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48.骸群

よろしくお願いします!

 エレノラに似合う、極上のエロい衣装はなんだろう。


 俺は難関ダンジョン『墳墓迷宮』の最下層にて、熟練の騎士たちを相手にしたレースを繰り広げながら、そんなことを思案した。


 舐めプ? そんなものじゃない。これも立派な戦術の内だ。


「ラインズ! どんな邪な妄想をしてるのかは知らないが、モンスターだ! 戦闘準備しろ!」


 戦闘を全力疾走するクルトが、呆れにも似た表情で叫ぶ。

 なんでバレた。そんな邪悪な顔だったか?


「はいよ! ってか、お前が今更常識人振るんじゃねぇよ、同士だろうが!」


 そう言い返しつつも、俺は剣を構える。

 奥に見えるのは無数の人影。当然ながらそれは他の冒険者や騎士たちなどではなく、生きとし生けるもの全てを憎むアンデットの大群だ。


「ゾンビ系、スケルトン系! とにかくいっぱい!」


 数が多すぎたのか、やや雑になったエレノラのモンスター情報を鑑みて、俺たちは脳内で戦術を組み立てていく。

 こういった多数の敵が相手の場合、一気に勝負を決める手段は魔法か、ガウェインしかない。

 逆に強力な個が相手だった場合、俺たち前衛か、ガウェインが鍵になってくる。


 要するに、ガウェインさんマジぱねぇ。


「エレノラ! ガウェインは?」


 俺はダメ元で問う。


「クールタイム中! あまり無茶はできないよ!」


 エレノラはやや不機嫌そうに答えた。

 自分の作品の欠点を言いたくはないのだろう。


 俺は、ちらりとエレノラを護衛するガウェインの様子を伺う。

 先ほどまで、見るからに限界っぽく火花を散らしていたその鋼鉄の腕からは、ドライアイスでも詰めてんのかと思うほど蒸気が上がっている。


 これが絶対無敵最強ゴーレム、ガウェイン君の数少ない弱点の一つ、クールタイムだ。

 『逆天の機神』は、やはりというか当然というか、相当無茶をした構造になっているらしい。


 神様の真似事をするというのだからその無茶苦茶振りは理解し易いが、使用後に普段よりも性能がガクリと落ちるデメリットは、見過ごすこともできない。


 おかげで、圧倒的な戦闘力を持つガウェインをエレノラの護衛なんていう重要度極小の仕事に割り当てなければいけないのだ。


 全く! 誰だよ、後先考えずにガウェインに全力を出せなんて指示したヤツは!


「『使徒の剣』!」


 エレノラから、支援魔法が飛ぶ。


 おっと、愚痴を吐いてもいられないみたいだ。

 既に、死体どもがかなり近づいてきている。


「『縮地』」


 俺はそう呟いて、その場から一瞬にして間合いを詰める。

 これは、ナズナの洗脳騒動から使えるようになったアーツだ。

 主人公の覚醒シーンのはずなのに、何も格好がつかなかったことは自覚している。


 ちなみに、このアーツを扱う時のコツは、移動先におっぱい様を思い浮かべることである。

 ね? 簡単でしょう?


 『縮地』によって、ただでさえ動きが緩慢なアンデットでは追いきれないほどの速度を叩き出し、そのまま奴らを轢き殺す。

 瞬間移動にも見えるほどの超高速移動だ。体が衝突するだけで、奴らの肉体は吹き飛ばされていく。


 難点は、腐った肉片やら臭ぇ体液やらが体に付着することだな。

 思いの外精神に来るぞ。二度とやらん。


「バカですか!? バカですね! 単騎で突出してどうするんですか!」


 モニカから手厳しい一言。

 とか思っていたら、彼女の言う通り、四方八方をアンデットに囲まれてしまった。


 流石に、少し調子に乗ったか。


「『巨人の拳骨』!」


 瞬間、追い打ちをかけるようにナズナの放った魔法によって、地面が捲れ上がっていく。

 盛り上がった大地は、密集する腐肉たちを巻き込みながら、俺の元へと向かう。


 おい、待てや。

 このままだと俺に当たりますけど!?


 この世界にフレンドリーファイア防止機能なんて便利なものは存在しない。

 現に、度々仲間の魔法で怪我を負う新人冒険者がいるくらいだ。


 その場を離れようにも、辺りはゾンビ、スケルトンまみれ。逃げ道はない。


「ガウェイン! ガウェイぃぃぃン!!」


「君! 私の話聞いてた!?」


 俺の救難信号に、エレノラが心無い言葉を投げかける。

 肝心のガウェインは、セーフティが掛けられているように微動だにしない。


 割と洒落にならないんだが、この状況。

 もしかして、俺を事故死に見せかけて殺す計画じゃないよな。

 ……いや、流石に彼女らはそんなことしないか。

 やるなら裁判でも起こした方が、楽に、確実に勝てるからな。


「――ッ!」


 俺の身長を大きく上回る拳骨と正面衝突。……その寸前のところで、俺の頭上を黒い影が通り過ぎる。


 何が何やらわからないが、自分が空中に引き上げられたのだということはわかる。


 この見事な早業。丁寧な仕事。それ以上に、このスレンダーな肢体が物語っている。

 クルトたちのパーティの聖戦士、クールビューティコミュ障美女のグレイだ。


「た、助かった」


「――気を付けて」


 口数こそ少ないが、優しく諭されるような口調はこの人の本質を伝えている。


「『裁きの炎渦』!」


 シンシアの詠唱が終了したのが聞こえた。

 『裁きの炎渦』は『選別の炎』の上位互換とも呼べる魔法だ。

 敵味方を区別するという、フレンドリーファイア防止機能の存在しないこの世界において貴重な特性を 持っており、その上広範囲に効果を及ぼす、達人にのみ許された高位魔法である。


 逆巻く炎は、通路を埋め尽くしていたアンデットたちを焼き尽くしていく。

 戦時には恐ろしい魔法だろうな。こんなの。


 アンデットが痛みを感じなくて良かった。一斉に苦悶の表情なんて浮かべられた日には、夜眠れなくなる。

 まあ、火だるまになりながらも行進する今の姿もなかなかトラウマものだが。


 しかし、ほとんどのアンデットどもが灰燼に帰す中、一体だけ、悠々とその場に立つものがいた。

 『裁きの炎渦』自体、あまり威力重視の魔法というわけではない。

 だが、そいつは、弱いとは言えないゾンビどもを消し炭にした魔法を受けてなお、ただ一つの傷も無しにそこに佇んでいる。


 クルトたちから事前に聞いている、最下層には、要注意のモンスターがいると。

 恐らくあれが


『黒騎士 グレウス』。


 地下四階までのボスモンスターなど比にならないと言われるほど強力な力を有す、ユニークモンスターだ。



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