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EP5 ~つかの間の休息、そして実家へ~

  ~つかの間の休憩、そして実家へ~



 宿に戻り皆で食事をとった後、その日の夜。


 王都近隣周辺に広がるー疫病ー。


 コトネから聞かされた話、そして大神殿で目にした光景。


 宿の自室に帰ったリオはその事を考えていた。


 (王都にはまだ広まっていない疫病…、だがいずれ此処にも蔓延するかもしれない。今は神殿内で収まっているかもしれないが…さて、どうしたものかな)


 ベッドに仰向けになって寝転がっていると、控えめなノックの音が響いてリオは身を起こすと扉を開ける。

 開いた扉の先にいたのは、小柄な少女ーシオンーだった。


 「どうしたんだ、シオン。こんな時間に?」

 「…ちょっと…話したいことがあって。」


 神妙な面持ちで口を開くシオンに、もしやと思いながらリオはさらに扉を開いて室内へ促す。


 「どうぞ。あまり年頃の女の子を夜分に部屋に招くのは気が引けるけど、大事な話なんだろう?」

 「ありがとう…」


 促されるままにシオンは室内に足を踏み入れ、窓辺にある椅子に腰を下ろした。

 後に続いてリオはベッドに腰を下ろして足を組み、シオンが言葉を発するのを待つ。

 窓から差し込む月明かりが照らすだけの薄暗い室内で、2人の間に漂うしばらくの沈黙。

 その沈黙を破ったのはシオンだった。


 「あの、ね。…昼間の神殿のこととか、コトネが話してた疫病?のこととか色々考えたんだけど…このままにしておいたら、もっと大変なことになるんじゃないかって思って…。」


 話すのが苦手であろうシオンが途切れ途切れながらも懸命に言葉を紡ぐ。


 「だから、私達でなにかできることはないか、って…そしたら…一段落ついたらまたコトネも戻ってきてくれるんじゃないか、って…思、って…。」


 彼女なりに精一杯考えたであろう言葉を耳にリオは思考を巡らせる。

 知り合ってからはまだ日は浅いとはいえ、端から見ていても姉妹のような関係性に見えた二人が、状況が状況なだけに離れるのは辛いことだろう。

 自分たちに何か出来る事を考えて、とリオを訪ねてきたのだ。


 「同じ事を考えていたんだね、君も。ま、僕はその疫病とやらがこの国に蔓延しない方法を模索していたんだけど…」


 リオの言葉に希望を見出すかの様な眼差しをリオへと向ける。


 「残念だけど僕たち一介の冒険者が動ける事象じゃない、それこそ大神殿がギルドへ要請でもしない限り。」


 きっぱりと言い放たれた言葉に、あからさまにシオンは肩を落とした。


 「でも・・・ちょっと無茶をすれば、僕たちでも動けるかもしれないことがある。ものすごく嫌な手だけどね。」

 「無茶…?リオ、何をする気?」


 不安げに揺らぐ漆黒の瞳がリオを捉える。


 「…僕自身、一貴族だ。家名を使えば大神殿や王城との伝手くらい取れる、後々面倒くさい事にはなるけども…仕方ない事だ、サーシュアル家の力使うしかないだろう。」

 「…あまり無茶はしないで…」


 シオンと目を合わせたリオは、頬を掻きながら苦笑を浮かべて見せた。


 「とりあえず、明日僕の家に行こう、その前に買い物をして、といったところかな?そうと決まれば、今日はもう寝ようか」


 リオは立ち上がり背伸びをすると、シオンの背中を軽くたたいて促す。

 シオンは素直に頷いて、立ち上がり無言のまま、部屋を後にした。

彼 女の後姿を見送って、扉を閉めると欠伸を一つ漏らしてベッドに寝転がって目を閉じた。




  ー翌朝-


 目を覚ましたリオが階下に降りていくと、まだそこに二人の姿はなかった。

 普段なら起きていても不思議はない時間なんだが、と首をかしげるリオ。

 注文した珈琲がテーブルに届き、それを啜りながら今日の工程を考えていると暫くの後にシオンとポコの二人が下りてきた。

 片手をひらりと上げてリオが挨拶を送る。


 「おはよう2人とも、よく眠れたかい?」

 「ああ、俺は夢も見ないでぐっすり眠れたぞ!」

 「私も何とか眠れた…と思う…。」


 相変わらず元気いっぱいのポコと、未だ眠そうなシオン。

 そして相変わらず注文される山のような料理。

 それをいつもと変わらず平らげていく二人の様子を眺めながら、リオはほっと胸をなでおろした反面、苦笑を浮かべた。


 (食欲があるのはいいことだ…けど、本当によく食べるなこの二人…)


 「シオンには掻い摘んで話したけれど、今日は僕の家に行く。二人には少し正装をして貰わなきゃいけないけど大丈夫かい?」

 『正装?』


 シオンとポコの声が見事にハモる。

 テーブルに両肘を載せて両手を組み合わせその上に顎を載せた、リオは疑問符を浮かべる二人に向かってニッコリと微笑みを浮かべた。


 「そう、ちょっとね…ひょっとしたらその後、行くべき所にも関わるかも知れないから…ね?」




  ~街にて~




所変 わってアルバレスシティ商業区、中でも貴族中心に商売が繁盛している一角。


 今日も今日とて晴天。

 もともとこの地方は雨が少なく温暖な気候なのだがー。

 そんな雲一つない青空に、雷でも落ちたかと人が驚くような程の2つの盛大な大声が響き渡った。


 『っいーーーーやーーーーだーーーーー!!』


 一つは淡い桜色のフリルが沢山ついた所々に宝石すらあしらわれたロングドレスを着せられたシオン。

 頭上にはご丁寧にドレスと同じ生地の小さな帽子まで乗せられている。

 もう一つは、絹の純白のシャツに黒いロングズボンを履かされ、さらに軍服のような上着を着せられ窮屈そうにしている。

 腰には一目見て高級とわかる金の鎖をぶら下げて。


 店と言わず外まで響いた大声に、店員すらも驚いて目を白黒させている中、青髪の青年はニコニコと楽しそうに笑みを浮かべ椅子に腰かけていた。

 言わずもがな、2人の反応を予測して自分にのみ音遮断結界を張り巡らせていたのである。


 「なんっでこんなひらひらした服を着なきゃならないの!!いつも通りの服の方がいい!!あっちの方が動きやすい!!」

 「なんっでこんな窮屈な服を着なくてはならんのだ!!窮屈でかなわん!!こんな服装では思うように戦えんぞ!!」


 ぎゃんぎゃんと喚く二人の声も結界のせいでリオには届くこともなく、次から次へと着せ替えられていく様の二人を楽しそうに眺めていた。


「 いやぁ二人ともよく似合ってるよ。うん。それくらい正装してもらわないと僕としても困るんだよね。」

 「やだやだやだ!!いつもの服みたいなのがいい!!」


 防音結界を解除して満足そうに頷くリオの元へと慣れないハイヒールでよろよろとちかづいたシオンが珍しく声を荒げて駄々を捏ねる様に訴える。

 その訴えに動じることもなく、リオは笑みを崩さぬままシオンへと背を屈めて視線を合わせると、まるで口説くようにいつもより柔らかな声音で告げた。


 「どうして、とってもよく似合ってる。かわいいよ、シオン。」

 「かわっ!!?可愛くなくなんてなくていいから、普段の服がいいっ!!」

 「俺もそうだぞリオ!!普段通りに動けなくては有事の際に身動きが取れんではないかっ!!」

 「ポコもよく似合ってる、そうしてると美丈夫に磨きがかかるなぁ?」


 2人の非難の声に全く応じる様もないままリオはさらりとポコのことも褒める。


 「いつもの服じゃなきゃヤダ!!着替える!!」

 「俺もだ!!全くなんで正装とやらをしなくてはならないんだ!!」


 リオに不満の声が通じないと分かるや否や、ポコとシオンの二人は慣れない衣服にもたつきながら控室へと戻ろうとする。

 と、リオが二人に背を向けたままながら低く冷ややかな声で2人の名前を呼ぶ。


 「シオン、ポコ。言ったよね、”今日は僕の家に行く、そのあと行くべき場所がある”って。」


 その声音にピタリと二人の足が止まる。


 「言い忘れてたけど、僕の家系は曾祖母に元皇后がいてね。前王の御爺様は国王陛下だったんだ。現国王はその子。つまり…僕の叔父にあたるんだ。」


 ゆっくり振り向いたリオは変わらぬ笑みを浮かべていたが、うっすらとこめかみに青筋を浮かべていた。


 「サーシュアル家の力を使うためには多少なりとも王家に縁がある、ってわかるよね?ね?」


 リオの言葉に圧力を感じた二人だったがそこは意志の強い2人。


 「それでももうちょっとフリフリじゃないのがいい!!」

 「俺ももう少し控えめの方が、いい」


 どうしても頑として意志を貫く二人に対して、リオは深々と溜息をつく。


 「わかったよ、店を変えよう。もう少し、大人しめのほうがいいんだろう。」


 その後、さらに一騒動あったがなんとか2人の正装も決まった。

 シオンは体にフィットした黒いレザーのロングパンツに、黒いシャツに銀色にも見えるグレーのマント。

 ポコは、白い綿シャツに焦げ茶の牛皮のジャケット、そして両方にポケットがついたジャケットと同じ生地のロングズボン。

 貴族服から、一般的な冒険者風といった新品の服装に身を包んだ、2人はやっと落ち着いたといった感じで体を動かしていた。


 「…さて、それじゃあ。行こうか、サーシュアル家に。」



 森に囲まれた、小高い丘の上にそびえたつ、レンガ造りの御屋敷。

 そこがリオの実家である、サーシュアル家の本邸である。

 入口に続く中庭には正面に3段造りの噴水が設置され、スロープの両側には、花壇が整備されており赤や黄色の色とりどりの花が植え付けられている。


 「ここがリオのおうち…?」

 「大きな家だな…」


 唖然とした表情でシオンが呟く。

 ポコが日差しを避けるように片手を目の上側に翳しながら、建物を見上げて呟く。

 壁面はレンガで造られており、青い屋根が陽光に照らされ、それを眩く反射している。

 花や植木の手入れをしていた庭師の一人が、リオの姿に気付いて建物の中へ駈け込んでいった。


 (久々に帰ってきた…けど、なんだかなぁ…)


 「リオル!!ようやく帰ってきたのか!!」


 同じ都市にいたとは言え、久々の帰宅に僅かながら感慨深げに建物を見上げていると、建物から出てきた同じ青髪の青年がリオの名を呼んで走り寄ってきた。

 リオよりほんの少し背の低く線の細い知的な印象を抱かせるその青年にリオは軽く頭を下げる。


 「リーヴェ兄上、お久しぶりです。お元気そうで何よりです、安心しました。」

 「なんだ、随分他人行儀な話し方をするな?冒険者になると言って家を出てから全く帰らないし、連絡も寄こさないし父さんや、母さんも心配していたぞ。」


 リオの肩を軽く叩きながら、朗らかに話しかけていたその青年は、リオの後ろに控えるシオンとポコの姿に気付いて青色の目を細める。


 「リオルのお仲間かい?」

 「はい、彼女はシオン、こっちの彼がポコ。僕とパーティを組んでいます。」

 「そうか、風の噂ではずっと一人で活躍してると聞いていたが、仲間ができたのか。それはいいことだ。」


 リオに紹介された二人は、リーヴェと呼ばれた青年に軽く頭を下げて会釈する。


 「兄上にお会いできたのは嬉しいのですが、今回は少々お話がありまして。父上は御在宅でしょうか?」

 「話?生憎だが、父さんや母さんは今、領地の視察に行ってるんだ、母さんの静養も兼ねてね。」

 「母上はお体が弱い方ですからね。…それにしても父上まで不在とは…困ったな。」


 リーヴェからの返答に大きく溜息を付いたリオはがしがしと頭を掻いて俯いた。

 確かにリオの母親は昔から体が弱かった為に、母親を溺愛する父親としては視察ついでに静養に連れて行ったというのもわかる、

 しかし、本家で一番王族に近い血縁を持つ実父の不在に頭を悩ませた。


 (一番話を通しやすかったんだけどな…仕方ないか…)


 暫し無言のまま俯いて考え込んでいたリオは、すっと顔を上げると実兄の目をまっすぐに見て口を開いた。


 「兄上、父上が不在と聞いた今、名代としてお願いしたい事があるのですが…」

 「名代と言うほどのものではないが、とりあえず中に入るといい、そこで話しよう。」


 リーヴェはそう言うと、その場にいた全員に中に入るように促して踵を返す。

 リオもまたポコとシオンを振り向いて頷くと、懐かしき我が家へと足を向けた。


             ~つかの間の休憩、そして実家へ~完

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