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50.騎士の誓い

よろしくお願いします!

 威圧的な剣の一振りを、クルトは難なく躱してみせた。

 すかさず繰り出された横薙ぎの一撃も、勢いよく前に出たケインの大盾によって受け流される。


 やはりこの二人、戦闘に関しては文句のつけようがない。

 中身はアホなのにな。


「守備は大丈夫っぽいっす! みなさんは攻撃に専念を!」


 鎧の下から、若干籠もったようなケインの声。

 どうやら、力負けはしていないようだ。


 それにしても、なんだか騎士に縁があるな。

 エイゼン騎士団だってそうだが、ガウェインやこのグレウスと、強敵は騎士である必要でもあるのか。


 形態が似ているのであれば、対策もまた似てくるのだろうし、楽と言えば楽なのだが。


「喰らえッ!」


「『破壊(ディストラクション)』!」


 裂帛の気合と共に放たれたクルトの斬撃。

 それに呼応するように、エレノラが付与術を発動する。


 同じ騎士形態のモンスターということもあり、ガウェインと同じ戦術が有効だろう。

 生物ではないモンスターへの特効を付与する『破壊』は、やはりグレウスにも大きな被害を与えた。


 本来、胸の装甲を浅く斬りつけるだけのはずだったクルトの刃は、もはや斬るというより、装甲ごと、中身をベコリと圧し潰すような衝撃を生み出していた。


 これで、中の人がアルバイトのおっさんであれば良かったものの、残念ながらこの黒騎士は着ぐるみなんかではなく、ガチのアンデット。ファンタジー生物だ。

 人間ならば肺が潰れるほど圧迫されているへこみ方だというのに、気に素振りも見せることなくピンピンしてやがる。

 流石は霊体と言った所か。


「『聖印・(ハラエ)』」


 珍しく、グレイが何かを呟いた。

 と同時に、彼女の短剣に光輝く紋章が浮かび上がる。

 あれは聖術の一つなのだろう。

 詳しい効果はわからないが、名前から察するに、アンデット特効でも付与するのではないだろうか。


 強い聖気の反応に、グレウスが狙いをグレイに定めた。

 もう一人の攻撃者、クルトは既に離脱し、ケインの後ろに避難している。


 注意が完全にグレイに向いている。なら、ここを突かない理由は無い。

 モニカもそう考えたのか、既にグレイと同時に走り出している。


 俺、モニカ、グレイの三人同時の『縮地』による連携攻撃。

 素人目ならば瞬間移動と見紛うようなトップスピードで、俺たちはほぼ同時にグレウスに襲い掛かる。


 一対三なんて、到底防げるものではない。

 しかし、グレウスは俺とモニカなんて見向きもせず、ただグレイだけを警戒している。


「舐めやがってこの野郎!」


「後悔させてやりますよ!」


 鋼鉄の剣と二対の短剣が交差する。


 俺たちの斬撃が殺到する寸前。黒騎士は、構えていた漆黒の騎士剣を大地に突き立てた。


 瞬間、周囲から噴き出た黒い魔力が、辺り一帯を包み込む。

 一拍遅れて手に伝わったのは、金属を斬ったのでも肉体を斬ったのでもない、無機質な感触だ。


 慌ててその場から飛び退り、唯一奴に注視されていたグレイの姿を確認する。


 彼女の短剣はグレウスに届くことなく、軽盾によって阻まれていた。

 渾身の一撃だったのだろうが、そう簡単に通してはくれないようだ。


 それでも、俺たちが斬りつけた無機質な壁を貫通しているのは、彼女の実力が卓越していることの証左だろう。


「『騎士の誓い』! 全体的に能力を底上げする高位騎士のアーツだよ!」


 エレノラが後方からそんなことを叫んだ。

 誓いって、アンデットの癖に誰に誓ってんだよこいつは!


 俺が悪態をつくと、グレウスは構えていた剣を下ろした。

 不審だ。警戒は解かない。

 その場に、妙な緊迫感が流れた。


「……アルジノタメニ、ココヲ、トオスワケニハイカヌノダ」


「キェェェェェアァァァァァシャベッタァァァァァ!?」


 兜から、コフーコフーと白い吐息のようなものを漏らす大柄な騎士の亡霊に、俺は驚きを隠せない。

 マジかよ。こいつどこから発声してんの?

 そもそも、知性を持っているのかどうかもわからない。

 様子を伺うに、自分の意志で動いてそうではあるが。


「ヌスットヨ、タチサルガイイ。ココハ、キサマラノヨウナモノガ、タチイッテヨイバショデハ……」


「『巨人の拳骨(タイタンズフィスト)!』」


 少女のまだ幼さが残る声の後、通路の振動を伴った何かの激突音と、耳を劈く鋼鉄の破砕音が、迷宮中に響き渡った。

 下手人は当然ながら、我がパーティが誇る究極の馬鹿。

 常識はあるが脳のスペックが圧倒的に足りていない、魔法使いの少女、ナズナだ。


「さあ! 今こそチャンスだよ! 畳みかけて!」


 ふんす! と胸を張り、自慢気に指を指し示す彼女の眼の先には、完全なる不意打ちで吹き飛ばされた哀れなスクラップの姿があった。

 敵ながら少し可哀想だ。結局は霊体なので、滅んではいないのだろうが。


「お前、よくあそこで攻撃できたな……。普通、話を聞く流れだったろ」


「だって、隙だらけだったし」


「もうそこまで堕ちて……! 成長したな、ナズナ!」


「それ褒めてるの?」


「まるで鏡を見ている気分だってことだ」


「褒めてはないんだね」


 納得したようにナズナは頷く。


「ラインズ! 早くトドメを刺しに行かないと!」


 エレノラの急かすような声。

 ……このパーティってクズしかいないんだろうか。


 まあ、経験値はありがたくいただいておくか。

 動揺するモニカやクルトの間を縫い、俺は黒騎士の元へ急いだ。



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