第1話『プロローグ』
僕の名前は、真上 禎。
何処にでもいる完全無欠の普通の中学二年生の男子。
小学生の頃は同級生に『まうえ』と、からかい半分で言われた時期もあった。
だがこれを繋げて読むと『まうえてい』、『まうてい』、『マウティ』と読めなくもない。
つまり何が言いたいかというと、『マウティ』とは、僕が遊んでいるアプリゲームのハンドルネームになっている。
みんなもアプリゲームのフレンド検索で『マウティ』という名前があればそれはほぼ僕で間違いないだろう。
ただしこの『マウティ』は長い間ログインされていないはずだけど。
何故ならゲームをやってる暇など無いから。
そもそも僕は電波さえ繋がっていない場所に居るのだから。
知ってますか、異世界ってスマホ使えないんですよ。
僕の名前は、真上 禎。
この異世界では『マウティ』と名乗る
何処にでもいる普通の中学二年生の男子……でした。
▽▽▽▽▽
湿気と熱気のこもったダンジョンフロアに剣撃の鈍く甲高い音が鳴り響く。
打ち合う戦斧と魔剣が蒼白い火花を撒き散らしながら室内の温度を加速的に上昇させる。
それは、今まさに命のやり取りを行っている証拠。
3メートルは有るであろう、屈強な筋肉をその身に纏うミノタウロスと、華奢な少女が戦っていた。
魔剣を握る少女の名は『エリス』。
青紫色の長い髪を持つ整った顔立ちの、極上の美少女であり、僕のご主人様だ。
大事なことなのでもう一度言おう。
僕のご主人様だ。
つまり僕は美少女魔剣士エリス様の奴隷である。
どうでもいいことだけどもう一度言おう。
僕は奴隷だ。
別にプレイの一環とか性癖の話をしている訳ではない。
もしこれがゲームでステータス表示があれば僕の職業欄には『奴隷』、もしくは『下僕』と明記されているだろう。
空前絶後の美少女ご主人様のエリス様に仕えてから約2週間が経つが、今はこうして仲良くモンスターが蔓延るダンジョンを探索をしている。
ちなみに完璧美少女のエリス様に仕える前の僕は……別のご主人様の奴隷だった。
て言うか、異世界に来て2、3ヶ月ぐらい経ったと思うけど、最初の3日間以外は僕の職業(?)はずっと奴隷だった。
……まぁその辺の話は今は割愛して
現状の僕はダンジョン内でマジックバックを背負い壁際に立ち、勇猛果敢に戦う絶対無敵のエリス様の荷物持ちをやっている。
あくまでも邪魔にならない体で、目障りにならないように。
一緒に戦わないのかって?
フフン!
荷物持ちには荷物持ちの大事な仕事があるのだよ。
それに僕は戦闘力皆無だし。
チート?何それ?
異世界に来た人間がスッゴい力に目覚めるなんて夢のまた夢だからね。
寝惚けて調子にのってるとすぐに死んじゃうから。特にこの異世界では。
何せ剣と魔法が入り乱れるバイオレンスな世界だから。
ほらほら、なんだかんだ言っている内に、ミノタウロスの轟音を撒き散らしながら投げられた戦斧を真っ二つに斬る美の女神の化身エリス様。
既にエリス様の足下には、5体のミノタウロスの死骸が黒煙を発しながら転がっている。
そして先程戦斧を投げた最後の1体のミノタウロスに向かって、光速のようなスピードでミノタウロスの腹に輝き放つ魔剣を突き刺した。
黒煙を舞いながら灰と化すミノタウロスの死骸から、手のひら程の大きさの緑色に輝く魔石が転がり落ちる。
そしてここからが、僕の大事な仕事の時間だ。
地面を這いつくばるように急いで魔石を拾い集めた僕は、主人である至高の存在エリス様の前に立ち
「いやー、流石はご主人様!あんな化物ども相手に全然余裕でいらっしゃるなんて!それにしても凄いですね!あんなにズバズバッと一刀両断微塵切り!もう超必殺技のオンパレード!よ、天才美少女魔剣士!世界一!」
2割のおべっかと8割の素直な称賛を口にする僕。
突如、魔剣が蒼白い煙をあげ、魔剣の姿から蒼白い体毛を靡かせた狼へと姿を変えた。
「ムラサメ、お疲れ様」
腰を落として狼型のモンスター、ムラサメの頭を微笑みながら優しく撫でるエリス様。まさに癒しの権現か。
羨ましい、僕も頭をナデナデされたい……なんて思ってないんだからね!そんな図々しいこと一片も考えていないんだから!
と、ちょっとツンデレ風な心を隠しながら次は僕にお誉めの言葉をかけてくれるのでは?と待ち構えていると、スウと立ち上がり僕を睨むご主人様。
「マウティ、あなたは……」
ヤバイ!また何か粗相をしてしまったのでは。緊張で思わず身構える僕に、ご主人様である最高神エリス様が
「……あなたは化物なの?」
僕を人間否定した。