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64.木造だ

よろしくお願いします!

「やっぱり生き血とかじゃないのか? 一周回って」


「どう回ってもその結論はおかしいからね!」


「じゃあ何が正解なんだよ!」


 未だに慣れない小洒落た商店街の道路脇。

 ちょうど良い高さの塀に腰かけながら、俺は頭を抱えた。


 最初の店を出てから数十分。俺とナズナは煮詰まっていた。


 結構、時間をかけたつもりだが、モニカの喜びそうなものなんて見当がつかない。

 そもそも、俺とナズナで贈り物を選ぶ基準が違うのだ。意見のまとまりようがあるはずもない。


 ナズナが選んだ品は必要性を感じられないようなものが多く、確かにデザイン性には優れているようだが、いまいち欲しいと思えない。

 対して、俺が選んだ品は、ナズナ曰く「可愛くない」ものばかりらしい。

 様々な店を回ったがピンと来るものは無く、残すは冒険者用品を取り扱う店のみになってしまった。


 わざわざこんな商店街に来る意味はあったのだろうかと、今更ながら後悔している。


 しばらくすると、目的の店が見えてきた。


 木造だ。


 そんな感想しか出てこないほど洒落っ気のない武骨な店構え。

 商売なんてやったことのない俺でさえ、間違っているとすぐに気づける店舗と立地のミスマッチ感。


 ここの店主は、なかなか攻めた性格をしているのかもしれない。


「見ろ、ナズナ。『妖精の止まり木亭』から徒歩三十秒の雑貨屋と何が違うんだ?」


 俺は嘲笑しつつ言った。


「ラインズ! お店の前でそんなこと言っちゃだめだよ! 反省!」


 確かに、失礼だったかもしれない。

 いくらド素人未満の手腕だったとしても、別に悪いことじゃない。

 生暖かい目で見守ってやろう。


 別に反省はしないが。


 しかし、店内の様子を伺ってみると、意外にも品揃えは悪くなさそうだった。


 さっき比較した徒歩三十秒の雑貨屋は、御年八十四歳の婆さんが店主であるせいか、若干流行に乗り遅れていたり、細かいところに手が届いてなかったりと、実は色々と問題を抱えている。


 だが、ここはそういった問題が一切無いようで、品物は綺麗に整理整頓され、品切れ中の物品も無かった。

 奥には店主と思わしきムキムキマッチョ強面隻眼マンが睨みを効かせており、万引き等のトラブルが起こることもなさそうだ。


 さっきの言葉、聞かれてないよな?

 チビリそう。


「いらっしゃい」


「ごめんなさい」


 強面筋肉ダルマが口を開いた。

 俺も瞬時に返事をした。残念ながら言うべき言葉を間違えたようだが。


 人間、やましいことがあると気が弱くなってしまうんだな。

 筋肉ダルマはキョトンとしている。そりゃそうだ。


「じゃあ、探そっか」


 震え上がる俺を促し、ナズナはさっさと歩いて行ってしまう。

 強面筋肉など気にもしていないようだ。


 一人で自由に歩き回るナズナを横目に、俺も店内を見回した。


 いくらしっかりしてようと、結局は冒険用品店。

 贈り物にできそうな物など限られている。


 当然ながら、ポーションや解毒剤など、明らかな消費アイテムは論外。

 登山用ストックや防塵マスクなど使う予定のないものもNGだ。


 そう考えると、選択肢など無いに等しい。

 俺は自然と、冒険者などがよく使うポーチ、リュックサック、風呂敷の棚に足を運んでいた。


 陳列棚には、悩める程度には多種多様なポーチが揃っていた。

鞄屋でもないのに大したものだ。

 モニカは、普段からポーチを使用しているので、できるだけ似たような使い心地のものが良いだろう。


 戦闘中でも間違いなくアイテムを使用することができ、中でポーション等が割れることもないような作りが望ましい。

 モンスターの攻撃にある程度耐えきれるような丈夫さも欲しい。


「あ! ラインズが今持ってるヤツ!」


 そんなことをあれこれと悩んでいると、突然元気そうな声が聞こえる。

 店内だというのに絶対に声量を落とさない、アホ全開の一言である。

 まあ、客は俺たち以外にいないが。


「どうした?」


「珍しいね! ラインズにしてはセンス良いよ!」


「珍しかないだろ。俺はいつでもハイセンスだ」


 そう言いつつ、俺は手元のウエストポーチを見やる。


 鳶色っぽい落ち着いた色合いの、手触りが柔らかいポーチだ。

 革製っぽいが、何の革なのかは分からない。モンスター革だろうか。柔らかい割に頑丈そうなので、正解っぽいが。


 とりあえず、見た目重視のナズナも納得するならば、モニカも喜ぶのではないだろうか。


「そいつは、ハウルオルグの毛皮だ。新入りにはちと高いが、中堅冒険者から上級冒険者まで納得する、一級の品だよ」


「ヒエっ……」


 いつの間にか俺の背後まで回り込んでいた筋肉が、ご丁寧に解説しつつ、肩に手を回してきた。

 いや、ハウルオルグとか知らねぇよ。聞いたこともない。


 というか、この人力強すぎだろ。

 完璧に、がっちりとホールドされてしまっている。

 次の瞬間店主が俺の頸椎をへし折ろうとしないかだけが心配だ。

 

「ウチまで来て冒険の準備なんて、目が高ぇな、オイ。特別だ、今日は安くしといてやるよ」


 ダルマは上機嫌に語る。

 揺らすな。首もげそうだわ。


 俺は痛みに耐えながら苦笑いを浮かべる。


「よよよよ、喜んで買わせていただきます」


「おう! 今後ともご贔屓にな!」


 店主は快活に笑って、ようやく俺を解放した。

 ……当初の目的は達成できたが、ひどく疲れた。

 二度と行くかあんな店。


「いい買い物ができたね!」


 帰り道、ナズナはそう言って笑った。


「モニカ、これ渡されてもキレないか?」


「大丈夫だよ! って、まだそんな心配してたの!?」


 そりゃあ、何度か命まで狙われていますから。


 これをきっかけに、モニカの態度が軟化してくれることを願おう。



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