57.発作
よろしくお願いします!
「「ガウェイン!!」」
意図せず、エレノラと声が被ってしまった。
これじゃあ仲良しみたいに思われるじゃねぇか、心外極まりない。
とか、なんとか考えている内に、それは訪れた。
極大の斬撃。可視化された太刀筋は、寸分の狂いなく骸竜の素っ首に吸い込まれていく。
衝撃によって弾け飛んだ大氷の欠片が、鋼鉄の騎士と骸の竜を美しく飾った。
これ、このまま首を落として戦闘終了したらゲームオーバーだぞ。
グレウスの話によると、倒した時に胸の剣が残っていた場合、この竜は今の姿のまま復活してしまうらしいからな。
呼んだ手前悪いが、ガウェインさんにはその辺りの配慮をお願いしたいところだ。
ところが、その心配は杞憂に終わった。
超人級の、既に神域に立ち入った斬撃だ。まともに喰らえばタダで済むものではない。
だが、ドラゴンゾンビは大きな傷跡を残したものの、致命傷というほどではないらしく、血気盛んにガウェインを睨みつける。
血は通ってないはずだが。
「魔力で障壁を張って、体を再生させたみたいだね。どっちも一級のモンスターが持つ能力だよ。……とは言え、そう連発はできないはずだけど」
エレノラが丁寧に解説する。
あいつ、ボスらしく面倒な能力持ってるじゃねぇか。
クルトたちは最初、どう攻略するつもりだったんだ。
「だが、残念だったな、クソゾンビ! 今のガウェインの攻撃はニュートラルA! スマッシュ技はこれからだ!」
「何を訳分からないこと喚き散らしてるんですか! 私たちも行きますよ!」
調子に乗った俺を、モニカが小突く。
確かに、巻き添えのリスクはあるが、ドラゴンゾンビがガウェインに釘付けになっている現状、ノーマークの俺たちが特攻するメリットも大きいだろう。
ただ、まともに攻撃が通らねぇからな。
「まあ待て、モニカ。有効打が無いまま攻撃するのも微妙だろ。一旦、作戦会議と洒落込もう」
「洒落込むの意味わかってます? ……ですが、言っていることには一理ありますね。エレノラ! 『念話』を!」
モニカの頼みに、エレノラは威勢よく答える。
「はい! 八人連結、完了!」
「それじゃ、第一回、有効打をどう作り出すのか会議! 始めるぞ!」
「別に、声は出さなくてもいいと思うけど」
「開始早々、茶々を入れるなエレノラ。今までと違って、今回ばかりは真剣勝負だ」
[今までは真剣じゃなかったんだね……]
ナズナの呆れたような苦笑いが聞こえた。
[……俺がもう一度アーツを使うには、まだ時間が必要だ。待ってはいられないな]
この声はクルトか。
八人も同時に通話していると、声で判別するのにも限界がありそうだな。
「また、ガウェインの『逆天の機神』で一発じゃないの?」
これはシンシアか。
当然の疑問だな。
「確かに、この天才である私が作ったゴーレムだからね。本来ならそんなこともできそうだけど……残念、今回は無理だね。相手の耐久力が高すぎる」
こういったアンデット系のモンスターは、魔力やら耐久力やらが高いのが常だが、例に漏れず、あのドラゴンゾンビもそれらの能力が高いらしい。
流石のガウェインといえども、ワンパンは難しいとのことだった。
「あ、一つだけ可能性が」
「なんだ?」
「ダンジョンごと吹き飛ば」
「そうだ、良いことを思いついた」
俺はエレノラの言葉をぴしゃりと遮り、聞かなかったことにする。
ケインの、ナイスっす! という小声が聞こえた。
「で、その良いことって何っすか?」
そのまま彼は、エレノラに話を戻す機会を与えないよう、俺に質問する。
「まあ聞いてろ、とっておきの秘策だ」
俺はニヤリとほくそ笑む。
揚げ足を取るように、モニカが言った。
「今思いついた秘策ですよね?」
まあ、そうですけど……。
◇◆◇◆◇◆◇
作戦の説明も終盤。
突然のことだった。
「あああああ、もう! 行けぇ、ガウェイン! 『逆天の機神』ァ!!」
なりふり構わず、破壊神が吼える。
どうやら、自分を差し置いての長い説明が退屈だったようだ。
「オオォォォォイ! やべぇこの女神!? 遂にイカれやがった!?」
最悪なタイミングで、このクソ女神の発作が起こってしまった。
それ即ち、とにかくスケールの大きい技を放ちたい病。
そして、雫が落下するように、その後、弾けるように。
当然の如く彼女の命令式に呼応し、騎士は、極限の光を帯び始める。
「おい! どうするんだよエレノラァ! これ、俺たちも無事で済まないんじゃねぇか!?」
「ひゃはははは!! ぶちかませぇ!! ガウェイン!」
駄目だ。もうこれは。
到底、女の子がしてはいけない顔をしてやがる。
「クソ! とりあえず、ガウェインの近くから退避だ!」
「……ッ!」
こんな時でも、背後から、クルトの冷静な指示が聞こえた。
あのグレイでさえも焦る緊急事態だというのに。
向こうのメンバーは大丈夫そうだ。
俺はと言えば、退避する気が無かったエレノラを担ぎ、必死に逃走中である。
元より、ある程度距離が離れていたことが幸いし、すぐに限界の壁際まで離れることが出来た。
当のガウェインを見ると、彼は、天高く飛び上がっているところだった。
そう、比喩や幻覚など、そんなもの一切抜きで彼は、飛翔していた。
背中に生えた光の白翼は、物語に出てくる天使の姿そのもので、おまけに光輪と純白のカラーリングまで施され、いよいよ神の使いにしか見えない。
何が発光しているのかは分からないが、辺りを眩い光が包み、その騎士は、スポットライトでも浴びているかのように、周囲と隔絶した空間にいた。
ガウェインに元々内蔵されていたとんでもない量の魔力が、さらに膨張するのを感じる。
こんなこと、今まで一度だってなかった。
……仲間の技で、死にたくはないんだが?
俺は、そう願いながら見ていることしか出来なかった。




