61.帰還
よろしくお願いします!
地響きのような轟音を聞きながら、エイゼン騎士団団長、ウォート・フライデンは、沸々と湧き上がる感情を必死に抑え込んでいた。
焦燥と、怒り。
二つの感情が宿った瞳は、仰々しいレリーフの彫られた石門を睨みつけていた。
現在、彼の頭の中にあるのは、如何に自分たちの先を越した愚か者たちを抹殺するか。ということのみだ。
「油断していた……」
彼の呟きに、部下の騎士たちがピクリと反応する。
それも無理はない。彼が八つ当たりでもすれば、自分たちなんて一瞬で滅ぼされてしまうだろう。
彼らとて、上司の八つ当たりで無為に死ぬことは避けたかった。
「ただの冒険者のはずだ。人数だって少ない」
本来なら、多勢であるウォートたちを追い抜かすどころか、追いつくことだってできるはずが無いのだ。
おまけに、冒険者の面子を見ても、規格外の強者がいるとは思えなかった。
認識阻害系の魔術か何かの影響か、詳細のわからないゴーレムがいたが、たかがゴーレム一体で何が変わるとも思えない。
だから、冒険者を引き離した時点で、目の前のモンスターたちに集中することにした。
結果として、ウォートはみすみす血竜の魔核を入手できる機会を逃した。
可能性は低いだろうが、これで魔核自体が砕かれていたら目も当てられない。
「まあいい。不都合があれば、始末するだけだ」
ダンジョンボスを倒した際、ダンジョンボスの部屋は、古代の魔術によってダンジョンの外へと接続される。
この場で冒険者たちを捕まえることは難しい。
だが、そう悲観することもない。というのが彼の考えだ。
この辺り一帯において、彼らの権力が行き届かない所は無い。
あんな木端冒険者程度、すぐに見つけ出して殺害できるだろう。
彼は徐々に平静を取り戻し、今後の算段を整えていった。
◇◆◇◆◇◆◇
クルトたちがドラゴンゾンビのドロップアイテムを回収した後、俺たちはすぐにダンジョンの外へ出た。
黄金色の魔法陣でリレミトしたりと、テンションの上がるイベントもあったのだが、クルトやエレノラが急かすせいで、ファンタジーを堪能することもできなかった。
まあ、時間をかけて何があるわけでもないが。
そうして俺たちがたどり着いたのは、『墳墓迷宮』の地上。
薄い霧が辺りを包む、穏やかな平原だ。
穏やかと言っても、『墳墓迷宮』の影響で、地上にもアンデットが出没する。
ダンジョン内部にいた奴らよりも遥かに弱い個体ではあるが、不気味だということで、滅多に立ち寄る人間はいない。
そこからさらに、クルトが準備しておいたらしい馬車のお迎えを利用し、俺たちはトータスの街へ向かった。
日時を指定するタクシーのようなものが、まさか異世界にもあるとは思わなかった。
環境の過酷さによってはお出迎えできない場所もあるそうだが、雑魚アンデットしか出ない平原であれば大丈夫だそうな。
そんなこんなで、馬車に揺られること数時間。
何度か休憩を挟んで、ようやく、俺たちは帰ってくることが出来た。
感覚的には一週間以上は離れていた気がするな。
一日に起こったこととは思えないほど、イベントが盛りだくさんだった。
しばらく、冒険には出かけたくない。
サキュバスがいるなら話は別だが。
町へ入るための検問を難なく通り、最初に向かったのは冒険者ギルドだ。
色々達成したことが多く、受付嬢に話すことも多いので、さっさと用事を済ませてしまおうという魂胆だった。
古ぼけた門を開け、俺たちは七人と一柱と一体という大所帯で、ぞろぞろと冒険者ギルドに入っていく。
本当に人数多すぎだよな。目立って仕方がない。
そのせいか、ギルド内の冒険者たちも、ひそひそと俺たちを話題にしているようだ。
実は、俺が笑われているだけだったりしないよな。
その手の嫌な思い出は腐るほどあるぞ。
「八人組ってやっぱり珍しいんだな」
「そりゃあ、面子を集めるのも大変だし、報酬の分配も大変だし、人数揃えなきゃいけないような危険なところにはそもそも行かない方が良いし、組む機会がほとんどないからな」
クルトは淡々と答えた。
前から思っていたが、ガウェインがいなかったら、クルトたちはどうやってあのダンジョンを攻略するつもりだったんだろうな。
まだ見せてない奥の手があったりするのだろうか。
「……でも、今のあいつらの話題は、八人組だからってわけじゃあないっぽいよ」
俺とクルトの間に、シンシアが割って入る。
薄い笑みを絶やさない彼女は、何を考えているか読み取りづらい。
「じゃあ、何の話題なのかな?」
ナズナが疑問符を頭の上に浮かべる。
「それについては、すぐにわかるんじゃない?」
そう答えたのはエレノラだ。
なんか、久しぶりにこいつのまともな発言を聞いた気がする。
俺は怪訝な目を彼女に向けた後、エレノラが指さす方を見た。
見ると、受付嬢が受付から出てきて、こちらに歩み寄って来ているところだった。
こうなると、彼女は受付嬢じゃないな。嬢だ。
なんかエロい。
「ようこそいらっしゃいました。いくつかお話しすることがありますので、奥の部屋にお進みください」
嬢は丁寧な物腰で、俺たちを案内した。
受付カウンターを通り過ぎて少し行ったところの、小さな部屋だ。
扉には、会議室と書かれたプレートが下がっている。
要件は十中八九クルトたちの金級昇格だろう。
この部屋を誰かが使っているところはあまり見たことが無いが、彼らクラスになると、受付で簡単に済ませることもできないのかもしれない。
会議室には、大きめの机と、それを囲うように配置された椅子があった。
導かれるままに、適当な椅子に着席。
嬢も、俺たちの対面に座るように着席した。
「まず、そちらの報告からお願いできますか?」
そう嬢に促され、クルトは、ダンジョン制覇の証を机の上に乗せる。
ドラゴンゾンビのドロップアイテム、骸竜の顎門だ。
「結論から言ってしまうと、『墳墓迷宮』を踏破した。これが証拠だ」
「ええ、確かに、強い魔力を帯びていますし、間違いはありませんね。……それでは、いくつか質問をさせていただきます」
何やら魔道具的な無線機みたいなものをピコピコ操作し、彼女は鑑定を終えたようだ。
そのまま、ダンジョン制覇時の詳細を尋ねてくる。
時には雑魚モンスターのドロップアイテムの提出などもあり、想像していたよりも面倒な手続きが必要そうである。
思ってたのと違う。
しかも、俺たちは特にやることが無いから、暇で暇で仕方がない。
今この場でできそうなことは、嬢の豊かな胸をガン見することくらいしかなかった。




