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55.モヤモヤ気分霧払いして

よろしくお願いします!

 巨大な竜の影が、俺の背後から飛び出た騎士の影と、激突する。

 濃霧も相まって、高速で移動する騎士の姿を俺たちは捉えられない。


 ただ、骨の破砕音と大気の振動が響き渡るたびに、彼が戦っていることを理解するのだ。


「ラインズ! ケイン! 大丈夫か!」


 後方から、クルトの声が聞こえる。

 同時に、彼らは霧の中から現れた。


「ああ、無事だよ。ケインはあっちにいる」


 何やら不穏な、守護欲のようなもの発揮していた彼は、すごすごと俺たちの方へ戻ってきている途中だった。

 既に戦いは空中戦へと移行して、彼の欲は満たせなくなったということだ。

 手が出せるのは魔法使いくらいだろう。


「それにしても、この霧、どうにかなりませんかね。これでは戦うことすらままなりませんよ」


 モニカは少しばかり苛立ったように言った。


「ホントだよ! せっかく私の出番かと思ったのに、全然当たらない!」


 モニカの言葉に、少し離れた位置からナズナが反応する。

 なかなか上手くいっていない様子だ。


 現在、ナズナ、シンシアの攻撃魔法部隊は、ガウェインに当たろうが知ったことじゃねぇ! と言わんばかりの魔法の乱れ撃ちを行っている。

 流石に、ドラゴンゾンビに効果が高く、ガウェインに効果が薄い魔法を使っているようだが、ハナから当てないつもりはないようだ。


「うるせぇ。よそ見すんな」


「ひどいよラインズ! 私、頑張ってるのに!」


「そんなこと言っても、魔法の軌道を見るに、さっきから竜に当たってる魔法、全部シンシアのだぞ。お前はガウェインに当ててるだけ」


「えぇ!? 嘘だよ!」


「嘘なら良かったんだけどな」


 残念ながら、ナズナの魔法は全て牽制にしかなっていない。

 だが、彼女が悪いという話でもなく、狙い撃ちできているシンシアが凄腕すぎるというだけだ。

 そもそも、ナズナは威力重視の中距離向き魔法使いだ。

 比べるのは酷な気がしないでもない。


「くぅ! 頑張る!」


「おう、頑張れ」


 一応、心のこもっていない声援を送っておく。


「なら、この霧を払うような魔法は使えるか?」


 そう問うたのはクルトだ。

 この戦力を余らせている状態をすぐにでも解消したいのだろう。

 真面目だ。


「わかった! 試してみる!」


 ナズナはそう元気よく返事をして、魔法の詠唱に取り掛かった。


 その様子を見届けたクルトは、再度口を開く。

 今度は、エレノラに用事があるようだ。


「……『逆天の機神』は使わないのか? ……何か考えがあるんだろうが」


 クルトは、そんな甘すぎる疑問を口にした。


「え? 特に理由はないけど」


 即答するエレノラ。

 唖然とするクルト。

 当然である。この女が、何かを考えて行動している訳が無い。


「強いて言うなら、『初手必殺技は負けフラグ』だからかな!」


「これ、結構な真剣勝負なんだが?」


 クルトは半ば諦めたようにエレノラを睨む。


「おいラインズ。お前もなんか言ってくれ」


「すまん、クルト。正直、エレノラ派だわ」


 必殺技はキメで使わなければ。

 これは古来よりのお約束だ。


「そうだったな。お前ら、バカの一味か」


「ちょっと! 私まで巻き込むのやめてくださいよ!」


「まあ、モニカも何と言いますか……その……」


「なんですかその言い草は! ケインさんだってまともとは言えないでしょう!?」


「そ、そうっすか?」


 クルトからモニカに飛び火した口喧嘩は、挙句ケインまで巻き込み、ボス戦中だというのに誰もドラゴンゾンビのことを見ていない。

 やべぇ奴らである。


 クルトたちは本当に高位冒険者としてやっていけるのか。

 彼らのこの先が心配だ。


「『風竜爆誕(エアロブラスト)』!」


 詠唱が終わったらしいナズナの声が聞こえた。

 なんか映画で見たことあるような技だが。気にしないでおこう。


 ただの霧払いに、大層な名前を付けたものだ。

 モヤモヤ気分どころか、ありとあらゆるものを吹き飛ばしてくれそう。


 ナズナが形成した白の魔法陣は、そこから風を送り出した。

 最初はそよ風だった。

 しかし、痛痒も感じない程に弱々しい風は、段々と速度を増し、渦巻き、遂には暴風と化す。


 風の大渦は、予定通り、漂う濃密な霧を掻き消した。

 そして、そのままの勢いで、ようやく姿を捉えられた巨大な竜の骸に喰らいつく。


 流石は威力特化の脳筋魔法使い。

 彼女が編纂した術式には、いかに竜といえども耐えきれなかったらしい。

 翼から背中にかけて、無視できない衝撃を貰った骸竜は、大きくバランスを崩した。

 どうやら、一度、空中戦は中止するようだ。


「やったよ、ラインズ!」


 さっき、小馬鹿にした態度をとったからだろうか。

 ナズナが、わざとらしく俺に向けてドヤる。


「……ああ、お手柄だな」


「でしょでしょ!」


 うわ、ムカつく。

 ……確かに、一石二鳥を成し遂げたのは事実なんだがな。


「はいそこ、集中してください」


「へいへい」


「はーい」


 保護者に指摘されては何も言えまい。

 俺は、地上で臨戦態勢をとる竜を見据えた。


 霧が晴れ、先ほどは分からなかった全体像がよく見える。


 想像通りの骨。

 肉が無いその肉体は、ゾンビと言うより、スケルトンと形容したほうが良いように思える。


 で、グレウスは腹を掻っ捌けって言ってたんだっけか。

 その肝心の腹部だけは他の身体構造とは違うらしく、何やら禍々しいような、剥き出しの筋肉がついたような見た目をしていた。

 はっきり言ってグロキモい。


 しかも、グレウスの言っていた通り、肉の筋と筋の間に剣がぶっ刺さっている。

 恐らく人間の血で濡れているのであろうその剣は、どす黒くぬらぬらと輝いている。


 そして、最後にして最低のキモポイント。

 その竜の腹部には、苦悶の表情で、何かに怯え目を見開いたような壮年の男性の顔が浮かび上がっていた。


 うわ、戦い辛ぇ……。


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