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42.マリス・ガイド

よろしくお願いします!

 総勢六人での大ゆびすま大会が、既に五十三回戦へ突入しようかといった時。

 今まで一度も敵の攻撃を俺たちにまで届かせなかったガウェインが、ついに取りこぼしをした。


「来るぞ!」


 クルトの鋭く、若干キレ気味の注意喚起。


 しかし、さすがの俺たちも、完全に遊びに没頭していたわけではない。

 放たれたその魔法は簡単に避けられるはずだった。


「あん?」


「え?」


 確かに避けきったはずなのに、浮遊するランタンのようなモンスターが繰り出した光弾は、俺を狙いすましたように軌道を変えた。


 間抜けな呟きは俺だけのものではなく、どうやらナズナも追従性を持つ光弾の餌食となってしまったようだ。

 着弾。そして、光の粒子が弾ける。


 だが、妙なことに俺にもナズナにも外傷は無かった。

 魔法は間違いなく直撃していたのにだ。


「今のはマリス・ガイドだよ! ラインズとナズナが被弾した!」


 エレノラが、何故か深刻そうに叫んだ。

 何を焦っているんだ、そんな大事か?


「まりすがいど? モンスターの名前ですか?」


 クルトパーティの面々も皆、神妙な面持ちをしている中、モニカだけは何が何やらわかっていないようだ。まあ、俺とナズナも置いてけぼりだが。


 あのランタンには、一度は魔法の行使を許した。だが、そこで生じた隙を突いたガウェインは抜け目なく奴を粉々にしている。

 そんなにビビらなくても良いだろうに。


「あいつの魔法は人同士を争わせるんだよ。今、ラインズとナズナは、私たちに攻撃したくてうずうずしているはず」


 エレノラはそんな風に答えた。

 なるほど。仲間同士を戦わせる、悪意の案内人、疑心暗鬼の道標こそが、あのモンスターの本領という訳だ。


 ならこの気持ちも、あの魔法のせいだという訳か。


「うおぉぉぉぉぉ!」


「あ! ラインズがナズナに向かいます!」


「多分、あの二人も味方ではないんだね。……なんにせよ、傷つけないように捕獲しないと!」


「……させろ……!」


「何か言ってるぞあいつ!」


 クルトが喚いている。

 そんなことはどうでもいいけどな。

 俺が見据えるのは、ナズナただ一人。


 既に手が届くほどの距離。だが、近くにグレイが回り込んでいる。

 体術で彼女には絶対に敵わない。

 だから、威嚇のため、せめて精一杯吠える。


「何でもいいからエロい事させろォ!!」


「……!?」


 俺のあまりの気迫に、一歩後ずさりするグレイ。

 その一瞬を見逃しはしない。


 飛び掛かるようにナズナとの距離を詰めた。

 対して彼女は、無感情な眼で魔法を唱えている。


「エレノラ!? 何かラインズ、仲間割れするって感じではないですよ!?」


「なんてこった! 日常的に悪意に満ちているあいつには、今更仲間割れの魔法なんて効果が薄いんだよ!」


 エレノラによるディスり気味のプロファイリングは、大体的を得ている。

 現在、俺の脳を支配する感情は、なんかエロい事したい。それのみだ。


 だから、狙うのはこの場で最もえちえちボディなナズナ。

 どうやら自我を失っているようだし、好きにお楽しみさせてもらおう。


「あんたたちのパーティ、大丈夫? 完全に犯罪者予備軍がいるんだけど」


「大丈夫ですよシンシアさん。私たちは最初からダメだって気付いてますから」


「それは大丈夫ではないね」


 シンシアもモニカも酷いも言い草だ。

 なんと言われようが、俺があの貧乳どもに気を取られることは無いが。

 あ、シンシアは言うほど貧しくはないか。


「さあ、ショータイムだ!」


 俺は身体能力に優れるわけではない。

 いくら虚を突いたと言っても、数秒後には取り押さえられているだろう。


 数瞬が惜しい。迷ってはいられない。今ここで命が尽きようとも、このミッションだけは遂行せねばならない。


「届けぇぇぇぇ!」


 こんなに気持ちが高揚したのはいつぶりだろうか。

 旧魔道生物研究所でもラッキースケベは発動したが、それは数瞬も楽しめなかった。

 今こそ雪辱を晴らす時だ。


 俺は少し大きめであるはずの魔法使いのローブが、はち切れんばかりになっている胸部を見据える。

 このおっぱい様と、こんなに距離が近くなったのも研究所での冒険ぶりだろう。

 どうも、ご無沙汰しています。


「『ファイアボール』」


 ナズナが攻撃魔法を完成させた。

 マズい。あと数秒もしない内に、それは発射されてしまうだろう。


 また、俺は終わってしまうのか?

 何度も味合わされた寸止め。ここでも同じことの繰り返しか?


 いや、そんなことは望んじゃいない。

 せめて一揉みなんて考えてはいけない。最後までやり遂げるんだ。


 これは、今までの童貞人生との決別だ。


「『縮地』!」


 グレイが使っていた、モニカが習得したと話していたアーツ。

 俺はまるで覚えようとしていなかったが、『主人公補正』が俺の決意によって覚醒させてくれたのだろう。


 火球が、俺に向かい放たれる。

 だがそれを、常人には到達しえない速度でもって回避し、俺はナズナの背後に回り込む。


「これで終わりだぁぁぁぁ!!」


 念願のおっぱい様。

 研究所での一件以降、俺がどれだけこの瞬間を再び待ち望んでいたか。


 俺の両手が、ナズナの巨乳を包み込む。

 否、むしろ、俺の両手が包み込まれたと言ったほうが適切か。


 この世に存在するどんな物よりも柔らかで、優しい感触。

 二度目だとしても、この天にも昇るような気持ちに飽きが来ることは無い。

 沈み込んだ指を動かそうとすると、それは確かな弾力や、圧力によって阻まれる。

 マシュマロのような……いや、そんな陳腐な表現はしてはならない。

 このおっぱい様に失礼だ。誠意が無い。


 どれ程そうしていただろうか。

 実際は、数秒しか経っていないのだろう。

 ただ、俺にはそれが永遠にも思えた。


 モニカが喚く声も、ケインが目を背ける様も知覚していたはずなのに、手から伝わるそれ以上の感触は、俺の頭を白く塗り替えてしまう。


「……」


「……ッ! 『閃花』!」


 だから、俺に近づくグレイとモニカに気が付きもしなかった。

 体中をダガーの峰で撃たれようと、グレイに蔑んだ目で見られようと、この幸福感を消すことはできない。特に後者は割とご褒美だ。


 冷静に考えると、この後の人間関係の悪化とか色々やっちまった感がないでもない。

 だが、そんなことは些事だろう。


 今は辛いことを忘れ、ただなすがままでいよう。



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