主?」
「うぅ、うぅ」
「うーん。冷静さ無し、って感じだな」
まあ確かに、泣いてる時って、あまり冷静にはなれないよな。わかるぞ少年。
でもな。いきなり声を掛けて来て、なかなかの圧を掛けている隣の人間にも原因があると思う。
「大丈夫か?迷子か?親はどこだ?」
「お父さんは、お父さんは、うわぁああああん」
おっと、もっと泣き出してしまった。
どうも、ソイルはそこの少年の地雷を見事に踏み抜いたらしい。
「お、おい、落ち着け、落ち着け」
「お前も落ち着け」
「う、うん、そうだな。相手を落ち着かせるためには、こっちは冷静でいないとダメだよな」
ぐううう~~~~
どうやら、少年はお腹が空いているらしい。別に泣いているからお腹が空かない、という訳ではない。お腹が空くというのは生理現象だ。お腹が鳴るのも仕方のない事だ。
「おっし、待ってろ」
待ってろ。うん、確かにこいつは、待ってろと言った。……、親でも探すのだろうか。どう考えてももう存在しない親を探すのだろうか。
「おっちゃん。えーっと、燻製肉、この金で買えるだけ!」
「兄ちゃん、その漢気は買うが、本当に良いのかい?赤の他人のために、そんなに」
「良いんだよ!俺はこんなガキを見てられないんだ!」
「そうか。じゃあおまけしといてやるよ」
……。あいつ、金が無いんじゃなかったのか。金が無いからこそ、どれを買うのか悩んでたんじゃないの。
「おら坊主。これを食え」
「うう、ひっく、えっぐ」
「良いから食うんだよ!人間食わなきゃやってらんねんだ!」
「おいおい。せめてその少年のペースで、食べたい時に食べさせてやれよ。そんでそこの少年は悪くないんだから、そんな圧を向けてやるな」
「お、おう、そうか。いやでも、こんな坊主がいて、誰も見ようとしない現状に腹が立ってんだよ、俺はよ!」
「……」
俺は、何も言えない。別に無視をするつもりは無かった。無かったが、だからと言ってこの少年を見つけたところで、なにかをしたのかと言えば、多分しない。やったとしても、この手に持っている干し肉を少し分ける程度で、今持ってるお金全部を肉に変えて、少年に渡すなんて事はしないだろう。
「よし!教会に行くぞ」
「協会?冒険者の?」
「違う違う。教会だよ。いわゆる、神様の教えを広める拠点みたいな。そこの役割の一つに、行く当てのない子供たちの保護もあるんだよ。だからこの坊主も預かってもらう」
「へぇ、そんなのがあるんだ」
まあこの町は、この国で一番大きな町だ。色々な施設がある。俺みたいな、弱小貴族の領地にはない施設があってもおかしくはない。
「で、それがどこにあるのか知ってるのか?」
「勿論だぜ!俺も世話になったんだ!忘れるはずもないだろ」
知ってるのなら、それで良いや。
「ほら坊主、泣くな、顔をあげろ!世界は未知に満ちてるぞ!なのにそんな世界を見ないなんて、勿体ないじゃないか!」
なんか、若干ではあるが、冒険者を勧誘する時の誘い文句が聞こえたんだけど。
「よし、行こう!俺達の未来は、これからだ!」
「うう、お父さん」
「よしよし、とにかく行こう。おい、ハルキも付いて来い」
「命令形なのね」
「どーも俺の顔を見たら、また泣き出しそうだからな。優しーお兄さんがいた方が良いだろ?」
「そうですか」
正直、こんな時に見知らぬ人に連れられるなんて、俺だったら嫌だけどな。いくら相手が親切心でやってる事でも、衝撃的な事があった直後だったら、やっぱり俺は嫌だ。誰にも構って欲しいとは思わない。ただ、親に居て欲しいと思うはず。
「上を向いて、歩こう♪」
なんかソイルは上機嫌に、少年の手をしっかりと握って、手をブンブン振りながら、スキップを刻む感じで歩いて行った。
「あの兄ちゃん、優しいんだな。ただ、教会につれて行くなら、肉を渡す必要はなかった気がするが」
「まあ、あいつは後先考えない奴ですし」
「うーん、全部は無理だが、これだけでも、あの兄ちゃんに返してやってはくれないか?」
「俺だってまだあいつとの付き合いは長くないんでわからないけど、あいつは一度払ったものをどんな理由があれ返却される事は望んでない気がするんですけど」
「でもなぁ。俺からの精一杯の気持ちだが」
「じゃあ、一応受け取っておきますけど」
どーも、あいつは受け取りを拒否する気がする。なんか。
「それと、燻製肉とジャーキー、30gずつ貰えません?」
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