56.不発
遅れて申し訳ありません。
よろしくお願いします!
地に落ちた骸竜に真っ先に飛び掛かったのは、細身の高速剣士、グレイだ。
無口なため、若干空気が薄く感じられる彼女だが、今回はそれがプラスに働いたようだ。
近くにいる俺たちでさえ見失うような、気配を殺し、最高速で近づく一流の技術。
そこから放たれる着地狩りは、到底避けきれるものではないだろう。
ドラゴンゾンビは、ガウェインに気を取られていたためか、数瞬で目と鼻の先にまで接近してきたグレイに反応することすらできない。
彼女の放った刃は寸分違わず骸竜の胴体、おっさんの額に直撃し、黒ずんだ液体を噴出させた。
ダイナミックに飛び散る血。
それに塗れても、感情を表に出さない彼女に、俺は戦慄せざるを得ない。
メンタルどうなってんだ。
「グレイ! 良い先制だ!」
クルトが流れを作り出したグレイを称賛する。
そして、彼は斬撃を放つモーションに入った。
「『夜鷹七剣』」
そんな言葉が、聞こえたような気がした。
辺り一帯に、冷気が漂い始める。
明らかにクルトの技能であろうその寒波は、しかし俺たちまでも巻き込んで、大気を氷点下にまで沈めていく。
寒さに、吐く息が白く凍った。
空気が薄くでもなったのか、少し息苦しい。
突然に訪れた極寒の世界で、クルトは、目を見開き、渾身の踏み込みを以て、その剣を振り抜いた。
当然ながら、彼と骸竜の距離は遠く、まともに剣が命中する間合いではない。
しかも見たところ、『羽搏』に似たアーツではあるが、振り抜かれた剣の先から鳥が飛翔する様子もない。
……数秒経っても、何も起きない。
まさか、やっちまったのかこいつ。
「おいおい、『黒羽』。不発かよ? 多少寒いだけじゃボスモンスターは倒せないだろ」
「色々言いたいことはあるが、まず、その腹立つ呼び方やめろ」
「GYAAAAAAA!」
ドラゴンゾンビは、煩わし気に咆哮を放つ。
その衝撃だけで、多少の冷気なんぞ吹き飛んでしまいそうだ。
「ほらな? ドラゴンゾンビさんもピンピンしてるぞ。どうすんだよ、『黒羽』」
「黙れ、ぶっとばすぞ」
「え? 溜めに溜めた必殺技を不発させる奴に、誰がぶっとばせるんですか!?」
そう俺が顔を歪ませている内にも骸竜は、俺とクルトに向かって突進を敢行する。
その圧迫感たるや、マジで寒さなんて気にもしていないようだ。
だって、骨だもんな。皮膚が無いもん。
ついでに言うと、冷気は未だに衰えていなかった。
これじゃあ本当に仲間に寒さを感じさせているだけである。
ちょっと男子ぃー、しっかりしてよー。
そんな俺の思考を黙らせるかのように、霜が砕ける音が、辺りに響く。
その一瞬の静寂の中に、ボキリと、骨の破砕音が聞こえた。
音の発生源に目を見やると、巨大な骨の竜の体躯を、一本の氷が貫いていた。
そして次の瞬間には、新たに生成された長大な氷が、再度、竜の体を貫く。
三つ目、四つ目と続いた計七つの氷剣は、惨たらしいほどに骸竜の体を貫通し、その自由を奪い去った。
「マジかよ」
普通に舐めていた。
クルトってそんなに大したことないのではと思っていた自分がいた。
何なら、俺でも隙を突けば勝てるのではないかと。
これこそが、『黒羽』の真骨頂というわけか。
「ラインズ。何か俺に言うことは?」
クルトが珍しく、助走をつけて殴りたい面で、俺に笑みを見せた。
生憎、褒めてやる気は無い。
「うるせぇばーか! お前の母ちゃん『黒羽』!」
「どんだけ不貞腐れてんだよ! ガキか!」
「ガキだろうが! 俺をよく見ろ!」
今の肉体は中学生程度。
いくら異世界でも、この体は子供と言える。
「確かに、とても十歳を超えているとは思えない言動だな」
「それはちょっとニュアンス違うな!?」
流石に精神はそこまで子供ではないぞ。
……多分な。
「まあいい! お前に付き合っちゃいられねぇ! 折角のチャンスだ。一方的にタコ殴りにしねぇと!」
俺は吐き捨て、串刺されまくっているドラゴンゾンビに向き直った
やっぱり、額から、どす黒い液体を垂れ流し続けているおっさんの顔は、見るに堪えないものがある。
なんか凍り始めてるし、余計に死体感が強まっている。
「お前らも行くぞ! 別におっさんの顔面は核じゃねぇんだ。刺さってる剣をぶっ壊さねぇといけねぇんだぞ!」
俺は散らばっている前衛組に声をかける。
おっさんの顔をいくらイジメたところで、特に意味は無いのだ。
「召喚! ハンマー!」
俺の頭上に、青の魔法陣が二つ現れる。
そこから、身長ほどの大きさ鉄槌が二つ、顕現した。
「エレノラァ! エンチャント!」
「はいよ! 『連鎖』!」
ここで決められるなら、ありがたい限り。
だから、全力の一撃を乗せる。
竜の眼前で、俺は、自分が潰れそうなほどに重たいハンマーを掲げる。
元より、まともに振るう気はない。
こんなデカブツ、フルスイングなんてしたら腕がどこかに飛んでいく。
だから、圧倒的な質量に、身を任せる。
二本の鉄槌は、莫大なエネルギーを殺傷力に変換し、骸竜の胸部を骨ごと抉り飛ばす。
続けて、『連鎖』によって生み出された衝撃波が、周りの骨を吹き飛ばしていく。
石造の床に、砕けた骨が散らばった。
「……ここまでやっても、あんま効いてなさそうだな!」
俺にとっての巨大も、彼にとっては矮小でしかない。
そもそもの肉体の大きさから違うのだ。
一筋縄ではいかないな。
「『飛針』、『閃花』!」
隣のモニカも、格ゲーよろしく連続攻撃を繋げまくるが、やはり攻撃範囲が狭すぎる。
モニカと似た戦闘スタイルのグレイや、大技を使ったばかりのクルトやケインも、残念ながら概ね同じ成果のようだ。
「ちょっと、何やってんのラインズ!」
「うるせぇエレノラァ! お前、サポートしかしてねぇのに実働隊に文句言うんじゃねぇ!」
「むぅ……しょうがない……」
エレノラが口を尖らせ、不満を露わにする。
「ここが切り時だ!」
俺は激励するように、エレノラと同時に、その名を呼んだ。
「「ガウェイン!!」」
一際大きな駆動音と極光が、辺りを包み込んだ。




