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EP4 ~つかの間の休息・そして変異~


  ~つかの間の休息・そして変異~



 激戦とも言えるリーゼロッテとの戦闘訓練から1夜あけて、3人は早朝からギルドへの招集がかけられていた。


 「…こんな朝早くから、何…」


 眠く重たいであろう目蓋を擦りながら、不機嫌そうにシオンが不機嫌そうに呟く。

 豪快な笑い声をあげるポコが、シオンの頭をわしわしと撫で回す。


 「はっはっはっはっは!!深く考えるのは後にして、とりあえず飯を食おうじゃないか!!」


 食堂の四角いテーブルの席に3人各々が着くと、朝食のメニューがほかほかの湯気を立てて運ばれてきた。

 ふわふわの真っ白な丸パン、猪肉と野菜のゴロゴロ入ったホワイトシチュー、採れたて新鮮な野菜が使われた色鮮やかな生野菜サラダ、搾りたてのフルーツジュース。

 テーブルに並べられた料理の山々に、シオンの目が怪しく輝き、真っ先に大きな白パンへと手を伸ばして齧り付いた。

 隣の席に腰を落としたリオがシチューへスプーンをくぐらせながら、横目で眺めながら注意する。


 「シオン、勢いよく食べるのはいいけど、喉に詰まらせないようにするんだよ?」

 「むぐ。む…んむぅ…。」

 「食べながら喋らない。」


 さらに一言リオが注意を促す。

 その言葉に対してほっぺたをパンパンに膨らませたリスのような姿のシオンが、頷きながらオレンジジュースに手を伸ばしながら頷く。


 「多分、昨日の戦闘訓練でロッティがギルドに報告書を上げているだろうから、それに対しての功績を認められて報告があるんじゃないかな?」

 「昨日の戦闘訓練の功績?なにかあるのか?」

 「ランクの昇格、及び、多少の支度金の贈呈…まぁ事前投資みたいなものだと思うけど、ある程度は貰えると思うよ。」


 湯気立つほどの熱々のシチューを一気飲みのように流しこみ、手の甲で口を拭うポコの言葉に、信じられないものを見るような目で見ながらリオが返答を返した。

 隣では黙々と無言のまま食事を続けながら、見た目にそぐわない量の皿を積み上げていくシオン。

 早朝というのに食欲の衰えない二人を見て、食後の珈琲を啜りながらリオは溜息をついた。


 「そう言えば、コトネの姿が見えないが彼女はどうしたんだ?」

 「なんだか知らないけど、教会から呼ばれたとかで出かけて行った…」


 朝食を食べ終え、いつのまにか追加で頼んでいたであろうアップルパイを咀嚼し飲み込んでから、シオンが口を開く。

 その言葉に首を捻りながら、リオはぼそりと呟いた。


 「教会からの呼び出し?…何かあったのかな」


 (とりあえず、このまま平和に食事を続けて、後は…なんとかなるだろう、たぶん…)



 抜けるような青空の下、ポカポカとした日差しを受けつつ3人はギルドへの道を歩いていた。

 朝食で満足したのかお腹を摩りながらゆったりとした足取りで歩くシオンと、相変わらずもの珍しそうに周りをキョロキョロと見ながら歩くポコ。

 そんな中、リオはコトネが教会に呼び出された内容を考えながらすたすたと歩いていた。

 3人がそれぞれの足取りで、歩いていると相変わらず賑やかな喧噪がギルドから聞こえてくる。

 扉を開けてカウンターへと向かうと、受付嬢のエレーナがいつもと変わらない笑顔で3人を迎えてくれた。


 「おはようございます、皆さん。昨日はお疲れさまでした。上層部の方から報告は受けていますよ。とても素晴らしい成績だったようですね。」

 「おはようございますエレーナさん。ええ、今日はその件で呼ばれたと思ってるんですけど。」

 「ええ、その通りです。ウッドの方々は素晴らしい成績をおさめられたと言う事で、アイアンまで昇格になられました。ですのでタグの交換と、報奨金の贈与が行われますよ。」


予想通りの事柄にリオはほっと息を吐いて、シオンとポコの背中を前へと押した。


 「ほら行っておいで。ウッドのタグをアイアンに変えてもらっておいで。」


 エレーナにウッドのタグを変換して新たに刻まれた鈍色のプレートと、報奨金を受け取る二人の後姿を眺めながらリオは腕組みをして再び思考を元に戻した。


 (教会への緊急招集…、上級神官や司祭級の実力がある人なら緊急招集も考えられるけど、初級も初級の神官であるコトネですら呼ばれるってことは、教会内で何かあったのか?)


 と、腕組みしていたリオの肘の部分の衣服が軽く引っ張られた。

 その感覚に、ふと意識を戻し視線を落とすと鈍色に光るプレートを握りしめたシオンがほんの少しはにかんで見上げていた。



 「…あり、がと。リオのおかげで、冒険者のランク、上がった…。」

 「おめでとうシオン。僕は何もしてないよ?君たちの実力があって、そのランクまで上がってこれたんだよ。」

 「え、へへ。…凄く、嬉しい…。」


 小柄なシオンの頭をやんわりと撫でれば、大切そうにプレートを握りしめて嬉しそうにシオンが珍しく微笑んだ。

 思いがけず見せられたシオンの微笑みにリオが目を丸くする。

 普段は無表情なだけに年相応の可愛らしい姿に、思わずリオも笑みをこぼした。


 「さて、ポコとシオンの昇格手続きは終わったけれど…コトネの方が気にかかるね。この後教会に行ってみようかと思ってるけど二人はどうする?」

 「私は、一緒に行く。何かあったのか、気になる。」

 「ならば俺も一緒に行こう、一人で買い物してもつまらん、どうせなら皆で買い物した方がいいだろう。」


 二人が同意の意を示してくれた事に納得して頷き、踵を返すと3人はギルドを後にして教会へと向かった。



 ギルドや宿があった商業区から離れたエリアよりも王城に近い位置にある一際大きな白亜の建物。

 そこがこの都市で唯一である、慈愛を司る教会の大神殿である。

 3人が教会の敷地内に足を踏み入れると、穏やかな街中とは違い、慌ただしく神官や司祭が動いていた。

 その状況になにかあったのでは、と言った雰囲気が漂っていた。


 「これは声をかけずらいのではないか…?」


 これまた珍しくポコが声を潜め、身をかがめるとリオの耳元に囁いた。

 その言葉に頷くとリオはシオンの方へと体を向けて問いかける。


 「シオン、何かしらコトネに関係するものを持っていたりしないかい?」

 「…コトネから借りたハンカチならある…けど、どうするの?」

 「うん?この場所でコトネを探し出すのに使うんだ、ちょっと借りるよ」


 シオンが差し出したハンカチを受け取ると、そのハンカチを額に当てて意識を集中しするとリオは目を瞑り、小さく呪を呟く。


 「光よ、風よ。我に力を与えよ。≪探索≫(サーチ)」


 薄っすらとした光の粒子が風に舞うようにリオの周りを廻り、すぐに周囲へと霧散していく。

 霧散した光の粒子は風に乗ってあたりを漂い、一ヶ所の方向に収束していく、

 その方向を指さしてリオは二人を促すように声をかけた。


 「あっちの方向に行けばいるかもしれない。さ、2人とも行ってみよう。」



 光が指し示した方向に歩いていくと、大きな部屋の一室にたくさんのベッドが並べられていて多数の人が横たわっており、呻き声や苦悶の声を上げていた。

 周りでは多数の神官たちが慌ただしく動いていた。

 血臭さや腐臭は感じられないところから、怪我ではないと思われるが人数的に疫病でも流行っているのだろうか。

 その周囲の中で、ほかの神官と同じようにバタバタ働くコトネの姿を見つけた。


 「…コトネ」


 小さいながらもハッキリとした声でシオンが呼びかけると、些か疲れたような表情を浮かべたコトネが顔を上げてこちらの方へ歩み寄ってきた。


 「皆さん、わざわざ来て来てくださったのですね。…申し訳ありません、何とか連絡を取りたかったのですが…」

 「いや、この状況を見たら連絡取れなくてもしかたないだろう。一体何があった…?」


 リオの問いかけにコトネは眉間に皺を寄せ、重い口を開いた。


 「まだこの街には広まってはいませんが、近隣の村で疫病が流行っているそうなんです。その諸近隣の村や町では治療が間に合わなくてこの惨状なんです。治療の手が足りず私のような神官まで治療の手伝いに来るように、と…。」

 「疫病…?そうか…じゃあ暫くコトネは、この町というか大神殿から離れられない、と言う事になるね?」

 「…はい。折角リオさんやポコさん、シオンと冒険者になれたというのに、大変申し訳ないのですが…苦しんでいる人たちを置いて行く事は私には…」


 自らの胸元にある銀製のロザリオをぎゅっと強く握りしめて、苦し気にコトネが呟く。

 神官として慈愛の神に仕える身である彼女としては、疫病で苦しんでいる人々を放置していく事には葛藤があったのだろう。

 ましてや自分の相棒ともいえるシオンと別れることにも悩みがあったかもしれない。


 「シオン…、ごめんなさい、私…」

 「…いい。コトネならこの状況を見捨てるわけないって知ってるから大丈夫。私は冒険者として生きていくけど、もう会えないわけじゃない。」


 皆まで言うなとばかりにシオンが珍しく言葉を紡いだ。

 そのシオンの言葉に眉根を寄せたコトネが、はらはらと涙をこぼすも、すぐに涙を拭いて毅然とした表情を浮かべポコとリオに向き直ると頭を下げた。


 「リオさん、ポコさん、シオンをお願いします。一緒に行く事が出来なくて申し訳ありません。」

 「大丈夫だよ。シオンのことは僕が守る、君は君が出来る事を精一杯やってくれ。」


 頭を下げるコトネの肩に手をかけて、リオがきっぱりと言い切る。

 その言葉に安堵したのか、頭を上げたコトネが満足そうに笑みを浮かべて再度軽く頭を下げる。


 「皆様に神の祝福を、この先に幸多からんことをお祈りしております。」


 神官らしく祈りの言葉を紡ぐと淡く微笑みを浮かべたコトネは自分の仕事へと戻っていった。

 その姿を見送った3人も帰路へと踵を返すが、その道中普段より寂し気なシオンの後姿がリオは気にかかり、声をかける。


 「シオン…?大丈夫かい?」

 「…大丈夫、コトネを守るのは傍に居る事だけじゃないから。平気。」


 普段通りの淡々とした返事を返すシオンにの頭を一撫でしてから手を離して、3人は今後の話し合いをすべく帰路へと向かった。


              ~つかの間の休息、そして変異~完

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