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4.大召喚

よろしくお願いします!

 ゴブリンの洞穴の中では珍しく、そこは松明に照らされていた。一際大きなこの部屋はおそらく、宝物庫だろう。盗品か何かだと思われる物がそこらに散らばっている。

 その中でも異質な木製の檻。囚われの少女はそこにいた。

 モニカと同い年なのだろう。囚われていたというのに艶やかで、長い黒髪は東洋の姫を思わせた。


「おなかすいた!!」


 突然、少女が叫ぶ。俺も初めは驚いたが、どうやらこれは寝言らしい。

 モニカ曰く、これくらい普通だそうだ。一体、どんな夢を見てるんだって話だが。

 まあ、この声のおかげで場所がわかったと思えば可愛いものだな。


「にしても、服が」


 一応は着てるものの、大部分が破れており頑張れば色々見えそうだ。でっかい。何がとは言わないが。


「あらあらあらあら、あらららら」


「ちょっと。本人が眠っているのをいいことにじろじろ見ないでください。変態ですか」


「おっと? これは救出対象の無事を確認する、そう! 言わば医療行為に等しい。それを変態だなんて、心が汚れてるよ君ィ!」


「……うざ」


「なんとでも言え。痛い思いをした分ここでしっかり英気を養っとかないとな」


 そして、あとはこの洞穴から脱出するだけというわけだ。


「で、脱出経路はどうするんだ。まさかそいつを担いでまた何時間も歩くつもりか?」


 俺は黒髪の少女を指して言った。

 そう考えると、この友人とやらの他に人質がいないのは幸いだったな。人を運ぶのも楽じゃない。


「それに関しては大丈夫です。風の流れを感じるので、多分近くに外へ通じる道があるかと思われます」


「そうか。なら、荷物を増やしても大丈夫そうだな。なんか包めるもの貸してくれや」


 そう言いながら俺は適当に価値がありそうなものを物色し始めた。


「嘘ですよね? 盗品ですよ?」


「は? ゴブリンが盗んだんならもう地に帰ってんだろ」


「うわぁ」


「何持ってけばいいと思う?」


「はぁ……その、魔石とかはどうです?」


 やはり恩は売っておくものだな。諦めたように、モニカは蒼く輝く手のひらサイズの石を差し出した。綺麗だが、それ以上の感想はない。


(ヘイ! 女神! 魔石って?)


[私はAIアシスタントじゃないんだけど]


(いいからいいから)


[割と強力な魔物とかの体内に生成される魔力の結晶。魔法に関して親和性があり、魔力タンクや魔法の杖の素材などに使われる]


(ナイスぅ!)


 相変わらずエレノラの知識は有益だ。常識的なことは大体教えてくれる。

 俺は見つけ次第、魔石をモニカから受け取った風呂敷に入れていく。


「どうしたんですか? 急に黙って」


 モニカが不思議そうに俺の顔を伺った。念話のせいか。やはりエレノラと話すとテンポが悪くなる。


「ちょっと神様と交信してただけだ」


「あー、はい。わかりました」


 今までの行いのせいか全く信じられていないな。失礼な女だ。

 いっそのこと教えてしまうか。


(エレノラ、モニカに話しかけてくれ)


[いいの?]


(まあ、多分大丈夫じゃね?)


[面倒ごとになっても知らないよ]


(その時はなんとかするわ)


[適当だな。じゃあ、転生については伏せとくよ]


(了解)


 正直、ここまで共に行動してきて、モニカが俺に不利益になるようなことをやってくるとは考えにくい。

 それより先に自分の事情を知っておいて貰った方が楽だ。


「え? 何か喋りました?」


「聞こえたか、それが神様だ」


「はい!?」


 どうやらだいぶ戸惑っているな。とりあえず宝物を物色して待つか。


 数分後、モニカは独り言をやめた。どうやらエレノラの存在を理解したようだ。


「信じられませんね」


「何が?」


「よりにもよってあなたがエレノラ様とお話できるとは。酷い話です」


「どういうことだ?」


 この女神(異世界ペディア)はそこまで重要な存在なのか?


[君ねぇ、ちょっと神っていう存在を軽んじすぎじゃないかな!?]


「適正な評価じゃないか?」


「とんでもありませんよ! 信者数最多のエルギア教の神様ですよ!? それと対話ができるなんて、信者が聞いたら怒りますよ!」


「はえー。こんなのがなぁ」


[やっぱぶっ飛ばすぞお前!]


 そんなにすごいならもっと転生特典を豪華にしてくれればいいのに。


(なんかケチなんだよなぁ)


[何ぃ!? はいもう怒った! 神罰下す!]


「まあまあ」


[まあまあじゃないよ!]


「お前がもし美少女だったら敬ってやるよ」


[くそう! 今に見てろよ! そのうち現世に降臨してやるからな!]


「その時はエロい服でよろしく」


[ムキィィィィ!!]


「その神をも恐れない積極性は何なんですかね!?」


「童貞を極めるとこうなるぞ」


「知りたくありませんでしたそんなこと!」


 そんな風に話していると、俺たちは広間に出た。

 そこには、探し求めていた出口の光、そして


「これは……」


「まずい……ですね」


 数える気にもならないほどのゴブリンの群れがいた。


「あの黄色いやつは何だ?」


 俺はゴブリンの中でも異質なそいつを睨め付けた。


「ホブゴブリンです! ゴブリンの進化形で、より強力です!」


「待ち伏せされてたか」


「どうしますか!?」


「こんな数をまともに相手なんてできないな」


「……もうダメだ! こんな人と一緒に死にたくありませんでした!」


「マジでお前の中で俺ってどう思われてんだ?」


「あなたは何でそんなに冷静なんですか!? 失うものがないからですか!?」


「お前は俺への罵倒を挟まないと話せないのかよ。……まあ、質問には答えてやる。答えは『何とかなりそうだから』だ」


 言い切ると同時に、俺は魔法を行使する。


「召喚」


 モニカから貸してもらっていた風呂敷の中の魔石が、一際眩しく輝く。そして、蒼い粒子を散らせながら、光を失っていく。


 確かにこんな数、まともに相手はできない。なら、まともに相手しなければいい。


 広間全体を包み込む魔法陣が、魔力の補充を終え効力を発揮する。


 召喚したのは、土。


 この場に最もありふれたもので、召喚しやすいものだ。それを魔石を用いて限界まで召喚する。


 つまり、何が起こるかと言うと


「生き埋めになりなァ!!」


 突如現れた膨大な土は、広間を埋め尽くした。その場にいたほとんどの生物を巻き込んで、あらゆる断末魔を飲み込んだ。


 土塊は、俺のイメージ通り、つまりトンネル状に広間の形を変えた。


「よし、モニカ。一本道だ」


「な……」


 まだ多少の障害はあるが、先ほどよりも遥かに楽だろう。やはり、運の良い奴は生き残ってしまうようだが。


 魔力の消費も尋常じゃない。こんな荒技普段は使えないな。


「残党は俺がやっておく。お前は先に行っててくれ」


「な、何を」


「あん?」


「何をしれっと話し始めてるんですか!?」


「ハッハッハ! あんな雑兵ども戦うまでも無えよ!」


 実際戦っていたら余裕で負けていただろうが、誰も証明できないのでノーカンだ。


「そんなことできるなんて聞いてませんよ!?」


「できちゃうんだな、これが」


「さっきから妙な魔法を使うなと思っていましたが、こんなことも……」


「まあ、俺に不可能はないからな」


「この状況だと言い返し辛いのが悔しい!」


 どうやらモニカは俺の、偉大なる大いなる巨大な大魔法を目の当たりにして、相当驚いているようだ。まあ、この俺の本気だ。無理もないな。


「それでも、ホブは残ってますよ」


「ちょっと強いゴブリンだろ? いけるいける」


「それ言った人は死ぬっていう新人冒険者のジンクスがあるんですけど」


「俺はそいつらとは違うから大丈夫」


「また根拠のない自信を……」


 一応、神様も認める主人公だし。


 そんな話し合いをしていると、ホブゴブリンが吠え始めた。ようやく何が起きたか理解したか。驚きが隠せていない。


「クソ鬼ども、一方的に殺してやるよ!」


「あ、ちょっ、待っ!!」


 モニカの制止も聞かず、俺はホブゴブリンに突撃した。取巻きのゴブリンが止めようとするが、怯えて戦意を失いかけている。どうやら、こいつらは種族全体でビビりのようだ。さっきから勝ちパターンが一緒だし。


 次々とゴブリンを斬り刻み、すぐにホブゴブリンの眼前にたどり着く。その間にモニカもちゃんと脱出できたようだ。


「やっぱチート能力ぶっ放すの最高だな。やめられそうにないわ」


[そんなこと言われてもホブゴブリンは困るだけだと思うけど]


「大丈夫だ。自己満足で悦に浸ってるだけだから」


[さいで]


 ホブゴブリンは、ゴブリンにしては珍しく持っていた剣を振り回す。


「そんなの当たんねぇよ!!」


 今まで相当ゴブリンと戦って、だいたいの動きも読めている。対処は先ほどまでとそう変わらない。

 ステップを踏み、離れる力を利用しホブゴブリンを引き斬る。追撃をしようと奴は剣を振るが、これも大振りすぎて容易に躱せる。

 いくら力が強くても、こんなバットみたいに振ってては無意味だな。


躱して斬る。受け流して斬る。それを繰り返していると、すぐにホブゴブリンに限界が訪れた。


 ホブゴブリンは全身から血を流しながら、前のめりになって倒れた。案外、あっけなかったな。

 地に伏した肉塊を踏みつけ、俺は洞窟の外へ向かった。

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