表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/65

6.眠れる少女

よろしくお願いします!

「ふわぁ~。よく寝た~」


 黒髪の少女は、自分がどんな目に遭っていたかすら知らないような呑気さで、目を覚ました。


「目が覚めた?」


 モニカが黒髪の少女に話しかける。

 少女は、未だに覚醒しきってはいないようだ。


「あ、モニカ。おはよう」


「……相変わらず呑気なものね。あなた、ゴブリンに攫われていたのよ?」


「ゴブリン? ゴブリンってあの?」


「そう。危ないところだったんだから」


「そんなことが……」


 どうやら彼女は、攫われてからのことを一切覚えていないらしい。それが、良かったのか悪かったのかはわからないが。

 あ、自己紹介でもしておくか。事情を知らないなら不思議に思うだろう。


「目が覚めたか。初めまして、俺はラインズ。よろしく」


 少女は、俺の方へ向き直った。そして、不思議そうな顔を見せる。目が覚めたら知らない奴が部屋の中にいるんだからな。当たり前か。


「ラインズ、さん? すみません。どこかでお会いしましたか?」


「いや、面識はないよ。ゴブリンの洞穴の中でモニカと出会って、それから一緒に行動しているんだ」


 自分で言っておいてあれだが、俺、完全に部外者だな。モニカはよく部屋に入れてくれたものだ。普通、街へ入って、はいさよならだろ。優しすぎか。


「ああ、なるほど。と、いうことは、あなたも私を助けて下さったのですか」


「そうだけど、そのことは別に気にしないでくれ。恩に着せるつもりはないから」


 嘘だ。恩に着せる気しかない。

 最初は優しくしておいて、あとから恩返しを取り立てていこう。


「ナズナ。気をつけて。こいつ猫被ってますよ」


 モニカが妨害を入れる。一応、俺は顔だけはいいから、うっかりナズナが警戒を解かないようにしようという魂胆だろう。


「猫被ってるだなんて、ひどいな」


「その話し方やめて下さい。吐き気がします」


「もう。モニカったら、人にそんなことを言ってはダメですよ」


「ぐぬぬ……」


 モニカは心底悔しそうにしている。ざまぁみやがれ。俺は隙を見て、モニカに渾身の煽り顔をお見舞いしてやった。コロンビアって感じのポーズ付きだ。


「それで、ラインズさんはどうしてここに? 何か要件があるのでしょう?」


「ラインズでいい。それと、敬語もいらない。歳は同じくらいだろ?」


 とりあえずフレンドリーに会話したいところだ。これで、「え、嫌です」とか言われたら泣く自信あるが。


「わかった。ラインズね」


「ああ。そうしてくれると助かる」


「……じゃあ、私もナズナって呼んで?」


「わかった。よろしく、ナズナ」


「うん。よろしく、ラインズ」


 ハイ! 第一関門突破! これで対等に話すことができる。

 日々の会話から距離を縮めていこう。

 それにしても、案外すんなりといったな。よろしくされたくないとか言われなくて良かった。


「それで、ナズナに用事があったんだ」


「何? 助けてもらった恩もあるし出来ることならなんでも……」


 ナズナが言いきらないうちに、モニカが制止する。


「ダメよナズナ! その男に騙されてはいけないわ!」


「またモニカはそんなこと……」


「ん? 今なんでもって言ったか?」


「ほら見なさい! こんなに邪悪な表情を見たことある!?」


「確かに、ちょっと気持ち悪……」


 クソ! 今何でも言うことを聞かせるチャンスだったろ! 完全にモニカに邪魔された。


「さっきからうるさいぞモニカ! 俺は今ナズナと話してんだ! 部外者は首突っ込んでくんじゃねぇ!」


「あ! 本性を現しましたね! 大体、あなたは何ナズナを口説こうとしているんですか! 気持ち悪さに磨きがかかってますよ!」


「お前も失礼さが磨かれすぎだろ! まるですり減ったお前の胸部みてぇだ! 断崖絶壁女ァ!」


「何を言いますか! これは別に通常サイズです! ナズナやら一部の人が膨張しすぎなんですよ! これくらいが謙虚でいいんです!」


「通常サイズ!? 笑わせんな! お前を見たとき最初男かと思ったわ!」


「な! それはさすがに嘘ですよね!? よね!?」


「あのー」


 ハッ。と我に返る。それはモニカも同じなようだった。


「ラインズ。さっきとずいぶん話し方が違うね……?」


 ……終わった。これでは仲良くなるどころか話す機会すらなくなりそうだ。


「で、俺の要件だけど……」


「当然のように始めようとしてる!? いままでのことをなかったことにした!?」


「何を言っているんだ。本題に入ろう」


 ナズナは驚愕しているようだ。よし、これなら幻覚だったで通せるか……?


「さすがに無理です。諦めてください」


「いや、諦めねぇ。これだけは諦められねぇ」


「なんでそこまで粘るんですか? 見苦しいですよ」


 モニカ、いや断崖絶壁女は冷ややかな目で俺を見る。

 しかし、ナズナは穏やかな笑みを浮かべて言った。


「一応、要件だけ聞こうかな」


 なんだと? なんて優しいんだ。そこの崖とは大違いだ。


「じゃあ……」


「どうぞ」


「俺も一緒にこの部屋に泊まらせてくださ」


「それはダメ」


「…………」


 なぜだ。今のは成功するパターンだと思ったんだが。


「でも……」


「でも?」


「クラウスさんに聞けば、部屋くらいは貸してくれるかも」


「クラウスさん?」


 誰だそれ。新ヒロインか?


「この宿屋のオーナーです。いくつか部屋は空いているはずなので、そこを貸していただけるのでは? ということです」


「なるほど」


 まだ、希望は残っているんだな。


「よし、さっそく行くぞ!」


「え? いきなりですか?」


 俺はモニカに返事もせずに、宿屋の主人のもとへ歩き出した。


◇◆◇◆◇◆◇


 クラウスさんという人は、口ひげを携えた、人のよさそうな人物だった。

 俺は、モニカを通して経緯を説明した。それはもう、事細かに、俺に都合の良く。

 反して、クラウスさんの返事はあっさりしたものだった。


「あ、部屋を借りたい? いいよ」


「マジすか」


「うん。料金とかはどうする? 君も住み込みで働くかい?」


 考えてみれば、当たり前だ。料金さえ払えば客だもんな。いきなり働くかと言われたのには驚いたが。


「いや、俺は、冒険者になろうと思っているので。その稼ぎで払います」


「そうか。じゃあ、今日の分。十ゼニ―になります」


 俺は風呂敷から一枚の銅貨を取り出し、渡した。そういえばこの風呂敷もモニカの物だったか。……あれ、案外こいつも優しくね?

 なんだかんだで助けてくれている気がする。


「ラインズ。あなた、冒険者になるんですか?」


 流れるように宿泊の手続きが終わり、部屋に戻ろうかという時、モニカが俺に話しかけてきた。


「ああ。お約束だからな」


「何の約束を誰としたのかは知りませんが、パーティなどのあてはあるんですか? さすがに、一人でやるのは難しい仕事ですが」


「おう。もちろんだ」


「何か嫌な予感がしますね。ちなみにそのお仲間は?」


 何を言っている。この街の俺の知り合いなど、限られているのに。


「お前ら」


「嫌です!」


 まあ予想は出来ていた。そりゃあそうなる。

 さて、とりあえずなんとか説得することからだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ