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63.賄賂選び

よろしくお願いします!

 『墳墓迷宮』探索から数日。

 その間、俺たちは冒険などには行かず、平穏な日常を過ごしていた。


 この世界だろうが友達はいないため、俺には特に予定は無く、非常に暇な日常だった。

 だが、今日に関してはその限りではない。


「よし、行こうか。お姫様?」


 俺は彼女の手を引いて、エスコートの態勢をとる。

 今日の俺はジェントルマン。準備は万端だ。


 紳士ラインズの言葉に、思わず彼女は赤面し、


「え、きもい」


 信じられないものを見るような目で拒絶した。

 赤面と言うより、青ざめている。


 まあ、でしょうね。

 女性、いや、知り合いと買い物に出かけるなんて初めてだったからか、舞い上がってしまった。

 相手はナズナだぞ。何を気取っているんだよ、俺。


「それで、今日は何をするんだ?」


「もうっ! モニカのための贈り物を選ぶって、言い出したのはラインズでしょ!」


「そうだったか?」


 なんとなく、言い出したのはナズナからだったような気がするが。


「とりあえず、今日は色々なお店を見て回るんだよ!」


 ナズナがやけに張り切った様子で、俺の手を引く。

 さっきは拒絶したくせに、気分屋な奴だ。


 俺たちは、普段、冒険者ギルドに向かう道を少し逸れ、様々な店が立ち並ぶ商店街へ向かった。


 トータスは、冒険者の始まりの街として有名だ。

 近くに手ごろな狩場があったり、中堅冒険者にも嬉しい立地であったりと、冒険者稼業にこれ以上なく適していると言えるだろう。


 そして、冒険者が集まるということは、需要も集中するということ。

 彼らをターゲットにした商人たちが街に集まり、その家族が集まり、さらに商人たちを狙った商売を始める商人も多数現れる……といった塩梅で、この街は形成されていった。


 そのためこの商店街には、冒険者以外の人々に向けた店が多く並んでいる。

 売り物も、武器や防具なんてものではなく、デザイン重視の家具や、貴重な高級食材なんかが取り扱われている。

 ナズナやモニカなどはともかく、俺には全く縁のない場所だ。洒落っ気がすごい。


「モニカが好きそうな賄賂。何だろうな」


 俺は、隣のナズナに話しかける。

 ここは、ちょっと俺には刺激が強すぎる。

 誰かと話でもしていないと、溢れ出るリア充オーラに飲み込まれてしまいそうだ。


 まさか、異世界に来てまで非リアを思い知らされるとはな。


「賄賂って……」


「だってそうだろうが。モニカが最近、いよいよ俺の命を狙ってきてるんで、それを回避するためのご機嫌取りだ。これを賄賂と言わずなんと言う」


 贈り物だと、親愛的なニュアンスが含まれてしまう。

 故に、俺は賄賂と言い張ってやる。


「とりあえず、今日は色々な店を回るんだよ! 贈り物! のためにね!」


 ナズナはやけに贈り物を強調して言い放つ。


「さっきも聞いたな、それ」


「二回も言わせないでよ! ……じゃあ、雑貨屋さんから見て回るよ」


「はいよ」


 気の抜けた返事をしながら、先行するナズナについていく。

 目の前の雑貨屋は、ランタンの暖かい灯に照らされたなんとも幻想的な店構えで、溢れ出るオシャレオーラに眩暈がしそうだ。

 ナズナに手を引かれていなければ、入ることすらままならなかっただろう。


 店内には、女子が部屋に飾っていたらポイント高そうな、アロマキャンドルや香水というようなアイテムが陳列されていた。

 ざっと見た感じ、「機能性に欠いている」そんな感想が浮かんでしまった。

 これは、俺の感覚がおかしいからなのだろうか。


「例えば、これとか可愛くない?」


 ナズナは振り返って、手に持ったブツを提示する。

 それは、一見、銀製にも見えるスプーンだった。

 ハートの意匠が拵えてあって、どうやら、食事の際、食べ物に甘みを加える魔法がかかっているらしい。


「それ、貰って嬉しいか? 賄賂って感じじゃないぞ」


「賄賂って感じがする物なんて、それこそお金しかないよ!」


 俺の言葉に、ナズナは強く反発した。

 まあ、賄賂についてはそこまで掘り下げなくてもいいんだけど。


「想像してみろ。これ、プレゼント。とか言ってスプーンを渡される姿を」


 家族とかならまだしも、知り合いに送るのは微妙なんじゃないか?

 贈り物を送ったことも送られたことも無い奴が言うのもアレなんだけど。


「うーん……? 甘いものがたくさん食べられて、うれしい!」


「はい、不正解。それは限られた舌バカにしか出ない感想だ。モニカなら、睡眠薬でも塗ったんですか? が正解だな」


 運が悪ければ、スプーンはその場で突き返され、数日間警戒され、無視され続ける。

 なんてことになるかもしれない。


「ええ……贈り物にそんなこと言う?」


「言うな。相手が俺なら」


 なぜなら俺は、普通にモニカに嫌われているからだ。

 多分、隠れた好意とか、信頼とかは一切存在していないだろう。


 原因は主に俺の言動だろうから、自業自得だが。


「……それ、何を送っても無駄なんじゃない?」


 基本ポジティブシンキングのナズナも、これには困惑顔だ。

 早々に諦めようとしている。


「でも、何かしないと戦闘中に命を狙われる」


 これは紛れもない事実。

 ナズナと少しでも接触すると、保護者は黙っちゃいないのだ。


 そう考えると、事実上、ナズナとのデートのようにもなっているこの状況は、モニカの怒りを買ってしまう可能性があるんだな。


「はぁ……まだ一軒だけだし、他のお店も見てみようか」


 溜め息を一つ吐いて、ナズナは笑った。

 呆れたような、微妙な笑顔である。


「ありがてぇ……」


 一人で雑貨屋にも寄れない非リア野郎は、ただ感謝の言葉を述べるしかなかった。


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