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EP1 ~出会い~


  ~出会い~


 雲一つない晴天が広がる昼下がりの午後、人々が多数往来をする商店街の一画にある、黒樫を基調に建てられた重厚な一軒の建物の前に、青髪の青年が独りその建物を見上げ佇んでいた。


 「今回の仕事はなかなかに骨が折れる仕事だったな…なんとか任務完了…といった所だが、依頼の内容もそろそろ僕一人では難しくなってきたか。」


 誰にともなくその青年は一人呟いて、いささか疲れたような様子で、建物の入口へと足を向けた。



 『アルバレスシティ 冒険者ギルド本部』


 入口には看板が大仰に掲げられ、その分厚い扉を開かずとも建物の中から賑やかな喧騒が響いている。

 ライリール大陸中心に位置し、恵み豊かな自然資源を誇り、多種多様な異種族が何の隔たりもなく暮らしていけるという事で名を馳せる自由国家レンファン王国首都、アルバレスシティ。

 そこに集う冒険者達がひしめき合うのは、この冒険者ギルドだ。


 青髪の青年が扉に手をかけて開くと、中は大勢の冒険者たちでごった返しており熱気に包まれていた。

 人間をはじめ、亜種族と呼ばれるエルフやドワーフから半獣人達までが談笑していたり依頼を受けたりと忙しない。

 (取り敢えず終わらせてきた依頼の報告)を、と彼がギルドカウンターに向かうとすでに顔馴染となった受付嬢が彼に向って声をかけてきた。


 「あら、リオさん。今回も無事にお帰りになられたのですね?ご無事で何よりでした、依頼のご報告ですか?」

 「ああ、エレーナさんただいま。なんとか無事だよ、おかげさまでね。」


 『リオ』と呼ばれた青髪の青年は受付嬢に微笑みを返し答えると、手に持っていた麻袋をカウンターの上において広げて見せた。

 広げられた袋の中には、魔獣から剥ぎ取って来たであろう素材がぎっしりと詰め込まれている。


 「えーと、ダークベアーの爪に…イービルフライキャットの翼とひげ、…それから別件でお願いしていたレベスタ草の採取、ですね。承りました。後はこちらで数の確認などをしてから、依頼完了となります。ご苦労様でした。」


 麻袋の中身を確認していた受付嬢『エレーナ』が満足そうに頷いて微笑む。


 (それにしても最近の依頼は僕一人じゃなかなかに厳しくなってきたな…)


 「ところでリオさん、お一人でこの数を集めたり採取したりとでは随分大変だったのではありませんか?」


 依頼された品を渡しながらぼんやりと考えていた事を読まれたかのような問いかけに、リオは右手の人差し指で自らの頬を掻きながら困ったように口を開く。


 「確かに…1匹2匹なら物の数ではないけれど、うじゃうじゃ来られると流石にね。ポーション代もただじゃないし、神聖魔法でも扱える仲間が居てくれたらとても助かるかなとは思っているところだったんだ。」


 素直に返答するリオに微笑んだエレーナは、依頼掲示板が貼られている方向の壁付近のテーブルへと視線を向けながら言葉を続ける。


 「でしたら、あそこに女性二人ですが、パーティメンバーを募集している方々がいらっしゃいますよ。一人の方は確か神官様だとか…」


 エレーナの向けた視線の先に、リオが目をやると、そこには椅子に腰かけ時折何事か話しながら辺りを見回す二人の少女の姿があった。

 一人はとても幼く見えるが、腰まで伸ばしプツリと切り揃えた長い白髪を揺らした黒衣の少女、短剣を扱うのか黒いコートの裾からは2本の大振りなナイフが見えている。

 もう一人は白髪の子より背は高く銀色に輝く杖を抱えている、ふわふわした栗色の髪を胸元まで伸ばし、金糸に縁どられたまっさらな純白の神官服を身に纏った少女。

 

 (随分場違いな処に女の子が二人、か。女の子だけで良く絡まれずにいるものだ。)


 賑わうギルド内の雰囲気の中でも。とりわけ浮く佇まいの二人へとリオが視線を向けていると、その少女たちの片方である白髪の少女と目が合った。

 エレーナに対し伺う様に『彼女たちか?』と視線を向けると答えを返す様に彼女の唇が弧を描く。

そしてその僅かな間に、白髪の少女がリオのすぐ傍らに立っていた。


 (僕に何か用なのか?あまりにも見ていたから気分を害したのかもしれない、謝っておくとするか)


 「ねぇ。」


 思考を巡らせているリオの前に近づいてきた白髪の少女がちょっと強気だが、まだあどけなさの残る声音でリオを呼んだ。

 一瞬の間に距離を詰められていた事にリオは一瞬戸惑うものの、首を傾げて見せる。


 「その青髪と真っ赤な目。それから全身を青で纏った姿。さっき、このおねーさんから聞いたのだけど、貴方がリオさん?」



 (いったいいつの間に自分の事を話したんだ)



 楽し気に微笑んだままのエレーナを軽く一瞥してから、リオは白髪の少女の問いかけに頷いて答えた。



 「確かに、僕はリオと呼ばれている。リオル・ユージアル・サーシュリアだ。僕にいったい何の用かな、お嬢さん?」



 リオは丁寧に自らの名前を名乗ると、白髪の少女は戸惑いがちに彼の袖口を軽く掴み小さく呟いた。



 「リオさんが魔法も使える優秀な剣士だって聞いた。だから、私達とパーティーを組んでほしい。」



 少女が口にした唐突な勧誘にリオは驚き軽く目を見開くと戸惑いつつ答えを返す。



 「随分いきなりだね、お誘いは有難いけれど…僕は君の名前も知らないしすぐに返事を返すことは出来ないよ」


 「名前…、私の名前はシオン。あそこに座っているのは神官のコトネ。お願い、私達と一緒に来てほしい」



 (名乗っただけでパーティーに参加しろって?この子、無茶言ってくれるね…)


 自分より遥かに年下であろう少女の端的なパーティー加入の誘いに、リオはこめかみを指先で抑えながら溜息を吐いた。


 「腕の立つメンバーが欲しいなら、僕意外にも沢山居るよ。他を当たってく…」


 「そう。断るなら、今ここで貴方に○○○(ピー音)をされたと受付嬢のおねーさんに言ってもいいけど。」


 「わーっ!?君みたいな女の子が○○○なんて事を言うんじゃない!!」


 体よく断ろうとしたリオの言葉を遮って、シオンと名乗った少女が冗談ともとれぬ表情で平然と言い放つ。

 彼女の口から紡がれる抑揚のない口調にも、真意は読み取れないが、とんでもない言葉にリオは焦り思わず声を荒げ止めさせる。

 思わず反射的につかまれている腕を軽く振り払って手を離させると、リオは疲労の色を滲ませつつ妥協案とばかりに口を開いた。


 「まったく…、そんな偽りの事を報告されても迷惑なだけだ。少し話をしようじゃないか、君のお仲間も一緒に。」

 「分かった、それでいい……ぴっ!?」


 リオとシオンがそんな会話をしていると唐突に、今までとは打って変わって甲高い悲鳴を上げた。

 何事かと身構えるリオの視線の先には、シオンを後ろから包み込むように抱きしめて頬擦りを繰り返しながらだらしない笑みを浮かべる栗色の髪の少女の姿が目に映った。


 「お仲間になってくださるんですね?まぁ、とっても嬉しいです、シオンよくやりましたわ!」

 「違う!まだ!離してコトネ!」


 (うわ…よだれ垂らしてる…しまった、早まったか…?)


 はたから見れば仲の良い姉妹のじゃれ合いにも見えるその姿だが、真正面から目撃したリオには脅威以外の何物でもなかった。


 「と、とりあえず今後の事も話し合いたいし、場所を変えようか…」


 口元を引き攣らせながらもリオは何とか言葉を絞り出して二人の少女、シオンとコトネを外に連れ出すことにした。




 所変わって冒険者ギルドと同じ商業区にあるオープンテラスのカフェ。

 3人はその一卓を囲み、互いの自己紹介も兼ねて他愛もない話をしていた。


 「それで…まだ正式なパーティーを組む気にはならないの?」


 皿の上に山と積まれたパンケーキを口に運び、頬をリスの様に膨らませた状態のシオンが相変わらずの小さな声で呟く。

 いったいその小さな体のどこに入るんだという量のパンケーキを食べるその姿を眺めながらリオは遠い目をしていた。


 「ここの支払い一体誰がするんだろう…じゃなくて。そうだなぁ、まだ僕は君達の実力をよく知らないんだ、取り敢えずお試しって事でどうだろうか?」


 気を取り直したリオが二人に提案を仕掛けたその時_。


 「おーおー、可愛いねーちゃん連れて冒険にでも行くのかい、色男のにーちゃんよぉ?」

 「へっ、そんなひょろい体で女二人を守れんのかねぇ?嬢ちゃんたち、パーティーを組むならそんなモヤシみたいな男より俺たちが連れてって行ってやるぜぇ?」


 唐突に横から掛けられた声に3人が目線を送れば、そこに居たのはガラの悪い男が二人にやけた笑みを浮かべて立っていた。

 冒険者資格もあるのかすら怪しい、一見ゴロツキと言った風情の男達に下品な物言いをされて自然とリオの目が据わっていく。


 (低ランクの冒険者といった所かな。随分と言いたい放題言ってくれるじゃないか)


 「なんだぁ?何も言い返せねぇのかぁ?なら俺らがこの嬢ちゃん達を連れて行っても構わねえよなぁ、正式なパーティじゃねえんだしよ?」


 何時から話を聞いていたのか、リオの沈黙を都合よく解釈した男達は下卑た笑い声をあげてコトネの腕を掴む。


 「離してください、私たちはこの方と一緒に行くのです!」


 腕を掴まれたコトネが嫌がって懸命に腕を振り払おうとする姿を見たリオは、明らかに不機嫌極まりない声で呟いた。


 「………面倒だな、燃やすか?」


 そしてリオが腰を浮かせかけたその時、一つの大きな影がゴロツキ二人組の後ろから現れ、二人組の肩にそれぞれ手をかけた。


 「話の途中すまん!冒険者としてパーティを探していたのだが、お前達も同じ身の上か?」


 かるく肩に手を掛けただけ…の筈なのだが。

 コトネを掴まえていた男は、突如地面に押さえつけられたかのように蹲って肩を抑え痛みに悶絶し、もう一人は前のめりに吹き飛び他のテーブルに頭から突っ伏している。

 腰を浮かしかけたままの体勢でリオは頬から一筋の汗を流した。


 (なんだ…この…人間?いや、人型の魔獣?どちらにせよ、ものすごい圧を感じる…!)


 「て、テメェいきなり何しやがる!!」

 「おや?俺は軽く挨拶しただけなんだが…、まぁ怪我をしたわけでも無いだろうに、大袈裟に喚くな」

 「怪我してんだよ!テメェのせいで相棒は気絶してるし、俺は肩が折れちまったじゃねえェか!どうしてくれるんだ!?」

 「ほう、怪我をしたというのか?ならばこの俺が治してやろう」


 巨漢の青年は口角を持ち上げて笑みを浮かべ両手の指の関節を鳴らし始めた。

 その音を聞いたゴロツキの片割れは腰が抜けたのか、ひぃと小さな悲鳴を上げて情けなく座ったまま後ずさりする。


 「いけません!怪我をしたというのなら回復して差し上げます、それが神官の務めですから!」


 先程まで強引に連れて行かれ掛けたというのにも関わらず、コトネが凛とした声で言い放ち肩を抑える男の傍に駆け寄ると、その肩に手をかざし、祈りを謳い始める。


 「いたわりと慈しみを導きし神よ、今ひとたび癒しのご加護をお与えください…」


 その句が紡がれ終わった時、コトネの掌から淡い緑色の光が溢れだし、男の肩の周囲を包み込む。

__と。


 「ぎゃああああああ!いだっ、いっ!!痛ぇええええ!!」


 およそ回復魔法を掛けられているとは思えない男の声が周囲に響き渡り、道行く人々が何事かと振りかえる。

 耳を塞ぎたくなるような断末魔の悲鳴に、リオは誰にともなく呆然と呟いた。


 「え…?…あれ。回復魔法かけてるんだよな…?おかしいな、なんで悲鳴が上がるんだ?」

 「…アレがコトネの回復魔法。アレは日常茶飯事。」


 ちゃっかりといつの間にかリオの隣に避難していたシオンが死んだような目をしながら答えた。


 「あぁっ…痛いんですね?大丈夫ちゃんと治っていっている証拠ですわ…!もっと…もっと、ちゃんと直して差し上げますっ!」


 (回復されているらしい)痛みに悶える男の傍らで、その姿を眺めては恍惚の表情を浮かべる美少女へんたい


 「も、もう勘弁してくれぇ!!」


 コトネの魔法を受けていた男は、やおら立ち上がると未だに気絶したままの相棒を肩に担いで人ごみの中へと姿を消していった。


 「あー…あの様子じゃ一応完治はしているようだね。」

 「コトネの神聖魔法は強力。治るまでに痛みが伴う、とは聞いてる。」

 「回復魔法って何だったっけ…。」


 リオとシオンが男の消えて行った方角を見つめたままそんな会話をしていると、先ほど現れた屈強な青年が笑いながら二人の傍へと歩み寄ってきた。


 「いやーなかなかにすさまじい声だったな。俺は今まで回復魔法とやらを掛けてもらったことはないがあんなに悲鳴を上げるほどのものなのか?」

 「僕も回復魔法を掛けられてあんな声をあげる人は初めて見たよ…と、さっきは有難う。助けてもらった形になったみたい、だけど…」


 思わず疑問形になりそうなのを堪えながら、リオが青年に向かって言うと彼は困ったように黒髪を掻きながら答えた。


 「助けるも何も、俺は普通に接したつもりだったんだが彼奴らが貧弱すぎたようだ、礼を言われる事でもないぞ?」


 男性としても長身すぎる身の丈に、筋骨隆々な体躯。また彼が連れているのであろう馬も一般的な乗馬用の馬と比較しても筋肉質な体つきに驚く。

 その青年は体躯からは想像出来ぬ程にフレンドリーに話しかけてきた。


 「ところで、俺はつい今しがた冒険者資格を取ったばかりの新米で名前をポコという。パーティーメンバーを探してギルドに居たのだが、何故か皆に怖がられて困っていたんだ。街中にでも冒険者は居るだろうと思って通りすがった所にお前たちが居て話が聞こえてきたという訳なのだが…お前たちは今からパーティーを組むところなのか?」

 「あ、ああ…僕の名前はリオル・ユージアル・サーシュリア、リオで構わない。パーティーを組むのかと言われれば違…」

 「そう。私とあの神聖魔法を使う人も新米冒険者。だからこのリオさんにパーティーを組んでほしいとお願いしていた所。貴方も強そうだし、良ければ一緒に『4人で』パーティを組まない?」


 違う、とリオが否定しかけた言葉を遮る形でシオンが珍しく強い口調で変わって応えた。

 思わず、といった雰囲気でリオがシオンを見下ろすと、見上げた彼女は『してやったり』と言わんばかりの表情で笑みを浮かべていた。


 「待て、僕がいつパーティーを組むことに賛成し…」

 「ほう!そうなのか!俺としては願ったり叶ったりな勧誘だ、是非とも参加させてもらいたい!」


 リオの反論がシオンに届き切らぬうちに、嬉しそうな声でポコが賛同の声を上げる。


 (どいつもこいつも、なんで僕の話を聞かないんだ…!!)


 警鐘を鳴らすような頭痛と言い知れぬ不安に頭を抱えるリオに、戻ってきたコトネが飛び切りの微笑みを浮かべ告げる。

 それはリオにとって最終通告のような一言に違いなかっただろう。


 「こんな短時間でパーティーが組めるなんて天命、まさに神様の思し召しですわね、リオさん。」


 名前しか知らぬ幼い見た目の少女が一人、何処となく不安要素にしかならなさそうな神官が一人、能天気な筋肉男が一人。

 リオは広く晴れ渡った青空を見上げて深々と溜息を吐いて、誰にともなく諦めのような言葉を発した。


 「…もういい、好きにしてくれ…」


 こうして集まった4人がこれから紡いでいく物語は、英雄伝となるのか夢物語となるのか。

 それは彼らに訪れる未来だけが知っているだろう。


                  ~出会い編 完~

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