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EP6 ~自宅にて相談、歓談~


 ~自宅にて相談、歓談~


 所変わって建物の中に入室した一行が通されたのは、建物中央にある応接室。

 室内は靴音響くタイルが敷き詰められていて、中央にはタイルに合わせたラグが敷かれている。

 広々とした室内の天井から、豪奢なシャンデリアが吊り下げられており、魔法の灯りがともされては暖かに室内を照らしている。

 皮張りながらにも柔らかく大きなソファーが3点、コの字型に設置されそれぞれ対面するように腰を下ろした。

 側仕えの給仕が冷えた紅茶を用意し、氷属性が得意なリーヴェがやおら魔法を使い全員のグラスに氷を浮かべる。

 そしてそれが全員にいきわたるのを確認すると、軽く小首をかしげながらリーヴェが開口一番問いかけた。


 「すごい…これがガラスの器?窓とは全員違う…」

 「確かに。ずいぶん薄いものだな、力加減を間違えると割ってしまいそうだ。」


 この世界ではガラスは貴重品で、一般の建物の窓ガラスには分厚く透過性の悪いガラスが私用されている為、ガラス製の食器は高価なものと重宝されているのだ。

 それを目にしたシオンとポコが、それぞれグラスを手にして珍しそうに眺めて小さくつぶやいた。

その様を微笑ましく眺めていたリーヴェだったが、一口紅茶を飲むと小首を傾げて口を開いた。


 「それで?僕にお願い事とはいったいなんなんだい?」

 「兄上は近隣の村々に広まっているという疫病の話はご存じですか?」


 単刀直入なリオの発言に、グラスを置いたリーヴェが神妙な面付きで頷く。


 「まだ王都には蔓延していないけれど、教会や病院からの感染者が広まってくるかもしれない。それは時間の問題だと思っている。」

 「城の衛生兵や兵士たちが動き出すのも有り得るとは思っていますが、僕たち冒険者で原因究明できればと思っているんですよ。まだギルドの方には王城から話が来ていないようですが…」


 リオの言葉を汲んだリーヴェが両指を組み顎を乗せては、「ふむ…」と頷くと目線だけで一同を見回す。


 「本来なら冒険者ギルドにも王城から指示がでる。だけど君たちは一足先に動きたいというんだね?それで王城に話を通してほしいと…?」

 「ええ、僕達の仲間である神官も一人教会で激務に追われています。この疫病がただの流行病なのか、あるいは何者かの手による事柄なのか…ギルドからの依頼もなしに個人的に動くのは問題があるかもしれないと思いまして。」


 リオの言葉を聞くと、背もたれに凭れ掛かって天を仰いだリーヴェは深く息を吐いた後に再び起き上がると青髪を軽く掻いた。


 「依頼があるならまだしも個人的に動くのはすべからく、冒険者である君達が全責任を負うことになる。それはわかってるね?」

 「覚悟の上です。」

 「全く…唯一の兄弟であるリオが、冒険者になりたいといった時からこんな日が来るとは思っていたけど…。わかったよ、王城には…叔父上には僕から伝えておこう。」

 「感謝します、リーヴェ兄上。いつもご迷惑をおかけします。」


 半ば諦めたような呆れたようなリーヴェの言葉に、苦笑いを浮かべたリオは、幼い頃から頭が上がらない兄に深々と頭を下げた。

 それに倣ってシオンとポコも頭を下げる。


 「それで出発はいつにするんだい?君達3人だけで行くのかい?」

 「明日城下町で買い物してその足で出発しようと思っています。そうですね…多分、この3人でとは思っていますが…」


 兄の問いかけに現状を伝えようと口を開きかけた瞬間、少し高めで張りのある声が横から聞こえてきた。


 「冒険なんて久しぶりですわね、そんな楽しそうなことに私を置いていくつもりなのかしら?」


 全員の視線が声のする方に向くと、数日前に出会ったリーゼロッテが薄いオレンジ色のロングドレスに身を包み微笑みながら部屋へと入ってきた。


 「ロッティ?!何でここに…」

 「リーゼロッテ嬢も帰ってきてると聞いたからね、懐かしい顔が見たくて招いていたんだ。…そうだな、リーゼロッテ嬢も一緒に行ってくれるなら、僕としては安心だ」


 驚くリオとは対照的に、にやりとした笑みを浮かべたリーヴェが答える。


 「回復が出来る神官の方がいらっしゃらないのでしょう?私が一緒なら簡単なポーションも作れますし、時空魔法も使えますし、お力になれると思いますけれど。いかがかしら?ねぇリオ?」


 一言一言区切るように、圧をかけるような口調で笑みを崩さぬままに紡ぐリーゼロッテ。

 実兄と幼馴染から、次々と掛けられる言葉にリオは深々とため息をついてリオは黙ったままの横の二人へと視線を向けた。


 「ロッティも一緒に行く事になりそうだけど、ポコとシオンはどう思う?」

 「私は別に構わない…コトネが居ない今、回復できるのは大事だと思う…」

 「俺も全く問題はないぞ!大勢のほうが楽しい旅になりそうだしな!」


 正論のシオンと、まるで冒険に行くとは思えないようなポコの発言にリオは深々とため息をついた。


 「疫病の原因を探るための冒険に行くのであって、遠足に行くんじゃないんだぞ、君達…。」

 「ははは、随分賑やかな旅になりそうだね、リオ。今夜はここに泊まっていくといいさ、食事を用意させるから。」


 和やか…とも言える雰囲気にリーヴェは楽しげに笑うと紅茶を飲み干し、皆を見まわすのだった。



   ~夕食~


 応接室から隣にある、食堂へ移動した一同。

 リオたちが話をしている間に、豪勢な夕食が準備されていた。

 ガーリックとチーズが載せられた焼き立てのバケット、敷地内にある菜園で採れたての野菜で作られたマリネ、星形に飾り切りを施されたパプリカやミニトマトで彩られたポテトサラダ、新鮮な魚介のカルパッチョ、シカ肉のサイコロステーキ、鶏肉の串盛り、冷たいジャガイモのポタージュスープ等様々な料理が大皿に盛られ、お腹が空いていたのかポコとシオンはその量に目を輝かせている。

 シオンの席のみ銀の器に盛られた、ベリーとバニラのアイスも添えられていたのは言うまでもない。


 「さぁ、好きなものを好きなだけ食べて英気を養ってくれ。明日からは大変なたびになるだろうし。」


 キラキラした瞳で、リーヴェを見つめるシオンとポコに、すかさずリオからの静止の声がかかる。


 「英気を養うのはいいが食べ過ぎないでくれよ、旅の最中にお腹痛くなってもこまるからね。」

 「あら、大丈夫ですわよ、腹痛、頭痛、酔い止め…ポーションなら様々用意できますし。食べれるときには食べれるだけ食事するべきですわ。」


 (そういや、ロッティはポーションマニアだったっけ…)


 半目になってリーゼロッテを見つめる脳内に、幼き頃の悪夢(ポーションの実験台)が蘇る。


 「冷たくて甘い…おいしい…」

 「うむ、町で飲むのより上質な酒だ、うまいな!」

 早速とばかりに銀のスプーンでアイスを頬張るシオンが、嬉しそうに顔を緩ませて声を上げる。

 その隣では、ワイングラスになみなみと注がれた果実酒をこれまた美味しそうにポコが一気に飲み干していた。

 「私までもご馳走になるとは思っていませんでしたわ、お世話になりますリーヴェ様。」

 「構わないよ、むしろリーゼロッテ嬢が帰宅したら、旅に出るのにまた御父上と騒動になりそうだしね。たまにはいいじゃないかな。」


 各々が食事をとりながら歓談して、酒類を楽しむ者のいたりして楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 しばらくの歓談の後、ゆっくりとした動作ながらリオが真っ先に席を立った。


 「さ、僕は先に寝かせてもらうよ。みんなもあまり食べすぎ飲みすぎには注意だよ。おやすみ。」


 それぞれ挨拶を交わして、リオは自室に帰ると着替えることもなくベッドへと、体を沈めて目を閉じた。


 (明日からの旅が無事に過ごせますように…)


               ~自宅にて相談、歓談~完

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