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EP7 ~買い出し、そして旅立ち~


 ~買い出し、そして旅立ち~


 ちゅんちゅんと賑やかに鳴きだした小鳥たちの囀りでリオは目を覚ました。

 眠い目を擦りながら、日差しを遮る厚いカーテンを開けると、早朝にも強い夏の日差しが部屋を満たした。

 大きく伸びをしたリオは、普段より暗めの濃紺の上着と同色のズボンを身に着け腰の部分を太い革のベルトで留めた。

 部屋に備え付けられた簡素な洗面台で顔を洗って手拭いで拭い、櫛で髪を梳くとベルトの左側に愛用の銀の長剣を刺し、荷物を入れる皮の袋を持って部屋を出る。

 食堂へと歩いていけばすれ違う使用人達が、リオに挨拶をして来るのに応えながら食堂内に足を踏み入れて部屋を見回しても誰の姿もおらず、とりあえずと手近な席に腰を下ろした。


 (旅立つというのに随分のんびりしているな…)


 未だ回らない脳内で考えながらぼんやりと窓の外を眺めていると、若い女性の使用人が冷たい紅茶を運んできた。

 胃の腑まで染み渡るような冷たい紅茶を喉へと流しながら、ふ、と思い立った様にリオは傍に控える使用人の女性に向かて声をかけた。


 「すまないが、そろそろ僕の仲間を起こしてきてはくれないかな?」


 その言葉に「かしこまりました」と女性が返事を返し退室する後姿を見送りながら、リオはようやく回りだした脳内でどこへ向かうかを考え始める。


 (疫病の蔓延化か…とりあえずは近い村や街から回ってみるのがいいか…)


 脳内に王都近隣周辺の簡易的な地図を頭に思い浮かべていると、扉の開く音が聞こえてリ―ヴェとエスコートされたリーゼロッテが入ってきた。


 「おや、早いね、リオル。あまり眠れなかったのかい?」

 「おはようございます兄上、ロッティ。ちゃんと眠れましたよ、大丈夫です。」

 「朝から眉間に皺が寄ってますわよ、随分怖い顔してますこと。」

 「ロッティ、君はどうしてそう朝から悪口を…」


 リーゼロッテとリオが軽い口喧嘩モードになりそうな雰囲気を察したリーヴェが二人の視線を遮るように立ち、仲裁に入る。


 「ほらほら二人とも朝から喧嘩するんじゃないよ、昔から仲がいいのは知ってるけれd…」

 『仲良くないです!!』


 呆れたようなリーヴェの言葉に嚙みつかんばかりの勢いで、リオとリーゼロッテの声が綺麗にハモる。

 声をハモらせ、全く同時に顔を見合わせる二人の姿にリーヴェは口元を手で覆い隠して笑って口にした。


 「そーゆーとこが仲いいんじゃないか…」

 「おはよう、朝から元気がいいな!二人の声が廊下まで響いていたぞ?」

 「…ぉはよ、ぅー…」


 再び開いた扉から、シオンとポコが姿を現す。

 二人とも昨日街で買った服装に身を包み、荷物を入れる皮の袋を背負っていた。

 朝が弱いのか環境が違って眠れなかったのか、席についてもカクリカクリと頭を揺らすシオン。

 対照的に常に元気かつ朗らかで豪快な態度のポコ。

 全員が食堂に揃ったのを見計らったかのように、食堂のテーブルに料理が運ばれてきた。

 噛めばサクリと口の中で解けるチョコチップスコーンに、爽やかな香りで口内を満たアイスミントティー、一口サイズのミートボールのオーロラソース和え、パセリのかかったポテトフライ。

 夕食に比べると簡素な食事をみんなで歓談しながら進めていく。

 相変わらず、ほぼシオンとポコの二人が平らげていたが…。


 食事を終えて一息付いた一行は、出立するべく身支度を整えて屋敷の玄関前に勢ぞろいしていた。

 ちなみにリーゼロッテはオレンジ色のロングドレスから、淡い桃色のチュニックのような上着と白色のズボン、武器は持たない代わりに魔法の発動隊となる腕輪を装備済。

 旅立つ4人の姿を見回してリーヴェは目を細める。


 「それじゃあ4人とも気を付けて。何かあれば連絡鳥を送ってくれたら僕も、微力ながら手伝えることもあるかもしれないしね。」

 「行って参ります兄上、我々のことはどうかご心配なく。留守の間、兄上もご健勝で。」

 「今生の別れでも在るまいに挨拶が重いリオル。行ってきますでいいんだから。頼んだぞ。」

 「確かにそうですね、行ってきます兄上。朗報をお待ちください。」


 リオとリーヴェが挨拶を交わして笑いあい、リオが背を向けて足を踏み出す。

 ポコとシオンが行儀良く頭を下げてリオの後に続き、リーゼロッテも軽くひざを折って言挨拶をし後に続こうとすると、その後ろ姿にリーヴェが声をかける。


 「リーゼ、あの子たちを頼むよ。万が一の時には君の力が役に立つ。」

 「わかっていますわリーヴェ様、ご安心ください。何かある前にご連絡差し上げます。」


 ふわりと微笑んだリーゼロッテは再度くるりと背を向け理を立ちの後を追いかけたのだった。



  ~街にて買い物編~


 リーゼロッテという新たなメンバーを加えた4人は、リオの家を後にすると旅立ちの道具を揃えるべく、商業区の一角にある市場へと来ていた。

 武器はそれぞれ自前のものを持っているから問題ないが、必需品を選ぶべく冒険者の店を訪れ品物に目を眺めている。


 「リオ、武器以外に何を買うの?」


 至極当然と言わんばかりのシオンの疑問に、品物を一つ一つ手に取りながらリオは口を開いた。


 「一応向かう先は町や村の視察ってことになってはいるけれど…万が一、洞窟なんかに向かわなければならないことも考えておかなきゃいけないからね。松明や火口箱、簡易的な傷薬とかかな…?」

 「光源なんてリオ、貴方の火魔法をアレンジしたらいいじゃないの、お得意でしょう?」


 自分はポーションに使う薬草等を選びながら、リーゼロッテがさも当然の如く平然と紡ぐ。

 彼女の買い物籠はすでに薬草、謎の調合材料、ガラス瓶などでいっぱいになっていた。


 「ロッティ、君は僕を魔力切れで殺す気かい?…君のくそ不味い魔力ポーションは遠慮するからね。」

 「くそ不味いですって!?あの小瓶で魔力全回復させる為に、とても高い材料を使っているのですよ!?何度も使って差し上げてるのによくもまぁ、不味いだなんていえましたわね!?」

 「僕は有りのままの事実を寸分の違いもなく口にしたまでだけど?自分だって魔力ポーション飲むたびに般若みたいな顔してるじゃないか。」

 「まぁまぁ、二人ともその辺にしておいたらどうだ、一向に話が進まんぞ。」


 放っておくと終わりなく続きそうなリオとリーゼロッテの間にポコが珍しく割って入り、会話を止めさせる。

 渋々といった様子でリーゼロッテが調合材料選びに戻ると、リオもまた道具を選びだした。

 風除けの付いたランタン、火口箱、ロープにクサビ、日持ちのする携帯食料、マッピング用の紙と鉛筆、水筒、応急セット等を選び、リーゼロッテのポーション材料もまとめて会計するとそれなりの金額になり、リオは軽くなった財布にため息を吐き出す。

 荷物は全て皮の袋で作られた大きな背負い袋を購入し、それに詰め込むと筋力が一番であろうポコが背負っていくこととなった。


 「当面の必要な道具は揃えたけれど、すこし依頼なんかも受けれるようだったら受けた方がいいかもしれないね。宿代や食費を考えると。」

 「確かに少し買いすぎましたわね。暫くは節制しなくてはなりませんわ。」


 山のように買った道具を眺めながらリーゼロッテが珍しくリオに賛同する。

 冒険者の身となっているリオとリーゼロッテの二人は、貴族出身とは言えども金銭感覚的には民間人に近くなっているので財布が軽くなってくると一抹の不安に駈られるのであった。

 そんな二人の不安そうな顔を一瞥すると、片手を腰に当てて軽く胸を張り、豪快にポコが笑い飛ばす。


 「なあに、食料が乏しくて不安なのであれば、野生の獣を狩ればいいではないか。リオの家やギルドで食った食事に比べれば味は落ちるが食えないことはないぞ?」

 「お肉…食べれるなら、それでいい。」


 余裕すら感じられるポコの発言を聞いてか、シオンも賛同の意を示して頷いた。

 思わず、といった感じでリオとリーゼロッテの二人は顔を見合わせるも一瞬苦笑を交えると、リオは向かうべき方向を指さし強めの口調で宣言した。


 「それじゃあ先ず第一に向かうは、一番近くの川辺の村アルレシャだ。行こうか!」


 リオの言葉に残りの3人は気を引き締めた表情で頷くと一斉にその方向に歩き出す。

 …と、一瞬足を止めたシオンが誰にともなく小さな声で呟いた。


 「…相変わらずだね、リオは。ポコの変わりようには驚いたけど…あの子も相変わらずだし。また、前世(いぜん)みたいにみんなで楽しく過ごせたらいいな…」

 「シオンー?早くしないとおいていきますわよー?」

 「今、行く…。」


 先を歩く3人のうち、リーゼロッテが振り返ってシオンの名を呼ぶと、はっと顔を上げて返答を返し小走りに彼らの後を追った。

 こうして凸凹4人の珍道中は今から始まったのだ。


              ~買い出し、そして旅立ち~完

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