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真導士サキと空白の地 セレンピア  作者: 喜三山 木春
第一章 禁秘の泉
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索敵

 とんとんと扉を叩けば、控室から志教のひとりが顔を出してきた。

「失礼します」

「あなたは……サミーさんでしょうか。いったいどうされましたか?」

 出てきた志教は、さきほど食堂にやってきた人物ではなかった。それでも話は知られているようで、自己紹介をするまでもなく、名前を呼んできた。


「お忙しいところすみません。じつは、みなさまに味見をお願いしたいのです」

「味見?」

「わたしは聖都の出身でして。よく味付けが甘いと言われるのです。せっかくの懇親会で失敗したくはないので、お願いできればと思いまして……」

 そのように伝えたところ、志教は自分とトレーのうえの小皿とを見て、にっこりとした。

「もちろんですよ、サミーさん。とてもおいしそうなお食事ですね。どういったものでしょうか?」

「若鶏にハーブをつめてを焼いたあと、ソースをからめて炙ってあります。ソースに入れる砂糖をかなり減らしたのですが、こちらの地方の方に合うかどうか心配なのです」

「なるほど、ハーブですか。いい香りがします。さあ、お入りなさい。いま志教が全員そろっていますので、ちょうどいいですよ」

 うれしそうに扉を開けた志教に呼ばれ、なかにいた全員が自分に目を向けた。

「今夜のごちそうの味見をして欲しいそうです」

「そうか。ではまずこちらへ持ってこい」

 言いながら自分を手招いたのは、大柄の志教――例の片生だった。

「まずは、神への祈りを捧げないとな」

 そう言って、片生は胸元からひとつの輝尚石を取り出し、小皿にかざした。


 その光と気配を浴びながら、なつかしい気分に包まれる。

 いつかの実習で、こうやって輝尚石を使った。あのときも、青銀の真導士から渡された輝尚石を、食事に向けて展開したのだ。

 片生は、輝尚石の展開を支えるのに神経を注いでいる。

 半端者とすら称される彼らは、輝尚石を展開するときに、真導士以上の集中を求められる。

 輝尚石を展開している片生も、ほかの志教たちも、祈りを捧げる姿勢となっていた。

 いまなら、だれも自分に注目していない。


 機会を得て、真眼を見開いた。

 術具の下で見開いた第三の目は、いつもより感度が悪い。とはいえ、この部屋はそれほど大きな場所ではない。隠されている転送を、絶対に見つけてみせよう。

 そう意気込んだとき。片生の手にある輝尚石以外の場所で、ちかちかと明滅している光を、両目がとらえた。

 片生の胸元に、首飾りが下がっている。

 展開中の輝尚石とは、ずれた調子で光る、赤い貴石。貴石の周囲をよくよく視れば、そこに極小の真円が描かれている。

 その小さな光の気配をたしかめて。全開にしていた真眼を、急いで薄目に戻した。


 この気配は、 "索敵(さくてき)の陣" だ。

 秋の合同実習で、第一部隊に見せてもらった覚えがある。

 索敵は、真力や真術のみならず。真眼、 "真穴" 、 "真脈" などの気配を探るための真術。


 片生は、いまも祈りを捧げる演技をしていた。

 目を閉じて、神への感謝を口にしたまま、輝尚石の展開を支えている。

 ……ああ、危なかった。

 索敵の明滅は、完全に自分の真眼をとらえていた。もし、片生が目を開いていたら、索敵の成果に気づいていたに違いない。

 自分のひたいを(ルビ)っている術具には、隠匿がかかっている。真眼の気配が、外に漏れることはない。だからこそ片生は騙せているのだ。


 けれど、索敵はそうはいかない。

 索敵はおもに、真術や真力の量を感知する。隠匿を探すのに特化した "探索の陣" より効果は落ちるものの 強化をすれば隠匿を透かし視るくらいならできる。

 片生が下げているのがどれほどの術具か、いまの状態では探れない。しかし、自分の真眼に反応を示していたなら、かなりの強さだと思っていい。

 本当に危ういところだった。

 目の前に索敵があるとすれば、真眼を全開にするのは危険だ。視野を狭くして、薄目のままで調べるしかない。


 祈る演技を終えた片生が、もういいと許可を出してきた。

 早くなった心音を、できるだけ意識の外において。志教たちに小皿を渡していく。

 自分に対する警戒を解いたのか。もしくは反抗できないと判断しているのか。志教たちは味見をしながら、会話をはじめた。




「あの方がお帰りになられたと聞きましたが、執務室にお姿が見えませんね」


 小皿を配り、部屋をゆっくりと歩く。

 志教たちの部屋――控室と呼ばれている場所には、ふたつの扉がある。 "泉" へと通じている木の扉と、 "もぐら" へ通じている鉄格子の扉。

 どれだけ探っても、やはり二階の回廊に通じているような場所はないようだ。

 あとは横穴があいているくらいか。じっくりと目を凝らしてみたものの、ほかの出入口は見つけられなかった。


「客室です。例の占い師と歓談中かと……」


 小耳を立てて、会話を聞く。

 情報は、多ければ多いほどありがたいと、剣士が言っていた。

 意味がわからなくとも。それがどんな些細なことであっても、すべてを持って帰って来て欲しいと頼まれている。

 耳をそばだてながら、部屋の隅々まで注視する。

 二階の回廊とは逆側に、火の入っていない暖炉がある。その横には、大ぶりの木箱が置かれていて、周囲にやわやわとした光がもれてきている。


「そうでしたか。そろそろあの習学者について、ご指示を仰がねばと思っているのですが」

「あの習学者?」

「はい。あの髪色が混ざった……」


 話題の主に思い当たって、身体に緊張が走る。

 それを意思の力でねじ伏せつつ、会話に参加していない志教に、味の感想をたずねた。


「われわれでは、神の道へ導いて差し上げるのが難しい方かと」


 美味でしたという感想に頭を下げて、小さなその部屋を、ゆっくりと歩き回った。

 そろそろと動きながら、あちこちに隠されている輝尚石の気配を探り当てていく。


「そうですね。あの習学者については、お力添えをお願いしましょう」


 空になった小皿を重ねて、再び歩き出したそのとき。真眼が小さな気配を拾った。


「あの方のところへは、俺がうかがおう。ほかにも確認しておきたいことがある」


 片生が発言すると同時。

 その気配が、部屋のどこからか漂ってきているのをはっきりと感知した。




 思っていたとおりだ。

 この控室には、間違いなく "転送の陣" が隠されている。

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