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54.神火の盾

よろしくお願いします!

 そこには、驚くほど広々とした空間があった。

 多分、東京ドーム数個分くらい。

 東京ドームってどのくらいか知らねぇけど。


「霧、ですか……?」


 モニカが呟く。

 彼女の言う通り、この広大な部屋は、その全体を白い霧のようなもので覆われていた。

 霧が濃すぎて、肝心のボスさえも視認できないほどだ。


 こういう場合、先に敵を見つけた方が有利だが……。


「よし、ラインズ。行ってきて」


「エレノラ、なんか勘違いしているみたいだが、偵察っていうのは生贄のことじゃないぞ」


 難関ダンジョン最強のボスに、単騎で突っ込める訳が無い。


「じゃあ、僕もついていきますよ。一応、盾役なんで」


 そう言ったのはこのパーティ連合のメイン盾、ケインだ。

 そのガチガチな重装備の姿を見ると、自然と安心できる。

 これで勝つる。


 その安心感の中には、こいつが凌いでいる間に俺は逃げ切れるだろうという打算が存在しているわけだが。


「しょうがねぇな。ケイン、行こう」


「はい」


 若干の不満を覚えつつも、俺とケインは霧の中に入る。

 後ろでは、エレノラが魔法を使って眩い光を生み出している。

 これを目印に戻ってこいということだろう。

 性格が良いのか悪いのかわからん奴だ。


 用意周到に、霧の中を行く。

 別に、俺たちの役目はボスを殺すことではない。

 安全確保のため、竜の姿を見つけるだけでいいのだ。


 とはいえ、さすがは推定東京ドーム数個分の広さ。

 少し歩いたくらいで、風景はそうそう変わるものではない。

 あれほど眩しかった光も見えなくなりそうだし、ここは一旦戻るとしよう。


「ケイン、もう戻ろうぜ。あの光が見えなくなったらおしまいだ」


 俺は隣の大鎧に話しかける。

 しかし彼は、息を押し殺し、返事をしなかった。


「どうした?」


 俺も、できる限り小さな声で、彼の様子を伺う。

 すると彼も、極めて小さな声で答えた。


「わかんないっす。けど、近い」


 何が。とは言わない。そんなのは分かり切っている。

 だが、どこだ。濃霧で遮られてはいるが、俺の視界には何も映らない。

 恐らく、ケインもそうだろう。


 高位冒険者としての経験が、彼に危険を知らせているのだ。


 唐突に、周囲が一層、見えにくくなったような気がした。

 霧が濃くなったのか。いや、それもあるだろうが、一番の要因は……。


「上です!」


 珍しくケインが叫ぶ。


 そうだ、例え骨だけだろうが、相手は竜だぞ。こういう状況も、あって然るべきだろう。

 急激な視界悪化の原因は、影。

 単純に、巨大な生物が頭上を通り過ぎただけだ。


「GYAAAAAAA!!」


 飛翔する骸竜は、天を喰らうかの如く、吼える。

 間違いなく、これまで出会ったあらゆるモンスターの中で、最大最強。


 竜は、俺たちを一瞥もすることなく、目の前に降り立った。

 矮小な人間なんて眼中にもないということだろう。

 まあ、好都合だ。


「ケイン! 全速全退だ!!」


「ちょ! 待って下さいよ! 僕、鎧着込んでるんですから!」


「知るか! 気合で何とかしろ! 俺にはお前を気にかけてやれるほどの余裕は無い!!」


「えらく自信満々ですね!?」


 ギャーギャーと騒ぎながら、俺たちは疾走する。

 俺たちの目的は、相手に先手を取らせないこと。

 この騒ぎで、エレノラたちも気づいただろうし、本格的な戦闘は合流してからだ。


 幸いなことに、これだけ煩くしても、竜はこちらを見向きもしない。


[ラインズ! 聞こえる!?]


 エレノラからの念話が届く。

 やはり、この騒動を聞きつけていたようだ。


「ああ、現れたぞ、ドラゴンゾンビ。今、お前たちの方へ引き付けてる」


[……それ、ただ逃げてきてるだけでしょ。咎めるつもりはないけど]


「そういう言い回しもできるな」


「ラインズ!」


 ケインの叫びが聞こえた。

 それと同時に、俺は『縮地』を使用する。


 正確に状況を把握できているわけではないが、多分、ここから離れないと死ぬ。


 その直感の通り、俺が駆け抜けた背後を、轟音が襲った。

 察するに、竜の拳撃だろう。


 余波だけで、体が宙に浮く。

 なにこれ、タマヒュンが過ぎるんですけど。


「ああああっぶねぇぇぇぇ! 信じてよかった数秒前の自分!」


「安心しないでくださいよ! 完全に狙われ始めてます!」


「マジかよ!」


 さっきの余裕の態度はフェイントだったのか?

 小賢しすぎるだろ。


 だが、エレノラの魔法光も眩く視認でき始めている。

 合流も近い。


「GYAAA!」


 ドラゴンパンチ、第二発目。

 今度の標的は、俺の遥か後方でガシャンガシャン走っている男。

 まあ、あれでは躱しきれないだろうな。


「よくやったケイン! お前のことは忘れない!」


「勝手に殺さないでくださいぃぃぃ!!」


 自らの死を悟ったのか、ケインは真っ向から竜の拳を見据えていた。

 それどころか、自分の身長ほどもあるタワーシールドを地面に突き立てる。


「『神火の盾(エルキスル)』!」


 彼は、とある神話の武具の名を叫んだ。


 この世界における炎と鍛冶の神、ヴァルフォラは、自らの体の一部を火種に、ある盾を生み出した。

 それは、英雄ゼラムに送られた、あらゆる悪意を跳ね除ける究極の盾だ。


 そんな神具の名を冠したこのスキルは恐らく、ケインの切り札の一つだろう。


 エレノラがガウェインに刻んだ魔法陣。あれによく似たものが、ケインの体から、盾に至るまで、侵食するように浮かび上がる。

 それは、一瞬ごとに輝きを増し、次第には眼を開けられない程の極光となる。

 まるで、英雄譚の一節のようだ。


 自重の何倍もの質量を持つ拳と、ケインの盾が衝突する。


 暴風が吹き荒ぶ。

 離れている俺にすら伝わってくる、超常的なプレッシャー。


 だが、ケインはそれを受け止めていた。

 彼に似合わず、口角をニヤリと引き上げて、嗤っている。

 その双眸は熱意に溢れていた。


「どうやら、通用するみたいっすね」


 わずかながら聞き取れたが、彼は確かにそう言った。

 どうやら彼は、どちらかというとエレノラと同じ人種らしい。


[ラインズ! ケイン! 下がって!]


 エレノラの念話が届いた。

 同時に、背後から飛び出していく影。


[さあ、ここからだよ!]


 やけにテンションの高いエレノラの声を聞きながら、俺は再度、走り出した


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