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51.グレウス、かく語りき

よろしくお願いします!

「おうおう? オメェ、随分やんちゃしてくれたじゃねぇか」


 壁にもたれかかり座る黒い騎士を、俺は何度も足で小突いた。

 空虚な金属音が迷宮中に響く。


「……ヒ、ヒキョウモノ……メ」


「卑怯ぅ? 何だその言葉? おい、エレノラ。聞いたことあるか?」


「……残念ながら、悠久を生きる私をしても聞き慣れない言葉だね。アンデット語じゃない?」


 俺とエレノラはニヤニヤとゲスい笑い方をする。

 既に戦意が喪失しかかっている木偶の坊なんて、怖くもなんともない。


「ア、アルジヨ……」


 抵抗しようとグレウスはもがくが、すぐにケインとグレイに抑え込まれた。

 クルトたちのパーティは良心が欠けていないのか、クルトも合わせた三人は微妙そうな表情だ。

 逆に、ニコニコしているシンシアは俺たちと同類だと思っていいだろう。


「それで、主ってのは誰なんですか? 早く話した方が身のためですよ」


 情報を聞き出すべく、口を開いたのはモニカだ。

 彼女は本来、俺たちのパーティの真面目枠であるはずなんだが、騎士嫌いのためか良い性格をしている。


 クズの俺、破壊欲のエレノラ、陰キャのモニカ、不意打ちのナズナ。

 なかなか壮観なパーティメンバーではないか。全く誇れない。


「アルジハ、アルジダ。コノダンジョンノ、サイオウニイル」


「つまり、ダンジョンボスのことですか?」

「ダンジョンボスって、主、って感じではなくね? だって……」


 クルトたちから話は聞いていた。

 『墳墓迷宮』最終にして最強のボスモンスター、そいつは


「ドラゴン、なんだろ?」


 竜、龍、ドラゴン。

 こう称されるものは、ほとんどの場合が強敵であるらしい。


 冒険者のランクで例えると、金級冒険者のみで構成されたパーティが、やっと下位の竜種の討伐依頼が受けられるくらい。

 流石に、安全マージンをある程度取った上での難易度決定らしいが。


「正しくは、ドラゴンゾンビ、だ。実際の竜種とは色々特徴が違っている」


 ご丁寧にも、クルトが訂正してくれる。


 実は、クルトから最初にこの迷宮攻略の話を持ち掛けられた時、一度は断ろうとしたのだ。

 だが、生身の竜殺しではなく、相手はドラゴンの死骸。

 「死体蹴りなら話は別だ」と交渉は成立した。


 エレノラやクルトから、ガウェインの性能ならドラゴンゾンビ戦も大丈夫だと太鼓判を押されていたしな。


「タシカニ、アルジハイマ、ドラゴントイッタイカシテイル」


 グレウスが妙なことを口走った。

 ドラゴンと一体化?

 そんなことがあり得るのか。


「ちょ、その辺りの事情が全く見えてこねぇぞ。もうちょい分かりやすく頼む」


「アルジハ……」


「あとその話し方止めろ。聞き取りにくいわ」


「……善処スル」


 言うこと聞いてくれんのかよ。

 何がユニークモンスターだ、ちょっと可愛いじゃねぇか。


「私ハ、元々人間デアッタ。ソノ時ニオ仕エシテイタノガ、フレイオ・エイゼン様。コノ辺リノ地域ヲ治メラレテイタ、領主様ダ」


 フレイオ・エイゼン。

 その名前に聞き覚えは無い。だが、そいつがトータスの街を治める、エイゼン家と関係があることは明白だった。


「彼ノ御方ハ偉大ダッタ。民ヲ苦シメルコトモ無ク、平和ナ日々ガ続イテイタ」


 グレウスは語る。

 今は亡き、自らの主君を思っているのだろう。

 心なしか、漆黒の兜の奥の光が揺らいでいる。


「ダガ、アル日、奴ラハヤッテキタ」


「奴ら?」


 誰からともなく、続きを急かす声がする。


 グレウスは一つ溜息を吐くような仕草をし、また語りだした。


「忌マワシキ、吸血鬼(ヴァンパイア)ノ軍勢ダ」


 吸血鬼。

 こちらも、竜種同様に説明不要の魔物だろう。

 モンスターというよりは、亜人に近しいのかもしれない。

 俺が求めてやまないサキュバスなどと同系統の、人型の魔物だ。


 人間の血を好み、時に自らの眷属として変質させ、闇に生きる。

 あまり大々的なことは好まないとエレノラから聞いたことがあるが。


「奴ラハ黒血竜を従エ、私タチノ街ニ攻メ込ンデキタ。当時騎士団長ダッタ私ハ、黒血竜ト三日三晩戦イ続ケ、コノ地デ果テタノダ。コノ迷宮ノドラゴンゾンビハ、ソノ時ノ竜ノ、成レノ果テダ」


 グレウスは、毒を吐ききったように口を噤んだ。

 心中お察しするが、まだ肝心なところを聞いていない。


「結局、そのフレイオさんはどうなったんだ?」


「……フレイオ様ハ、吸血鬼ノ王ニ破レ、成リ代ワラレタ……」


「成り代わる?」


 自分が、柄にもなく困惑しているのがわかった。

 脳裏に浮かんだこの可能性が、外れていることを切に願う。


「……ソウダ。上位吸血鬼ノ変身能力ニヨリ、エイゼン家ハ、ソノ時カラ吸血鬼ノ手ニ落チタノダ。今、フレイオ様ハ、奴ラノ魔術デ、アノ魔竜ニ吸収サレテイル」


 グレウスのその言葉に、全員が息を呑んだ。

 勿論、アンデットである彼が嘘をついているということも十分にあり得る。


 だが、この場にいる全員が、次第に力の入るグレウスの言葉に、気迫に呑まれていた。

 俺も含めて、誰もがこの清廉潔白な騎士の話を信じている。


「ちょっと待ってください! そんな話、信じられる訳がありません!」


 焦った様子でモニカが叫ぶ。

 当然だ。今の話が本当ならば、このエイゼン領内全てが敵地。

 信じたくないだろう。


「これは、とんでもないことに首を突っ込んだな……」


 クルトの溜息混じりの言葉だけが、沈黙の中に残っていた。


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