第1話 世界樹の声
ユグドラシルは北欧神話に出てくる世界樹の名前です。
そしてこれはそのユグドラシルをモチーフにしたオリジナル小説です。
ユグドラシル。それは世界樹。
ユグドラシル。それは宇宙樹。
ユグドラシル。それは世界を表す。
ユグドラシルには北欧神話にある九つの異なる世界を含んでいる。
それは九つの世界の中心。まさしく全ての世界の中心。
そしてその世界の中心、ユグドラシルを守る者がいた。この世界中の守り人。
森の精霊とその使いのドラゴン。その森の精霊の名前はユマ。
その使いのドラゴンの名前はリアッカ。
彼女達は常にユグドラジルの周りを飛び、そして世界を見つめている。
なぜ彼女達がこの世界樹を守る守護者に選ばれたのか。
それは彼女が異なる世界を含め、全ての森の精霊の長だったから。
それは同時に全ての世界を見ることを許された選ばれし精霊。
彼女はいつものようにドラゴン…リアッカの背に乗り世界樹の周りを飛んでいた。
「ユマ…ユマ……」
自分の名前を呼ぶ声にユマはリアッカを止め、声が聞こえた場所まで近づかせた。
木の幹からひょっこり顔を覗かせたのは一匹のリス。彼の名前はラタトスクと言う。
「ユマ…ユマ…大変…大変」
「何が“大変”なの?」
「危険、危険。世界が危険。叫ぶ。叫ぶ。命叫ぶ」
ラタトスクは九つある世界に情報を伝えるメッセンジャーの役割をしている。
しかしそのラタトスクの情報はユマには理解できなかった。
ただ分かるのは何かが「危険」という事。
「…またか」
その声にユマが顔をあげると、そこには一羽の大鷹。
「フレースヴェルグ、何か知っているの?」
フレースヴェルグが翼を羽ばたかせればそれは風になる。
その起こした風は世界へ広がっていく。
ユマがそんな世界の風を起こすフレースヴェルグに口を開いた。
「ユマ、こいつは何かが“森を殺した”って言っているんだ」
ひょこっとフレースヴェルグの頭から顔を覗かせたのはヴェズルフェルニルと呼ばれる小柄な鷹だった。
ヴェズルフェルニルの言葉にユマが目を見開いた。
「お前は気付かなかったかもな。…お前の仲間がお前に知らせないように、気づかせないようにしていたから。
実はここ数百年、何かの手で森の聖域を急激に荒らされている。
お前は知らなくても感じていたのではないか?…仲間の声が聞こえづらくなっている事に」
「…………………」
フレースヴェルグの言葉にユマは視線を斜め下に向けた。
無言は肯定。彼女はそれを前々から感じていた。ただそれを口にしなかっただけ。
「酷い。酷い。二階層。ミズガルズ」
「ミズガルズ…」
ユグドラジルが繋ぐ世界は上から丁度の幹の上から一階層、二階層、三階層に分かれている。
一番上の階層は神や光の妖精と言った存在が住む世界。
二階層は人間、そして黒き精霊、巨人が住む世界。三階層は凍てつく世界と死の世界。
ユマが呟いたミズカルズ。それは階層で言うと二番目。
さらに細かく言うと人間が住む世界の名前である。
「人間の世界が一番酷いの…?」