49.誠意
よろしくお願いします!
彼は、かつて高名な騎士だったと言う。
清廉潔白にして、数々の武勇伝を残す剛の者。
かといって力に溺れることも無く、自らが平民の出であるためか、民のために幾度も剣を振るったという。
他人の称賛は聞いていて腹立たしいな。
騎士が絡むと陰キャモードに突入するモニカをして、彼のことは手放しで褒めたたえていた。
都市伝説みたいなもんだったらしいがな。
……反吐が出る。
と、俺が純度百パーセントの嫉妬を『黒騎士 グレウス』に向けていると、彼もその空虚な眼光をこちらに向けてきた。
人生初の両想いだな。相手が野郎なのがマイナスポイントだ。
野郎どころか生者ですらない彼は、あろうことか俺たちに、その場を満たすほどの怨念と殺気を撒き散らす。
良かった。
ちゃんと二人の思いは一つになっているな。
「ボケっとしないでくださいよ! 相手は特異個体です!」
「何を今更ビビってんだよ。ユニークだろうがボスだろうが、ガウェイン先輩がなんとかして……」
俺が言葉を吐き出し終える前に、黒鎧のデュラハンは、剣を一振りする。
何でもないような動作に思えたそれは、突如として暴風となり、具現化した斬撃として宙を駆けた。
この技は、何度も見たことがある。
間違いなく、『羽搏』だ。
間近に迫った死の気配は、一直線に俺へと飛翔してくる……わけではなく。
俺の数センチ横を通り過ぎ、最奥に構えるガウェインへと喰らいついた。
「バカが! よりにもよってガウェインを狙うなんてな!」
濃厚に味わった死の気配に、足をガクガク体をブルブルさせながら、俺はグレウスに吠える。
いくらユニークモンスターと言えど、あのガウェインさんがそうそう傷つくわけ……
って、思いっきりぶった斬られてるぅ!?
俺は心の動揺を隠しきれず、口をアホみたいに開けたまま息を漏らした。
「何でだよ!? ガウェイン先輩が簡単にやられるわけないだろ!」
「クールタイムで、張っていた魔法障壁、刻印式支援魔法が軒並み剥がれていたんだよ! 普段ならこんなことには!」
エレノラが、製作者のプライドにかけてガウェインを擁護する。
どんだけ自分の作品大好きなんだよ。
「あと、真っ二つになっているのは私を庇った右腕だけで、他は見た目だけだから!」
続けてエレノラは自社製品の頑丈さをアピール。
本当に騒がしい奴だ。
「そこの馬鹿二人! 集中しろ! 強敵だぞ!」
クルトが青筋を浮かべて声を荒げる。
「でも、ガウェインさんが右手を破損したんだぞ! なら、俺たちは何もできねぇじゃねぇか!」
「戦えるだろうが!! どんだけガウェインを信頼してんだよ!」
俺とクルトの口論も気にしませんとばかりに、グレウスは剣を大上段に構える。
クソが! こうなりゃやるしかねぇ!
俺は決意を固め、威風堂々と地面に膝を付け、額を擦り合わせた。
これ以上ないほどに弱々しい背中。
完成したそのフォルム。
これぞ、ジャパニーズトラディショナル誠意。
DO・GE・ZAである。
ほら見ろ、俺のあまりの洗練しきった動作に、グレウスどころか味方まで驚愕しているではないか。
俺はぢっと地面を見つめたまま、他の面々にも声をかける。
「早くしろ! 俺以外、みんな斬られても知らねぇぞ!」
「バカだクズだと言ってきましたが、ここまでくると逆に可哀想ですよあなた! 致命的なまでに脳がやられています!」
「それは流石に守り切れないっすよ!」
「あんた、本当にぶち殺したいくらい面白いね!」
「――――」
俺の背中に、数多の罵倒、軽蔑の視線が投げかけられる。
……どうやら俺の対応は間違っているようだ。
満を持して顔を上げ、グレウス殿の様子を伺う。
アッこれ駄目ですね、わかります。
眼が合った、ような気がするグレウスは、無情にも大上段に構えた剣を振り下ろすつもりのようだ。
「ラインズ! 何してるの!」
唯一、俺の死を望んでいなかったナズナのみが、俺に手を差し伸べてくれる。
俺はその手を借り、グレウスの『羽搏』を辛うじて回避した。
「ナズナ、助かった」
「本当だよ! 今日で何回助けられてるの!?」
確かに言われてみれば、ナズナ以外にも助けてもらった覚えがありすぎる。
「す、すまん」
「よろしい!」
「そこ! 仕切り直してください!」
俺とナズナの会話は、大抵こうしてモニカに遮られる。
今は状況が状況なので当然だが。
「わかった! あの野郎、俺の誠意を無視しやがって、ぶっ殺す!」
「どうしてそのやる気を最初に出さないんだ」
クルトが呆れ気味に口を挟む。
うむ、俺もそう思う。
多少のトラブルはあったが、ここからが本番だ。
ガウェインはクールタイムである上、右腕を破損。
取り返しがつくように、この戦闘に参加させるべきではないだろう。
つまり、『逆転の機神』無しの実力勝負。
数的に見れば八対一の集団リンチだが、相手は伝承として語られるボス級モンスターだ。
油断はできない。
グレウスの方も、いよいよ本気になったのか、スタンダードに剣を構えた。
黒の霊騎士は、ガウェインを彷彿とさせる地鳴らしのような踏み込みと共に、最前列のクルトへと斬りかかった。




