44.エイゼン騎士団
よろしくお願いします!
男の友情パワーにより、頑固なモニカを説得することに成功した俺は、何の遠慮も反対も無く悠々と休息をとっていた。
やはり、ボス戦前が安全地帯と決まっているのは安心できるな。なぜ安全なのかという原理についてはよくわかっていないらしいが。
「それにしても、ナズナ。お前よく俺を許せたな?」
他の面々がバカ騒ぎしているのを横目に、俺はナズナにだけ聞こえるような小声で話しかける。
どう考えてもうら若き乙女がやられてよろしくないことを行った自覚はあるからな。多少の抵抗はしても、最後には素直に怒られる覚悟をしていたのだが。
「だって、ラインズも操られていたんでしょ? わざとじゃないなら怒れないよ」
ナズナはぎこちなく微笑む。
「おっふ」
なんという聖人。思わずこちらが罪悪感で死にたくなるほどの純粋オーラの持ち主だ。
まあ、俺自身、あれは操られていたのか、変なテンションで欲望が爆発したのか理解していないのだが。
「それに……ラインズ、いつもあんな感じだし。もう慣れたって言うか……」
後半は消え入るようなか細い声だった。
顔を赤らめて、恥ずかしさを押し殺せていないのが伝わってくる。
これじゃあ、軽口も挟みにくい。
「なんだ? それって、今後は自由にやっていいってことか?」
「誰もそんなこと言ってないよ!?」
「そうか。一応忠告しておくと、童貞に『信頼してます』みたいな言葉をかけるのはやめた方が良い。恋愛的な意味で俺のことが好きなのか!? って勘違いするから」
「結構めんどくさいね!?」
当たり前だ。
人間と全く接していないコミュ障にも関わらず、自分に幻想を抱いている。そんな人間がめんどくさくない訳がない。
「……でも、ラインズなら少しは許せるけど」
ナズナは本当に小さく、俺ですら聞き取れないような声量で呟いた。
まあ、がっつり聞こえているんだが。
これは、どう受け取ればいいのだろう。
単なる信頼の問題か、恋愛脳的に考えれば気づかれないこと前提のアプローチか。
既に、童貞の惚れやすさについて話したうえでこんなことを言うということは、脈ありとして考えた方が良いのか?
だが常識的に考えて、俺を好きになるような奴がこの世に存在しているとは思えない。そんな精神異常者、俺の方が警戒したいくらいだ。
こうやってウジウジ思考を巡らせてんのも童貞臭い。
「あん? なんか言ったか?」
「いや! なんでも!?」
こうやって難聴系主人公って生まれるんだろうな。よくわかったよ。
……くっそ、イベント逃したか?
俺が、己の優柔不断さを後悔していると、どこからともなく多数の人間の足音が響いてきた。
同時に金属音も聞こえることから戦士系の、おそらく人間だと思われる。しかし、冒険者のパーティにしてはその人数が異常に多い。
ってか、マジで足音多すぎだろ。
「お前たち! 何者だ!」
威嚇するような大声量。日本にいた時の俺ならば、震え上がっていただろう。
だが、今は違う。
俺が成長したとかそんなチャチなことじゃなく、天下無敵のガウェインさんがいることが重要だ。
「冒険者だよ! あんたらは!?」
俺は多少苛立ちながら暗闇に向かって吠える。
目線の先から現れたのは、白と青のコントラストが映える鎧を装備した、屈強な戦士の集団。
腹の辺りに刻まれた、剣と翼の紋章から察するに、エイゼン家のお抱え騎士といったところだろう。以前、傲慢そうな白い貴族を見た時、エレノラに教えてもらったことがある。
その中でも一際目立つ、厳つい男。
先頭に立つそいつは、声を張り上げる。
「私はエイゼン騎士団団長、ウォート・フライデンだ! 今は任務でここに来ている、そこを退いてもらおうか!」
通常、ダンジョンのボスは一度倒してしまうと時間経過によってでしか復活しない。そのためボスの戦利品などを目的としている場合、他の冒険者に先を越されないようにする必要がある。
今回だと、先にボス部屋の前にいた俺たちにボスへの挑戦権がある。というのが冒険者内での暗黙の了解ではある。だが、目の前の男はどうやら公務員様だ。
下手に敵対してもいられないし、任務を邪魔するわけにもいかない。
「あ、そうでしたか! それはどうも。お時間取らせて誠にごめんなさい。お先にどうぞ」
相手が国家権力というのなら、媚びを売ることも忘れない。
コネは力だ。
後方のエレノラの「なんだそのガバガバ丁寧語は」というツッコミは無視する。
同時にクルトたちのパーティを確認してみても、特に異存は無いようだったので、俺がそのまま進めさせていただこう。
「冒険者の割には、中々殊勝な心がけだな。さて、お前ら。行くぞ」
ウォートが命令を下すと、後ろの騎士たちは整然とした動作で軍隊のように歩く。
実際、騎士って軍隊みたいなもんだが。
厳しい訓練を積んできたという自信からか、躊躇せずに彼らはボス部屋の扉を開けた。
何十人はいるだろうし、確かに楽勝ではありそうだな。
「……ふぅー」
その場に騎士の面々がいなくなり、俺とクルトのパーティメンバーだけになった時、皆が一斉にため息をつく。
騎士ってのは、特権階級だ。
いくらダンジョンが無法地帯だとは言え、気を張るのは仕方がないことだろう。
特に、ここには庶民的な感覚を持っている奴が多い。
「なんか、嫌―な感じだったね」
「騎士なんてのは大概あんなもんでしょう」
「騎士様がこんなところに何の用事だろうね」
「さぁ?」
エレノラ、モニカがそんなことを話している。
それは俺たちが気にすることではないな。だが、今後もモンスターを横取りされたらたまらない。最下層のモンスターは、さっさと突撃することにしよう。




