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59.作戦M

よろしくお願いします!

 蘇生したてホヤホヤのドラゴンゾンビは、先ほどよりも質量的に若干小さくなっている。

 使い物にならない骨は切り離したのだから当然だが、比例するように、魔力量や威圧感といった目に見えないものも薄れたようだ。

 おかげで少しは気が楽になる。


 代償として、こちらはガウェインが完全に使い物にならなくなってしまったが。


 先攻はドラゴンゾンビだった。

 大きく雄たけびを上げ、未だに俺たちを圧し潰すには十分な巨躯を以て、全速力で突進してくる。

 流石に、大々的な蘇生にエネルギーを使い過ぎてしまったのか、純粋な物理攻撃である。

 その上、その突進すら、先ほどと比べると機敏さに欠けるように思える。

 それでも、決して油断できるような相手ではないが。


「さあ、守りますよ!!」


 対するは壁役狂い。

 ケインは全く臆することなく、むしろ意気揚々と盾を構え、腰を落とし、防御の姿勢をとった。

 もう目が狂人のそれである。

 いよいよ、彼の性癖がノーマルであるか心配になりそうだ。


 最初はマトモそうに見えたのにな。

 この調子だと、他の面子も何を隠しているのか分かったものではない。


「『神火の盾(エルキスル)』!」


 ケインは、その圧倒的な質量を盾一つで受け止める。

 いくら自分の身長ほどもあるタワーシールドだからといって、その大きさはドラゴンゾンビの足元にも及ばない。文字通りだ。


 だから、そのちっぽけな盾で暴れ狂う竜の巨体を受け止める彼の姿は、一周回ってコミカルに映った。


「行くぞ、作戦M!」


 先ほどの会議で決定した、作戦M。

 ケインが最後まで攻撃を受け切ったところを見届けた後、俺はその作戦名を叫ぶ。

 そして、クルトたちも頷き、アイコンタクトを交わした。


 作戦会議の時は、俺の発案ということもあってかそこまで乗り気ではなさそうだったが、今の彼らの表情からは気合が伺える。


 暫定ドМが在籍するパーティではあるが、腐ってもプロの集団だということだ。


「さっさとしてくださいっす! 中二病野郎!!」


 ケインは限界が近づいていることを伝える。

 あの体格差だ。数秒持たせるのもキツいだろうに。


 ちなみに、唐突なクルトディスは俺直伝だ。

 やる気が出るらしい。


「何で急にキレてんだ!? まあいい、『夜鷹七剣』!」


 クルトは多少、動揺したものの、すぐに平静を取り戻した。

 再度使用可能になった切り札を切り、作戦Mを遂行する。


 現れた七つの大氷柱は、ドラゴンゾンビの肉体を貫き、それぞれが複雑に組み合うことで骸竜の動きを封殺した。

 階段のようにも見えるそれは、見た目以上の強度を誇る。

 ドラゴンゾンビは必死にもがいているが、そう簡単に氷は崩れないだろう。


 クルトの話によると、本来このアーツは七つの氷塊が弾けることでフィニッシュする、攻撃技らしい。

 『黒羽』の代名詞のようだが、今のところただの拘束用アーツなので、いつかその真髄を見せて欲しい。


「『使徒の翼』!」


 エレノラの詠唱が聞こえる。

 途端に、羽でも生えたかのような身体の軽さを覚えた。


 急に発作を起こしたことから、作戦を聞いていないのかとも思っていたが、どうやら杞憂で終わってくれたようだ。

 ちゃんと自分の役割は覚えてくれたらしい。


 本当に作戦通りなら、ナズナとシンシアにも機動力補助がなされているはず。


「よし、行くぞ! 魔術師部隊!」


「わかった!」


「はいよ!」


 威勢の良い返答。

 本作戦では、通常前線へ全く出ない魔法使いが敵に近づく必要がある。

 彼女らに接近戦の心得はほとんどないはずだ。だから、ドラゴンゾンビの動きを止める必要があった。


 俺たちは神級の補助魔法を受け、普段とは比べ物にならない速度で駆け抜けることが出来た。

 モニカやグレイでさえ、今の俺たちに追いつくこともできないだろう。


 まさに疾風の如く。

 数瞬の間にドラゴンゾンビに接近し、そのまま、石畳から大氷へ、大氷からまた次の大氷へ、俺たちは跳躍する。

 尋常でない程の軽やかさだ。

 周りには重力から解き放たれたかのようにも見えるだろう。


 『使徒の翼』が強化するのは足の速さだけではない。

 この超人的な跳躍力も、その魔法の影響である。


 ドラゴンゾンビの氷山を登り詰め、その頂きで、俺たちは一際大きく跳躍した。

 限界まで高く、跳びすぎて怖くなるくらいに。


「大詰めだ、作戦M(メテオ)!」


 最高到達点にて、俺とナズナ、シンシアは一斉に魔法を行使する。

 威力重視の、極めて鈍重な魔法だ。


 俺たち七人と一柱と一体には、あるものが欠けていた。

 正確には、ガウェイン一体を除いて、だが。


 それは、攻撃力。または火力、DPS。

 パーティーメンバー全員が、正面戦闘を嫌い、小細工を良しとする陰キャであったことが原因だろうか。

 良くも悪くも、脳筋がいないことが問題だった。


 その問題はことこのドラゴンゾンビ戦においては致命的であり、攻撃が効きにくい相手に長期戦を強いられ、ジリジリと追い詰められていくことは目に見える。


 だから、多少の無茶を通して、短期決戦を狙いに行ったのだ。


 俺の十八番。

 パワーが足りないなら、質量と速度を付ければいいじゃない。戦法だ。


「『巨神兵の大戦斧ウォーロード・ブレイブ』!」


 ナズナが空中で唱えた魔法は、天井の石を捲りながら顕現した。

 まさに、大戦斧。

 超特大サイズの大斧は、俺たちより遥かに大きなドラゴンゾンビをも上回る程の長大さである。ナイス質量だ。


 落下しているせいで、あられもなくスカートが捲られているのもポイント高い。

 今日はフリルのついた可愛らしいもの。

 しかも、恐怖によってか凛々しい表情の中に怯えが見受けられる。

 相乗効果でさらに良い。

 ごちそうさま。


「『紅蓮磊落』」


 対照的にシンシアは、落ち着いていた。

 この程度の高所など、恐怖の内にも入らないとでも言うのか、淡々と魔術を行使していた。


 彼女もナズナ同様、ロングスカートを履いているのだが、捲れにくい構造にでもなっているのか、体に ぴっちりと張り付いて、夢の欠片さえ見させてくれない。

 このスカートを開発したのが野郎なのであれば、見つけ次第吊るすとしよう。


 シンシアは、自らの頭上に、熱でも帯びたかのように蒸気を吹き出す、深紅の魔法陣を構成した。

 ドラゴンゾンビを丁度覆ってしまうほどの規模のそれは、円の中から、赤熱した溶岩を吐き出す。

 もちろんそれは一つではなく、人間なんて容易に圧し潰せるほどの溶岩が、次々と流星のように降り注ぐ。


「行くぞ、オラァ!!」


 俺も、二人に倣って魔法を発動した。


 俺には、魔術の才能がない。

 たまにナズナに、羞恥で唇を噛みしめながら教えを乞うことがあるが、それでも才能の片鱗を感じることすらできなかった。

 異世界人の俺が魔法を使うには、相当の努力が必要だろうとはエレノラの談だ。


 だから、馬鹿の一つ覚えだ。


 俺は、ありったけの魔力を込め、青の魔法陣を生成した。

 事前に腹がたぷたぷ音を立てるまでポーションをがぶ飲みし、それでも魔力が足りないため、緊急用にポーチに忍ばせておいた魔石を割った。


 そしてようやく得られた、ドラゴンゾンビほどの大きさの魔法陣から、この場で最も召喚しやすい物質、石を、ありったけ吐き出した。


 その量は膨大だった。

 ざっと見ただけで、数軒の家が建てられそう。下手したら、ビルとか建てられちゃうかもしれない。それほどの、石、石、石。

 大きいものから小さいもの、尖ったものから丸いものまで、バリエーションに富んだ石たちが、雪崩のように、地上のドラゴンゾンビへ大挙する。


 大斧と紅蓮と雪崩。


 俺、ナズナ、シンシアの暴力的な魔法の行使に、足止め役のケインやクルトも心底驚いた顔をしていた。

 察するに、「ちょ、これ、俺たちも巻き込まれるんじゃねぇか!?」といった所だろう。

多分、正解だ。


 だが、ドラゴンゾンビもただ見ているつもりはないようだった。


 残り僅かであるはずの魔力を振り絞り、口腔から、再度ブレスを放つ準備をしている。

 もし、それが放たれれば、ドラゴンゾンビに致命傷を与えられないどころか、俺たち三人の内、誰かがそのブレスをまともに喰らってしまう可能性もある。

 そうなれば、五体満足では帰れないだろう。

 骨も残るか怪しい。


「GYAAAAAAA!!」


 死地にいる者のみが見せる、魂の咆哮。

 身が震える、そのままの意味で死に体だというのに、それは確かに、竜の威厳が感じられた。


 ぶっちゃけ、俺たちが打てる手段は無い。

 後は見守るだけだ。


 俺は、骸竜の口腔に収束されるどす黒いエネルギーを睨みつけながら、空を落ちていった。


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