52.即決
よろしくお願いします!
「まあ、その言葉を信じきるのはまだ早いよな」
気休め程度だが、俺はそんなことを言った。
この場にいる皆、グレウスの語りに呑まれていた。
まるで、見て来たかのような……実際に見て来たかもしれないんだが、グレウスの当事者としての口調によって、納得させられてしまった。
貴族としての顔を持つ相手と敵対なんてしたくはない。
「そもそも、なんでアンタはこのダンジョンから動かないわけ?」
シンシアは、気怠そうにグレウスを見下ろして言った。
流石は高位冒険者なのか、頭は既に切り替わっているようだ。
「我ハ、迷宮デ死シタ亡霊ノ集合体。地縛霊ノヨウナモノダ。コノ霊体ハ、コノ迷宮ニ縛ラレテイル」
つまりは、地縛霊だから動けませんってことか。
他にも聞きたいことはある。
「ってか、ダンジョンボスってどうなってんだ? 既に何回かは倒されているはずだろ? 俺たちも倒しちゃっていいのか?」
こいつの話によると、ダンジョンボスは主君の成れの果てであるらしい。
最初、主君を守るようなことを口走っていたし、やはり倒されたくはないのだろうか。
「……分カッテハイルノダ。モハヤ、アレハカツテノ主デハナイト……」
グレウスは力なく呟く。
「じゃあ、倒してもいい、のか?」
「……コノ迷宮ニ入リ込ンダ吸血鬼共ノ狙イハ、竜ノ腹ニ刺サッタ剣ダロウ。ソレコソガ黒血竜ノ核デアリ、ソレサエアレバ奴ハ復活デキル」
「なるほど、じゃあ、俺たちはそれを」
「砕イテクレ」
取り除けばいいんだな。と言おうとしたところで、グレウスに言葉を遮られた。
狙ったわけではないだろうが、エレノラに魔改造してもらうことが出来なくなったな。
「ソレガコノ世ニアル限リ、油断ハデキナイ」
確かに、そりゃそうだ。
「クルト、どうする?」
俺は振り返る。
この場の最高責任者は彼だ。
とりあえずぶん投げとけばいいだろ。
「勿論、引き受ける」
即決だった。
他のパーティメンバーに相談しなくていいのか。
顔つきを見るに、大して結果は変わらなそうだが。
「だそうだ」
俺は再びグレウスに向き直り、返答を促した。
「……感謝スル」
首肯と同時に、彼は声を絞り出した。
良かった。主君の仇を討ってくれとかじゃなくて。
繰り返しだが、領主という権力者と喧嘩なんてしたくはない。
「そうと決まれば、先を急ぎましょう! ボスは早い者勝ちっす!」
ケインが、相変わらずの後輩口調で通路の向こう側を指さす。
彼の言う通り、これ以上、この場に留まる意味も無いだろう。
「じゃあな」
「頼ンダ」
その短い言葉を交わしただけで、俺たちは壁に寄りかかるグレウスを後にした。
ネームドモンスター戦も終了。ダンジョンも終盤。
後はもう、時間を取られることも無いだろう。
「エレノラ、ガウェインはどんな感じだ?」
万が一にも追い越される訳にはいかなくなり、俺たちは少し進行速度を上げた。
右腕を破損したガウェインに無理をさせるわけにはいかず、ガウェイン抜きで最高速を保つ必要がある。
だから、俺以外の前衛、モニカ、クルト、グレイ、ケインが相当頑張ってくれているようだ。
有り体に言って、俺はサボっている。
いや、殿を務めているだけなんだがな?
「とりあえず、右腕を直すのは無理そうかな。時間もそうだけど、何より部品が無い。私の技術力だけじゃどうにもならないよ」
ガウェインに運ばれながら、ガウェインの腕をガチャガチャといじる美幼女。
なかなか地球では見られない絵面である。
「俺の召喚魔法は使えるか?」
「ダメだよ……あ、君の命が危ないところまで魔力を吸い取ればいけるかも。よし、ちょっとやってみよう!」
「やってみよう! じゃねぇわ! ちょっとじゃ済まされねぇよそんなの!」
「え? 腕出して?」
「まるで話を聞いてねぇ!」
全く、このサイコパス女神は……。
破壊神に呆れ、並走していたナズナに視線を移す。
相変わらず、文句なしのたわわだ。
エレノラは運んでもらっているから、これが無くてつまらない。
ガウェインの酔い防止機能を恨むしかない。
あ、こっち見た。
…………躓いた。
「っと。大丈夫か?」
俺はナズナの体を支え、そのまま引き寄せる。
これはセクハラではない。合法的なおさわり、人助けだ。
訴えられても多分、緊急避難か何かが適用されるだろう。
「あ、ラインズ! ありがとう!」
ナズナが少し赤面しながらも礼を言う。
「魔法使いにこの速度は辛いだろ。ついていけてるシンシアがおかしいくらいだ」
俺と前衛組の間には、余裕そうなシンシアがいた。
魔法使いだったよな、確か。
だが、あれは例外だろう。
現に、剣士の俺だって早々にバテているのだ。
後衛の、女の子なら仕方があるまい。
と、イケメンムーブをかましながら、ナズナのむっちりとした感触を堪能する。
最高。
「なんなら、俺が背負ってやってもいいぞ」
俺は笑いながら、そんな冗談を言った。
本当に乗っかられては、モニカたちについていける自信が無いが。
「じゃ、じゃあ、お願い」
は?
「えいっ!」
間髪入れず、ズシリと背中に重みが伝わる。
だがそんなこと以上に、女の子特有の柔らかさが、何と言うか……すごく……最高だ。
思わず語彙力が死んでしまうほどの興奮。
一体、ナズナはどうしたんだ。
それほど走るのが辛かったか。
もしかして、実は俺のことが好きなのか? ……いや、この思考は危険だ。過去に何回、これで苦労してきたんだ。
だが、嫌いな奴にこんなことするか? ……って、この思考も……。
悶々とする感情を引き連れて、俺は、限界が近い足をただ必死に動かし続けた。




