43.ミサが拘束されてたアレ
よろしくお願いします!
「そろそろ許してもらえませんかね?」
俺は、ロープに縛り上げられ、天井から吊るされた状態で許しを請う。
自重によって絞められていくのがだんだん辛くなってきた。痛い。
「ナズナが許しても私は許しませんよ。……というかナズナが何も言わないのが異常なんです」
無慈悲な答えだった。
全く、モニカは何をそんなにキレているんだか。
マリス・ガイドの一件以降、俺の扱いはこの通り、捕虜みたいな酷いものだ。
体中を拘束具で縛られ、解放されている部位は口だけである。
これ、俺みたいな善良な人間にする仕打ちじゃないだろ、名前を書いたら死ぬノートを持ってる奴とかにする拘束方法だ。
モニカと違い、嬉々として拘束をしていたエレノラの姿を思い浮かべ、軽い殺意を覚える。
「それも全部あのマリス・ガイドとかいう奴が悪いんだって。本当に困った奴だよ。俺に悪気は無かったのにな?」
「いや、な? とか言われても知りませんよ。あなた絶対、自分の意志でやったでしょう。今更言い逃れが効くと思わないで下さい」
「おいおい。俺にそんなこと聞いていいのか? このパーティの物資を管理してるのは誰だと思ってるんだよ!」
「言い訳の次は脅迫ですか! どうしようもありませんね!」
「まあ、それも意味を為さないけどね。君を痛めつければ済む話だし」
この声はエレノラか。
相変わらずトチ狂った思考をしてやがる。
「神様が拷問宣言するか? 普通」
「私を狂錬金術師と称したのは君じゃないか。何言ってんのさ」
嗜虐的な声色で彼女はそう告げる。
その笑い声は、人の命を痛みをなんとも感じていないようなものだ。
ラスボスの風格が出てるなオイ。
「そうだ! クルト、ケイン! どうせいるんだろ!」
俺は何も見えないままに野郎共の名前を呼ぶ。
先ほどまで、俺は簀巻きにされながら地面を引きずられていた。天井に吊るされたのはついさっきのことだ。
多分、既にボス部屋前まで来ているのだろう。
したがって、ここに全てのメンバーが揃っている確率が高かった。
「は?」
「なんです?」
クルトとケインの声だ。案外近くにいたんだな。
「お前ら! 知らねぇとは言わせねぇぞ! 俺がマリス・ガイドに操られてた時、お前ら前かがみになってただろうが! 盛ってんじゃねぇ!」
「なななななな何を言ってんだ! そんなわけねぇだろうが!」
「そ、そそそうです! ほら、女性陣の眼が白くなってます、撤回してください!」
あれ、適当言っただけなんだが、案外当たってんのか。
「うるせぇ、道連れだよ! ほらシンシア、グレイ! こいつらが夜中になんかゴソゴソやってたことあったろ! あれ、オカズお前らだからな!」
「ラァァァイィィィンズ!!」
「ちょおおお! やめてくださいってホント!!」
「……マジかー。ケダモノだねー」
「…………」
よし効いてる効いてる。
精神攻撃は基本だからな。
一方、シンシアは本気にしてないようなトーンだ。ニヤニヤしているのが伝わってくる。
逆にグレイは、少し照れているような、そんな雰囲気だな。
「ぶっ殺す!」
「ちちち違いますからね! ただの悪ふざけですよ!」
「あ? なんだケイン。『ちち』なんて、セクハラか?」
「すごい切り口で攻めてきますね!? 頭の中そればっかか!」
ケインは見るからに……見えはしないが、狼狽えているのがわかる。
クルトは……丁度今、良い拳が俺の腹にねじ込まれたところだが、まあ焦っていると言っていいだろう。
モニカや、事情を聞いた気恥ずかしさからか一度も発言していないナズナは、この手の話には積極的に入ってこない。
エレノラはよくわからないが、ひとまず、会話のイニシアチブは握れたと思っていいだろう。
これが頭脳戦ってやつだよ。
「だが、狼狽えるなよ野郎ども!!」
ここで、俺はケインたちを一喝する。
「お前らの(下半身への)情熱はその程度のものだったのか!?」
「「!?」」
俺の言葉にクルトたちは動揺を隠せていない。
「確かに七つの大罪という言葉もある。色欲、強欲、怠惰……色欲、色欲、あと色欲と色欲からなるそれらは、確かに悪だと言えるかもしれない」
「色欲多すぎるだろ。全部覚えてないじゃねぇか」
「だが! 据え膳食わぬは男の恥! 男なら、それは誤魔化すことこそが、さらに大きな罪なのではないか!?」
「なん……だと……!?」
「確かに……!」
ハッ、とクルトとケインは息を呑む。
「そうだ! 目を背けるな! 俺たちはたとえ獣と呼ばれようが、悪魔と呼ばれようが、この矜持だけは捨ててはならないんだ! 女性に媚びを売っていてはならないんだ!!」
「…………」
俺が演説をし終えると、辺りは静寂に包まれた。
足音が聞こえる。どうやらこちらに歩いてきているようだ。
「何を……」
モニカの声が聞こえた。
そしてその直後、ブチリ、と音が聞こえ、体が軽くなる。
拘束具が次々と外れていき、もう何時間か光を忘れていた網膜に、二人の勇士の姿が映った。
「お前の言う通りだラインズ!」
「これは、気づかせてくれたお礼です!」
「お前ら……!」
まるで後光でも差し込んでいるようだった。
この勇者たちは、女性陣の好感度を全て投げ出してまで、俺を助け出してくれたのだ。
どうせ童貞だろうに、苦渋の決断だったろう。
しかし、彼らは晴れやかな顔で俺に手を貸した。
そこに一切の後悔は無いと言わんばかりだ。
「お前らってやつは! もう俺たちは友人なんかじゃない! 兄弟みたいなもんだ!」
俺たちは三人、肩を組みあって荷物が置いてあるところまで歩いて行く。
既にその場にいるシンシアとグレイは、呆れたような表情だ。
「いや、何、いい話みたいに終わらせようとしているんですか」
俺たちの下半身が熱い友情に、水を差すのは白けた面をしたモニカだ。
隣のエレノラはケラケラと笑っているというのに。
「なにか文句でもあるのか?」
「文句があるというか、既に存在していた文句が払拭されていないんですよ」
「その話、メシ食べながらでいいか?」
「どれだけ興味ないんですかあなた!」
「でも、怒ってるのはモニカだけだよ?」
ここで初めて口を出したのが、ずっと顔を赤らめていたナズナだ。
「ナズナ……!」
モニカは悔しそうに歯噛みする。
心中お察しします。加害者だが。
「今回は奮発するからな。早く食べないとなくなっちゃうぞ?」
俺は普段より多めに魔力を込めて召喚魔法を発動した。
それを聞いたモニカは、まず怒りを露わにし……それを飲み込む。
「ああもう! わかりましたよ!」
苛立ちと不本意さを隠しもせず、モニカは駆け寄る。
よかった、誰も悪くなかった。
これで一件落着だな。
「やりきった感出さないで下さい!」
モニカはお行儀よく座りながら叫ぶ。
どうやら、まだ許されていないようだ。




